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学校日和2  作者: めろん
123/235

第123回 出会い日和

 冷たい風の吹く帰り道、白いコートを着て赤いランドセルを背負っている栗色の髪の少女、リンは、


「……なんでついてくる、ですか?」


つかず離れず隣を歩く黒いコートを着た黒髪の少年、ユウに、この冬の季節の気温に負けないくらい冷たい視線を向けた。


「おまえこそ、ついてくるな」


するとユウは、まだ新しく見える黒いランドセルを背負っているくせに、随分とさめた表情で、彼女の方を見もせずに冷たく言い返した。


「この道、リンのつうがくろ、です」


「きぐうだな。俺もだ」


「……ついてこられるのがいやなら、リンより先に行くか、後から帰ればいい、です」


「なんで俺がおまえのつごうに合わせてやらなければならない? と言うか、むしろおまえがそうすればいいだろ」


なんと言うか、小学一年生らしくない小学一年生ズである。


「このペースで帰れば、リン、ベストなタイミングで"イガグリのおたけび"が見られる、です」


どうやら、謎なタイトルのテレビ番組を見る目的があるらしいリン。


「きぐうだな。俺もだ」


お前もか。


「あのイガグリのイガは、はんぱねぇ、です」


「ああ、はんぱなくしぶいな」


渋みを理解した小学一年生は、何やらテレビの話題で盛り上がる様子もなく盛り上がる。

タイトルから判断して、主人公のイガグリのイガが、二人曰く半端なく渋いらしい。


「でも、何ものかにさつがいされた、です」


主人公、死亡。


「まあ、黒まくはあの納豆だろ」


犯人、浮上。


「うらで糸を引いていた、ですね」


「納豆だけにな」


おあとがよろしいようで。


「……それはそうと、あなたといっしょにいると、リンがひがいをこうむる、です」


 どうやらサスペンスものらしい、主人公が被害者というなんとも斬新な設定のテレビ番組の話題をぶった切り、リンは話を最初に戻した。


「は?」


たいして興味を示しているわけでもないが、ユウが疑問符を浮かべると、


「"アイらぶユウ隊"とか、ふざけた名前を名乗る三人組に、なぜかトイレで滝うちしゅぎょうみたいなことをさせられる、です」


リンは、さらりとそう言った。


「させられたのか?」


ので、ユウは聞き返す。

ただし、それは彼女を心配しての言葉ではない模様。


「まさか。となりの個室から、何食わぬ顔で出ていってやった、です」


リンは、再びさらりとそう言った。


「……おまえ何ものだ?」


詰まらなそうな顔をしつつも、どうやったら隣の個室から出てこられるのか疑問に思うユウ。


「リンは痛くもかゆくもないから別にかまわない、ですが、めんどうなのは、きらい、です。とくに、今日は」


そんな彼に、リンはランドセルを背負い直しながら、


「アイらぶユウ隊のバレンタインチョコを、あろうことか、あなたはクラスの男子ABCにゆずっていました、ですから」


と、相変わらずの無表情で言った。


「? ……ああ、何か知らんがあいつらがほしがってたからな」


「気持ちがこもったチョコレートをもらったのに、かのじょたちの目の前でいやがらせ、ですか?」


「は? いやがらせしてきたのはあっちだろ?」


「……?」


何を言っているのか分からない様子のリンに、


「あんなまずいものを食えとか、ありえないだろ」


ユウは、さらりとそう言った。


「……。そんなことを言っていると、痛い目みる、ですよ?」


彼女たちの手作りチョコを全否定しているのか、それとも単純に甘いものが嫌いなのか、リンはそんなことを考えている途中で、後方から近づいてきた気配を察知して警告した。


「は? ――!」


その意味を理解する前に、ユウは何者かに右斜め後方から突撃された。


バシャーン!


ゆえに、川沿いを歩いていた彼は、川の中に弾き落とされた。


「ほらみたことか、です」


川に落ちた彼を見て、ノーリアクションなリンと、


「やば、やりすぎた?!」


「ほ、ほっとけよ、あんなやつ!」


「オレたちのことバカにするからわるいんだよ!」


顔を青くするといったリアクションを示すクラスの男子ABC。

好きな女の子の名前とともに"ユウくんへ"とバッチリ書かれたバレンタインチョコを彼に渡されるという、なんとも屈辱的なことをされた彼らは、そのまま逃げるように走り去っていった。


「よそう外のことがおきたためにあせってもくげきしゃを放っておくとは、つめがあまい、ですね」


走り去る彼らの後ろ姿を見て、まあ別に告げ口なんかする気はないけど、とか思いながら、流石はサスペンスもののテレビを見ているだけあるような言葉を口にするリン。


「だいじょうぶ?!」


バシャーン!


「?」


その直後、リンの隣を何者かが駆け抜けていったかと思ったすぐ後に、背後で水に飛び込んだ音が聞こえてきたので、彼女は不思議に思って振り向いた。

――すると、


「……。おまえが、だいじょうぶか……?」


「う、わ、わ?! ぼ、僕っ、そう言えばおよげないんだった!!」


そこには、水面から頭を出してぽかんとしているユウと、川で溺れている見知らぬ白髪の男の子がいた。












「けほこほ……っ、あ、ありがとう」


 助けようとした彼に溺れているところを助けられ、その上彼女に岸にあがるところ手伝ってもらった少年は申し訳なさそうにお礼を言った。


「およげないのに、どうしてとびこんだ、ですか?」


そんな彼に、行動には実力を伴わなければならないという厳しい現実を理解させる意味を込めてリンが問うと、


「……ごめんなさい……」


彼は、しょぼんとうなだれて謝った。


「っ!?」


よって、言葉で表現することの出来ない胸の奥の痛み――良心の痛みを初めて覚えるリン。


「……あやまらなくていい」


「え?」


突然の痛みに混乱し、彼女が背中を向けて胸を押さえている時、ずぶ濡れのユウにも、何かの変化が起きていた。


「たすけてくれて、ありがとう」


ユウが、笑った。


「え? そ、そんな! 僕の方こそ! たすけてくれてありがとう、えっと……?」


ユウにお礼を言われ、慌ててもう一度お礼を言い返した彼は、発言の途中で疑問符を浮かべた。


「ユウだ」


「……リン、です」


「ユウと、リンだね。僕はアオイ。よろしくね」


昨日この町に引っ越してきたんだ、と付け足しつつ、彼、アオイは、二人に自己紹介をした。

――こうして、彼らは出会ったのであった。


≫≫≫


「みーつけた!」


「ふあ?!」


 大きな木の幹にぽっかりと空いた穴の中に隠れていた彼を発見したアオイは、


「あれ? 寝てたのミント?」


驚いて起き上がったミントを見てそう尋ねた。


「え? えっと……そうみたい」


すると、ミントは帽子を被り直しながらぎこちなく答えた。


「ごめんね。僕が探すの下手だから」


ので、退屈させてしまった責任を感じたアオイが、申し訳なさそうに謝った。


「へ?! あ、いや、か、かくれんぼの途中なのに寝ちゃったオレが悪いんだよっ?」


ゆえに、慌ててフォローする、かくれんぼの途中で寝た不届き者、ミント。


「アオイ」


「見付けた、ですか?」


「あ、ユウ、リン。うん、今見付けたよ」


「では、これで終わり、ですね」


アオイの元にやってきた二人を見て、


「……ねえ、イガグリのおたけびって、知ってる?」


ミントは、先程見た妙にリアルな夢に出てきた謎番組のことを質問してみた。


「「は?」」


「あ、や。やっぱなんでもないよ。あはははは……」


すると二人が聞き返してきたので、やはりただの夢だったんだと思うミント。


「お前、あれを知ってるのか……!?」


「あの、傑作を……?!」


「……はい?」


が、ユウとリンは、驚いたような、それでいて仲間を見付けて喜んでいるような目をミントに向けてきた。


「え、えーと、イガグリのイガが最高に渋いっていう……?」


「「仲間」です」


試しに言ってみたところ、ミントはユウとリンにがっちり手を握られた。


「イガグリのおたけび?」


彼らの隣で、仲良しな三人を見てくすりと笑いつつ、謎なタイトルに小首を傾げるアオイであった。


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