第122回 まとも日和
授業変更や行事のことなど、今後の予定とお知らせが張り出されているウサギさん寮の掲示板の前にて、
「……」
「……」
「……」
「……」
ミントとプリンとココアとポトフは、ある一点に視点を集中させていた。
「だしもの……ふむ、味噌汁か?」
「だし違いだバカヤロォ」
「か、各自がグループを作ってそれぞれ自由にだしものをするだなんてー……」
「なんてまともな学園祭なんだ……っ!」
そのある一点、学園祭のお知らせを見て、プリンは疑問符を浮かべてポトフは突っ込みを入れてココアとミントは驚いた。
「む? じゃあ、だしってなんだ?」
「そりゃお前……えーとォ……わっしょーい?」
プリンとポトフがだしについて間違った解釈をしている隣で、
「クー先生……大丈夫かな?」
「うん……熱とか出して頭がまともになっちゃったのかなー?」
ミントとココアは、失礼な心配を募らせていた。
ぱーんぱーんぱーんぱーん
学園祭のお知らせが掲示された次の日、お空に花火が打ち上げられた。
「わは〜、即興でやれってか〜」
まさかと思って学校の外に出てみたのだが、そのまさかの学園祭翌日決行に、もう笑うしかないミント。
「って、ええー?! 普通に考えてまだみんな何も考えてないでしょー!?」
「む、わたあめ屋さんだ」
「あっちには焼きそば売ってるぜェ?」
「かき氷屋さんもあるね」
「ノリよすぎだろみんなー?!」
びっくりしている隣で、プリンとポトフとミントが、自分たちが今いる玄関へ続く階段の下から始まるグラウンドにたくさん開かれているだしものを指差したので、ココアは頭を抱える羽目になった。
「あーもー、だしものって何やればいいのー?」
「ベタにいきたいけど、飲食店はほとんどもう他のみんながやってるしねぇ」
「それにこっちには枕もいるしなァ」
「むっ、どういう意味だっ!」
「「うんうん」」
「――!?」
喧嘩腰で聞き返したところでミントとココアが頷いたので、衝撃を受けたプリンは、
「……」
ちーん、と落ち込んだ。
「飲食店はなしってことにしてー、そーすると他に何があるかなー?」
「んー……あ! ココアちゃんがお姫様で俺が王子様とか!」
「却下」
「はい、プリン」
「! わー! ありがとうミント!」
だしものを考えるココアとポトフと、落ち込んだ友人にプリンを差し出すミントと、プリンを貰ってたちまち機嫌を直すプリン。
「えェ? じゃァ、ココアちゃんが王子様で俺がお姫様?」
「だから劇はやりたくないってば……って、なんで逆にしたのー?!」
「おいしい?」
「うむ!」
という具合に四人がごちゃごちゃしている間にも、他の生徒のみなさんは、楽しそうにものを売ったり買ったり。
「飲食店も劇もなしってなるとォ……」
「なんかもーいいやって感じだねー?」
「別に絶対だしものをやらなきゃダメってわけじゃないしねぇ」
そんな彼らを見て、ポトフとココアとミントが早くも開き直りムードに突入しかけていると、
「……む?」
プリンを食べ終えたプリンが、ちょっと待ったというように小首を傾げた。
「でも、売り上げが最下位のグループは、一ヶ月間校内の掃除とか敷地内の手入れとか食堂の手伝いとか、そんな雑用をすることになっているぞ?」
ザ・罰ゲーム。
「待とう? 校内の掃除って、どんだけ広いか分かってる?」
「うむ。地下三階の七階建てで、計十階だな」
「えっとー、敷地内っていうのはー?」
「うむ。このセイクリッド島全域だな」
「食堂の手伝いとなるとォ……」
「うむ。全員が食べ終わるまで食べられないな」
こっくんこっくん頷いて、プリンがさらさら答えると、
「さあ考えよう!」
「えっと、さっきまでの話で飲食店と劇はなしだよねー!」
「となると、他には何があるんだろォなァ!」
ミントとココアとポトフは慌てて再び考えだした。
「む。アリさん」
その隣で、プリンは足元のアリさんを観察しだした。
「他……他には……」
「うーんとー……」
「学園祭って、普通どんなことをやるんだァ?」
うーんと首を捻るミントとココアに、ポトフがそのように質問すると、
「そーだねー、やっぱり飲食店やったり小物店やったりっていうイメージだけどー」
「うん。それで他には劇とか展覧会とか演奏とかライブとか――」
「「あ」」
答えの途中で、ミントとココアは顔を見合わせた。
「? あ?」
何が"あ"なんだァ? と、ポトフが疑問符を浮かべると、
「ウッドウォール!」
ミントは地面に左手をつけて魔法を唱えた。
ぶわっ!!
すると生まれる、玄関と階段を囲むような小規模な森。
「ココア!」
「うん! シャドウエッジ!」
その森の手前と奥の一部だけを、ココアの闇魔法が切り裂いて、
「ポトフ、客よせ!」
「お? お、おォ?」
ミントに腕を引かれて、ポトフはわけも分からず切り裂かれた奥の一部、このステージの入り口へと移動した。
「ねー、プリンー?」
「む?」
その間、アリさんを観察していたプリンに、ココアはにっこり笑ってお願いした。
「歌って?」
バケツプリンをちらつかせながら。
綺麗な歌声とうっとりとした視線と悔しそうな視線で満ちたステージの入り口に、
「大成功だねー」
「満員御礼だねぇ」
ココアとミントは、入場料がいっぱい入った箱の隣に立っていた。
「この歌って、風の歌のパートと光の歌のパートがあったんだねー」
「"俺この歌知ってる"って言ってポトフがいきなりステージに上がって別パート歌いだしたからびっくりしたねぇ」
いつものごとく、ココアとコーラを頂きながら。
彼らの言葉通り、今、玄関先の階段のステージには、プリンとポトフが立っていて、二人一緒に歌を歌っている。
「綺麗な歌だねぇ」
「うん。かっこいいねー」
彼らの歌声を聞いてミント言うと、ココアはうっとりそう言った。
「あ」
が、すぐにはっと我に返ったココアは、
「あは、そうだね、かっこいいねぇ?」
「ち、違うよバ」
にやりと笑ったミントに何かを否定しようとしたところ、
ギッ!!
「っ、……ご、ごめんなさい」
複数のお客さんに睨み付けられ、おとなしく謝った。