第116回 理想日和
カンカンと踏み切りの音が響く街の中、高いビルに囲まれた路地の片隅で、
「いっ……たぁ〜……」
金髪美少女、チロルは目を覚ました。
「――!」
直後、彼女の視界のど真ん中に、ピンクと黒のストライプのネクタイ――ウサギさん寮の生徒の印であるネクタイが飛び込んできた。
(こ……これは……!)
うつぶせに倒れている自分の状態から判断して、自分は誰かの上に乗っかっている状況にあることを知る。
(もしかしてっ! もしかしなくてももしかして――?!)
何かを期待してか、彼女はその金色の瞳をきらきらに輝かせ、色の白い頬を赤く染めながら、ネクタイのその先にある、自分の下にいる人物の顔へと彼女の顔を向けた。
「ぅ、……む?」
そこには、今しがた目を覚ました、これでもかと言うほどに整った顔があった。
「……」
「……」
「「……」」
金と青の視線がバッチリぶつかって、流れたのは数秒の沈黙。
「っなんでアンタなのよおおお?!」
「むぅ、重い。チロルちゃん退いて」
後、魔法学校のその他大勢の女子生徒ならしないであろう反応と、魔法学校のその他大勢の男子生徒ならしないであろう反応を、それぞれチロルとプリンが同時にしてみせた。
「しかもなんでちゃん付けなのよおおお!?」
「む? 女の子にはちゃんをつけろと父が」
ばばっと飛び退いたチロルと、起き上がってローブについたしわと汚れを払うプリン。
「アタイは、アタイはミントきゅんとペアになりたかったのに〜〜〜!!」
「うむ。僕もミントとペアになりたかった」
「アンタなんてお呼びじゃない〜みたいな〜!!」
「うむ。僕も別に呼んでない」
そして更にその他大勢の生徒ならしないであろう言葉を、片やお怒りの表情で、片や無表情で交わした後、
「っ、フンだっ!」
「? どこに行くんだ?」
「ミントきゅんを探しに行くに決まってるでしょ! アンタとペアなんてノーキディング〜みたいな!!」
古典的な表現を用いてくるりとプリンに背を向けたチロルは、すたすたとその場から去っていった。
「……? ミントを探しに?」
小さくなっていく彼女を見ながら、プリンは小首を傾げていた。
「ミント、ここにいるのに」
そして、彼の隣にあった、ミントの魔力を感じられるゴミ袋の山の中に目を向けた。
ゴミ袋を退けて、プリンがまだ目を覚ましていないミントと既にご対面していることも知らずに、
「ミ〜ントきゅ〜ん?」
チロルは、彼の名前を呼びながら、見知らぬ街の中を歩き回っていた。
「……。ヒトを指差すだなんて、失礼しちゃうみたいな」
道行く人々に時たま指を差され、ぷくっと頬を膨らませながらも、
「それにしても、随分と黒髪が多いわね〜?」
視界に入った彼らを見て、珍しそうに呟いた。
「んぅ?」
他にも見慣れない柱やお店や建物などをきょろきょろ見回しつつミントを探していると、歩き始めてからしばらくして、彼女は初めて見慣れた人物を発見した。
「……う?」
ヒト気のない公園の片隅で、優しい風に撫でられ、彼女は濃い桃色の瞳をゆっくりと開いた。
「お目覚めですか、お姫様?」
すると、目の前には見知った顔が。
「ん、おはよーポト……」
くしくしと目を擦りながら目覚めの挨拶をした直後、
「……ふえ?」
ココアは、目を擦っている体勢で固まった。
「……」
そして目から手を離して、もう一度ゆっくり目を開けてみた。
「おはよォ、ココアちゃん♪」
そこには、やっぱり見知った顔が。
「……」
彼の顔から視線を外し、横になっている自分の頭の下にあるものを見る為、頭を上げてそこを見てみると、
「……うで……」
ココアは、自分が腕枕してもらっていたことに気が付いた。
「……」
沈黙。
「……」
バフッ!!
後、赤面。
「ひっ、ひゃいああああああああああああああ?!」
自分の状況を理解したココアは、奇声をあげながら近くにあった木の向こう側へダッシュ。
「な、ななな何っ、な、なな何するのよーーー!?」
後、ひょこっとこちらに顔を少しだけ出しつつ、どもりまくった言葉で質問をした。
「何って、腕枕」
そんな彼女を見て面白そうに笑いながら、上体を起こしたポトフはさらりと答えた。
「そっ、そんなことは分かってるのーーー!!」
彼の様子に腹を立てつつココアが叫ぶと、
「? 他のことはなんにもしてないけど」
ポトフは素敵に笑ってこう言った。
「……何かして欲しかった?」
「っ!!」
ので、
「か、カバーーーー!!」
赤い顔を更に赤くしたココアは、お腹の底から力いっぱい叫んだ。
「あっは、ココアちゃん逆ぎゃく♪」
「うっさいこのカバカバカバーーー!!」
という具合にいちゃこいているココアとポトフを見て、
「百点満点みたいな……」
ポトフのキャラをミントに求めるチロルであった。