第115回 転送日和
「お誕生日おめでとう、ミント」
汽車に乗り込み、友人のいる個室を発見したプリンは、素敵に笑って誕生日をお祝いした。
「あは、ありがとプリン」
すると、にこっと笑い返してお礼を言った後、
「でも四月一日が誕生日って、今更ながら嘘で生まれてきたみたいだよねオレ」
自分の誕生した日にちを考えて苦笑いした。
「ぷゆ?」
すると、向かい側の座席に座ったプリンが、ぷゆ? と疑問符を浮かべた。
「……」
今更ながら、何故にプリンが半濁音をやたら用いるのか不思議に思いながら、
「四月一日はね、エイプリルフールって言って、んーと、嘘をついてもいい日? なんだよ」
ミントは、自信のない感じの説明をした。
「む? 嘘ついたら、め」
それを聞いたプリンは、小首を傾げながら応えた。
「いやまあ普通はそうなんだけど今日は特別と言うかなんと言うか?」
まともな発言ではあるのにどこかまともでない発言を聞いて、ミントが苦笑いを浮かべていると、
「ふむ、そうなのか」
プリンは納得した様子で頷いた。
「……では、これから僕の言うことは嘘だ」
後、そう明言した。
「へ?」
「と、言ったら、さてさっきの僕の言葉は嘘? 本当?」
きょとん顔で聞き返してきた友人に、プリンが問題を出すと、
「え? えーと、これから僕の言うことは嘘だって言ってるんだから、本当? あれ? でも本当だったら嘘だっていうのが嘘になるから……いやでも嘘だったら嘘だって本当のこと言ってるし、って、あ、あれえ?」
「ふふふ」
考えれば考えるほど混乱するミントを、プリンが楽しそうに眺めていると、
バァン!!
「ハッピーヴァースデーイ!!」
個室の扉が勢いよく開き、ポトフが勢いよく飛び込んできた。
「ミント――」
「うっさいちょっと黙ってて」
そしてミントにガバーッと抱きつこうとしたところ、彼にさらっと止められた。
「――?!」
パリーン!!
ので、ポトフのガラスハートが砕け散った。
「いちいち煩い」
聞こえる筈のない効果音まで聞き取ってしまい、ぼそっと文句を言うプリン。
「……久しぶりに会ったのに会うの超楽しみにしてたのになのになのに……」
抱きつき攻撃を止められた立ち位置の都合上、プリンの隣の席に座り込んだポトフは、席の上でどんよりと体操座りをし、頭にキノコを発生させた。
(きのこ……!)
彼の頭に生えたキノコにキラッキラな興味をもったプリンは、それを取ってみたいという衝動に駆られ、気持ちの赴くまま、そのキノコに手を伸ばした。
「おっはよ―…」
「おはよォ、ココアちゃァん!!」
スカッ
「ぴわ!?」
が、ココアの登場によりポトフのテンションが急上昇した上に彼が彼女に抱き付いた為、プリンはキノコの収穫に失敗した。
森と砂漠と山と川と海を越え、大陸から見ると小さな島に辿り着いたのは、真っ黒な蒸気機関車と国立セイクリッド魔法学校の四年生。
「えっと、だから嘘だってのが嘘で、でもそしたら本当で……」
「……ぶう、きのこ……」
「ちょっと降ろしてってばもーっ!」
「オッケイ任せてココアちゃァん♪」
ミントが引き続き答えの出ない問いについてぶつぶつ言って、プリンがキノコを取れなかったことでご機嫌斜めになって、ココアが顔を赤くしながら腕の中で暴れて、ポトフが先程とは打って変わってエイプリルフールを満喫していると、
『はーい、みんなー! 久しぶりだね!』
拡声器から、クー先生の声が流れ始めた。
「嘘が本当で本当が嘘で」
「……ぶう、きのこ取りたかった」
「だから嘘じゃなくて真面目に言ってるのが分かんないのー?!」
「うん、超分かる♪」
しかし、四人は彼女の話を聞いていない。
『いつも同じだとマンネリしちゃうよね? だから、今回は新しいことをやってみようと思うの!』
が、クー先生も彼らに気が付いていない、と言うか、気にしていない。
『てなわけで、今からそれぞれ二人一組になって』
だが、この言葉には反応したらしく、
「コっコアちゃ〜ァん♪」
「ふやーーー?!」
「「ミント!」きゅん!」
ポトフとココアが騒ぎ、プリンと、どこからともなく現れたチロルがペアになりたい彼の名前を同時に呼んだ。
「む……」
「……何よ?」
バチィッと火花を散らし始めた二人の間で、
「えーとだから詰まりえーとんーと」
ミントは、未だに思考をめぐらせていた。
『自力で学校に帰ってこられたら百点満点だよ! ただし、人に魔法使ってるとこを見られたら、その時点でアウト! 強制送還だからね!』
その間、説明を進めていたクー先生は、にっこりと素敵な笑顔でそう言うと、
『じゃ、行ってらっしゃ〜い♪』
両手を高々と上げて空中に大きな魔方陣を出現させ、その魔法で生徒たちを課題の舞台へと送り込んだ。