第113回 朝食日和
朝早く起きて、いつものごとく朝食を用意した後のこと。
ガチャガチャ
二階に上がって向かい合う二つの部屋、シャーンとジャンヌの部屋のドアを開けたミントは、
ポイポイッ
何やら大きめの植物の種をそこに投げ入れた後にドアを閉め、廊下の真ん中で両耳を塞いだ。
カッチカッチ
ドカーン
名付けて、ミント流、強制目覚まし術。
「おはよ」
「「……おはようございます……」」
『……む〜……』
彼がさらりと挨拶すると、黒焦げ家族が顔を出した。
イスに座って両手を合わせ、頭を下げてご挨拶。
「いただきます」
お行儀よく挨拶した後、左手で箸を持ち、ミントの静かな朝食が始まった。
「おかしいまろ!! 絶対おかしいまろ!!」
「いいえ、おかしいのはマロ様の方です!!」
「何言ってんのよ? おかしいのはウチでしょ?」
「いや認めちゃうのかよ」
『む〜! む〜!!』
ただし、静かなのはミントだけであって。
その他の黒焦げ族の方々は、朝で、しかも寝起きだというのにも関わらず、いつものごとく元気にやかましく騒いでいた。
「だから、ぜぇ〜ったいおかしいまろ!! 目玉焼きにかけるのは、マヨネーズが常識まろ!!」
という、定番のネタで。
「……」
ああ、タマゴにタマゴかけてどうする、とか突っ込みが入るヤツだね、とか思いながらも、敢えて突っ込まずに黙々とごはんを食べるミント。
「何を言いますか!? 目玉焼きにはドラゴンの血が一番でしょう?!」
マヨネーズ派のマロに食ってかかるフラン。
「……」
お前は本当にドラゴンマスターか、とか思いつつ、お味噌汁をいただくミント。
「あんたこそ何言ってんのよ? 目玉焼きには墨汁に決まってるでしょ?」
ファンタジーなフランに意見するは、ミントママ、ジャンヌ。
「……」
食べ物に食べられない物をかけるな、と、ご尤もな意見を抱きながら、サラダをいただくミント。
「別に何かけたっていいだろ? まあ俺はソース以外はありえねえけど」
平和主義と見せかけ、はたし状を叩き付けるミントパパ、シャーン。
「……」
まったくもってどうでもいい、とか思いながら、漬物に箸を伸ばすミント。
『む〜! むむむ〜!』
ケチャップを頭の上に乗せて何かを必死に訴えるむぅちゃん。
「……」
ケチャップの重みでちょっと潰れてるむぅちゃんすらスルーして、再びごはんを食べるミント。
「フッフッフッ。甘いな。目玉焼きにはチョコレートに決まってるだろ」
すると、突然現れたのは、新たな参戦者、死神。
「……」
確かに甘いな、とか思いながら、チョコレートがかかった目玉焼きを想像してしまい、大幅に食欲を損なうミント。
「マヨネーズまろ!!」
かければいいじゃん。
「ドラゴンの血です!!」
だから、かければいいじゃん。
「唾液よ!!」
汚いよ。
「それはわざわざ事前にかけなくても口の中で誰しもやることだ」
珍しくまともだよ。
『む〜む! むむ〜!!』
だから、かければいいじゃんってば。
「ホイップクリームも捨てがたいな」
それは捨てろよ。
そんなミントの心の中での突っ込みが炸裂するも、当然それは彼らの耳には聞こえないわけであって。
「マヨネーズ!!」
「ドラゴンの血!!」
「歯磨き粉!!」
「お前、別にこだわりねえだろ」
『むむっむ〜!!』
「蜂蜜もチョベリグ〜」
お互いに一歩も譲らない黒焦げ族とプラスα。
「『むむむ……っ』」
まさに、一触即発の睨み合い。
「……」
己の食についての好みとプライドをかけてバチバチと火花を散らす彼らの目の前で、
ちょー
ミントは、目玉焼きに醤油をおかけになった。
「……」
「……」
「……」
「……」
『……』
マロとフランとジャンヌとシャーンとむぅちゃん、沈黙。
「ナウいな」
死神、古い。
「ごちそうさまでした」
何食わぬ顔で醤油がかかった目玉焼きを食べ終えたミントは、自分の箸と茶碗と皿を重ねて台所へと消えていった。
「……」
「……」
「……」
「……」
『……』
「……」
「……。食べよまろ」
「……はい」
「そうね」
「おう……」
『む〜……』
「フッフッフッ。オレ様の分がない」
こうしてブライト家の朝食は、平和に終わるのであった。