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学校日和2  作者: めろん
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第117回 黒髪日和

「異世界ぃ?」


 街の中を歩きながら、ウェーブのかかった胸の辺りまである黒髪と茶色の瞳をもつ少女がびっくりフェイスで聞き返すと、


「この辺り全体的に魔力が全然感じられないし、あのクー先生が棄権の仕方まで教えるくらいだからね」


少しくせのついた黒髪に白いガーゼのついた眼帯をした彼が、頷いた後でそう言った。


「? 棄権の仕方なんて言ってたっけー?」


その言葉に、彼女が小首を傾げると、


「"ヒトに魔法を使っているところを見られたら強制送還"、詰まり、ヒトに見てもらえば学校に帰れるってこと。で、前におにィさんが言ってたんだ。"僕の住んでいる世界では魔力が使える人なんていない"って」


先生の言葉を聞いていないようで実は聞いていた彼がさらさらと説明した。


「あそっかー。ポトフのお兄さんは異世界の人だったねー。えーとー、それで、魔法を使ったらダメってクー先生が言ったのは、こっちに魔法を使える人がいなくて、むしろ使える方が珍しい人になっちゃうからで、その上、この辺り全体的に魔力が感じられないから、ここは異世界だって判断したってことー?」


「ココアちゃん頭い〜♪」


「ひゃわあ?!」


頭に手を当てながら彼女、ココアがまとめると、彼、ポトフは彼女をぎゅーっと抱き締めた。


「……あ、頭で思い出したんだけど、なんで黒くしたのー?」


「ん? 魔法♪」


「いや、んなこた百も承知なんだけどー」


が、他のことが気になったせいか、魔法が使えないという条件のせいか、いつものようにぶっ飛ばすことなくそのままの公衆の面前を歩くココア。


「俺は元々のココアちゃんの方が可愛いし綺麗だし大好きなんだけど、この世界では黒髪と茶色の瞳が主流らしいから」


「……。じ、じゃー、眼帯変えたのもー?」


「そ。あの黒い眼帯をしてるのはタルに入った黒髭のオッサンだけみたい」


「……タルに入った黒髭のオッサンー?」


彼の言葉に顔を赤くしつつも、謎な発言にココアは疑問符を浮かべた。


「!」


が、またしても他のことが気になった模様。


「わあ! 可愛いー!」


「お?」


通りかかったお店の中のガラスの向こうに積まれたぬいぐるみに興味を示したココアと、


「じゃァ、入ってみよっか?」


「え? でもここ異世界なんでしょー? お金使えるのー?」


「大丈夫。何故か同じお金使ってるから」


「ええ? そなの? じゃー、このお札のオッサンの謎はこの世界で解けちゃうかもー?」


「あっは、フクザワって何者なんだろォね?」


「顔立ちもなんか違うよねー」


「名前が漢字で苗字が先だし」


「ニホン銀行券って印刷されてあるしねー」


知らない人物がプリントされた、異世界なのに共通という摩訶不思議極まりないお札の謎について会話しながら、ポトフはお店の中に入っていった。













 ガタンゴトンと電車が走り過ぎ、街が少し静かになると、


「で、ここは異世界だと」


「うむ」


ゴミ袋の上に座りながらミントが確認して、プリンはこくりと頷いた。


「それでプリンがオレの髪を真っ黒にしてくれたと」


「うむ」


「しっかしプリンって髪黒くして目を茶色にするとポトフにそっくりだね」


「うむ」


テンポよくこっくりこっくり頷いている途中で、


「む? ――そ、そっくりじゃないっ!」


プリンははっとして否定した。


「れ?」


が、ミントは別のことに気を取られていた。


「ね、あれポトフじゃない?」


「だ、だから僕と馬鹿犬を一緒に―…」


「いや、そうでなくて。あのお店にいるの、ポトフと……ココア、かな?」


プリンの後方を指差しながら、ミントはぷりぷり怒っている彼にそう言った。


「む?」


彼の指に従って、後ろを振り向いたプリンは、その先にポトフとココアらしき人物を確かに発見した。













 クマさんがぽとっとクレーンから落ちて、ポトフの頭もがっくりと落ちた。


「うーん、もーちょっとなのにねー」


「……カッコ悪ィ……」


クレーンゲームの前で落ち込むポトフと、その隣で苦笑いを浮かべるココア。

そんな彼らを、かっこいいとか可愛いとか言いながら遠巻きに眺めるお客さんたち。


「馬鹿か貴様は」


「「?」」


と、そこへ、


「そんなところで支えられる筈がないだろう。全体のバランスを考えろ」


「わは〜、変な機械〜」


プリンとミントが現れて、お客さんたちは更に騒ぎだした。


「! ミント!? プリンも髪真っ黒ー!」


「えへ♪ プリンに魔法で染めてもらったんだ〜」


「んだと枕?!」


「一度で聞き取れ馬鹿」


しかし、そんなことはアウトオブ眼中な四人。


「っ、じゃァ、テメェがやってみろよ!」


「む? 別に構わないが、これで僕が出来たら貴様の面目丸潰れだぞ?」


「でも、プリンに元の色の方が好きって言われて」


「あ、それ私もポトフに言われたー」


ぎすぎすな二人とほのぼのな二人。


「なんかプリンにそう言われたら、ちょっとだけあの髪のこと嫌いじゃなくなったかも」


「うんうん。だってあれが本当のミントだもんねー」


「っの……やれるもんならやってみろォ!」


「ふ、上等だ」


和やかな雰囲気のミントとココアをよそに、ポトフがズビシっとクレーンゲームの機械を指差して言うと、プリンは不敵に笑って応えてみせた後、


ぽすっ


「取った」


「え、一発でー!? プリンすごーい!!」


難なくクマさんをゲットして、ココアがぱあっと瞳を輝かせた。


「……照れる」


「ねね、じゃー、あのブタも取れるー!?」


「む? ブタさん?」


ウイーン


ぽすっ


「はい」


「きゃー! すごいすごーい!」


余裕なプリンと、はしゃぐココアと、


「……俺カッコ悪……」


「げ、元気だしてよポトフ?」


落ち込むポトフと、励ますミント。


「……俺なんて……どうせ俺なんて、何やったって枕に勝てねェんだ……」


「そ、そんなことないってば……ほら! 体育と家庭科は余裕でポトフの方が上だし!」


「それは詰まり魔法学と語学と数学と理科と社会科と音楽と技術と美術は枕の方が上ってことだよな?」


「へ?! い、いや、そうではなくて……」


「はァ……やっぱりどォせ……どォせ俺なんて……」


「って、ああもう」


店の隅で体操座りしているどんよりポトフに、


「そんなんじゃ、プリンにぬいぐるみどころか景気よくココアまで取られちゃうよ?」


ミントはさらっと何やらうまい感じのことを言い放った。


「――!!」


衝撃。


「ココアちゃんは、誰にも渡さねェェェェェ!!」


後、復活。


「……。単純だねぇ」


たちまち復活してすぐさまプリンに真っ向勝負を挑んだポトフを見て苦笑いを浮かべながら、ミントは外にある販売機でコーラを買いに行くのであった。

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