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学校日和2  作者: めろん
112/235

第112回 計画日和

 豪華絢爛なアラモード邸の一室で、天蓋つきの広々としたベッドから枕を抱えたまま上体を起こした彼、


「? 日付?」


寝惚け眼のプリンは、寝癖が立ち放題の長い水色の髪を気にも留めずに、疑問符を浮かべながら小首を傾げた。


「いやそれデートだから、って、あれ? 変わんないや」


それに突っ込みを入れようとしたものの、珍しく失敗してしまったミントが、


「そっちのデートじゃなくて、違う方のデート……って、わけ分かんないね。んー、なんて言えばいい、ポトフ?」


「まァ、率直に言うと、明日は一日ムースちゃんとらぶらぶするってことだな。ほら、チケット」


どう説明すればいいのか助けを求めると、ポトフはさらりとそう言って、寝起きプリンに一枚のチケットを差し出した。


「……わんだー……ぱーく? ぷわ……どうして?」


ワンダーパークという名の遊園地のチケットを受け取った後、むにむにと眠たそうに言うプリンに、


「どうして? って、帰りの汽車の中で言われただろォ?」


「"本当に一回もデートしたことないの?!"ってココアとチロルに。そしたらキミが頷いたから"じゃあホワイトデーは二人の初デートで決まり!"って話になって」


「そしたらコックンコックン頷いてたじゃねェか?」


ミントとポトフが呆れたように小さく息を吐いた後にさらりと理由を説明した。


「……?」


そんな話したっけ? 的な表情のプリン。


「……。まさか」


「プリン……」


「「……寝てた?」」


いやーな予感がしたので恐る恐るポトフとミントが尋ねると、


「うむ。恐らく」


プリンはこっくり頷いた。













 彼氏側が幸先の悪すぎるスタートを切っている頃、


「あ、あの……で、デートというものは、どのような格好で行けばよろしいのでしょうか……?」


海の近くの豪邸の一室で、ムースがおずおずと質問した。


「そりゃー」


「オフコース!」


すると、ココアとチロルは互いに顔を見合わせて頷いた後、


「可愛く!」


「出す!!」


同時に別のことを自信たっぷりに答えた。


「……? "だすいく"……?」


悲しいことに、思い切りタブって聞き取ってしまったムース。


「……。出す、って……何を出すのよー?」


疑問符を浮かべたムースをよそに、ココアがチロルに尋ねると、


「出せるところは出す! これってコモンセンス〜みたいな〜!!」


彼女は自信たっぷりにそう答えた。


「そしてそして〜、彼をその気にさせたらこっちのウィンっ♪」


「その木……どの木でしょうか?」


「あーあったま痛い……」


何やら危険なことを言っているチロルと、きょろきょろと部屋に置いてある観葉植物を見回すボケボケなムースに頭を抱えるココア。


「……まー兎に角ー、自分なりにオシャレしていけばいいと思うよー?」


チロルの危険な口を押さえながらココアが言うと、


「! 分かりましたわ!」


ムースはぱあっと顔を明るくして、少しここでお待ちになって、と言い残して部屋から出ていった。


「……はー、何? ミントとデートする時はいっつも露出狂なわけー?」


 立派な扉が閉じると同時に口を解放したココアが尋ねると、


「と〜ぉぜんっ!」


えへんと胸を張って答えるチロル。


「成程ー。となると、ミントはだいぶ強敵と言うかかなり鈍いと言うかむしろよく平気で一緒に歩いてられると言うか……」


顔もスタイルも抜群な彼女をしげしげと眺めながらぼそぼそ呟くココア。


「ココアは出さないの?」


そんな彼女の視線を気にも留めずに、チロルが質問を返すと、


「ふえ?! えー……えー……っとー……ふ、普通だよ、普通ー!」


矛先が自分に向かうとは思ってもみなかったのか、びっくりフェイスでココアが答えた。


「フツー?」


「う、うん。普通ー」


「ホントに〜?」


「ほ、ホントだよー」


じーっと見つめてくる彼女に、冷や汗を掻きながらココアが言うと、


「ふぅん。今のアタイとおんなじような格好なわけね? 詰まんな〜い」


「う、うん――って、はいい?!」


とチロルが言ったので、彼女は思わず聞き返した。


「どうしたの?」


「い、いやいや、だから私はそんなに出さないってばー!」


小首を傾げた相手に慌ててココアが訴えると、


「? 何言ってるの? これだけしか出してないじゃない?」


チロルは更に首を傾げた。


「え? ええ?! えええー!? じゃ、じゃー、デートの時はそれ以上に露出してるわけー?!」


「へ?! も、もしかしてココアってば、これっぽっちも露出しないわけ!?」


「「えええ!? 信じらんなーーーい!!」」


 と、何やらお互いに驚き呆れていると、


ガチャ


「こ、このような感じでよろしいでしょうか?」


彼女なりにめ一杯オシャレをしてきたムースが部屋に戻ってきた。


「……」


「……」


同時にそちらに目を向けた二人は、固まった。

――何故ならば、


「わあ、どこかのお姫様〜みたいな?」


「うんうん。真っ赤なドレスで情熱的ー」


「ココアに言われた通り、耳飾りも首飾りも腕輪もきらっきらでおっしゃれ〜みたいな?」


「そんでもってチロルに言われた通りに背中もばっくりあいててとってもセクシーって言うか」


「「どこに行くおつもりですかお嬢様?」」


彼女がパーティードレスも足元に及ばないような、すこぶる派手な格好で現れたから。


「何をおっしゃってますの? 遊園地とやらに決まっておいででしょう?」


ご尤もな質問が冗談に聞こえたのか、ふわふわセンスを口元にかざしながらウフフと笑って見せた後、


「あ、そうですわ。ココアさんとチロルさんに、もうひとつお聞きしたいことがあるのですが」


思い出したようにこう尋ねた。


「護衛の者は何人ほどつければよろしいのでしょうか?」












「服は、まあ、遊園地だし普通でいいと思うよ」


「うむ」


「あとは最低でも十分前行動な?」


「えー」


「"えー"じゃねェ」


 一方その頃、ベッドの上に座っているプリンは、ミントとポトフの説明を聞いていた。


「レディを待たせるなんて許されねェと思え」


「……ぶう」


「あと、使う言葉も気を付けなきゃだね」


「ぷえぇ?」


「欠伸も絶対すんなよ?」


「むむ……」


「居眠りなんかもってのほかだからね?」


「ぷわ!?」


「その枕も持っていくべきじゃねェな」


「ぴわわ?!」


が、説明を聞くに連れて、だんだんと顔が青くなるプリン。

なかでも、どうやら一番ご尤もなポトフの最後の意見が強烈だったようで。


「でも、枕がないとゴマ化しちゃうんじゃない?」


「いやでもデートに枕持ってくヤツってどうなんだァ?」


「まあ、それもそうなんだけど……」


「うーん、やっぱりあれだな」


「うん」


枕を持っていくかどうかで少しの会議を設けたミントとポトフは、


「「もうそろそろって言うかいい加減枕離れしろ」」


プリンを見据えてそう言った。


「ヤ」


が、あっさり拒否。


「"ヤ"じゃねェ」


「ヤー」


断固拒否。


「長音符つけたら、って、ああもう」


ぷいっとそっぽを向いてしまったプリンに、


「……そんなに嫌?」


「うむ。ヤー」


「どォしても?」


「どうしても」


「「ど〜〜〜しても?」」


「ど〜〜〜してもっ」


一応は粘ってみたものの、やっぱり彼は枕を手放す気はないらしい。


「……はァ、じゃ」


「しょーがないね」


二人が溜め息をつくと、


ぽふっ


「む? ミント宛て」


同時に、プリンと彼らの間に手紙が出現した。


「オレ?」


ので、それを受け取り早速内容を読んだミントは、丁度いいとばかりにポトフに目配せし、


「「デート中止」」


ポトフとご一緒に、チロルからの手紙に書いてあった一言を読みあげた。


「む! ほんとう!?」


「そこ。喜ばないの」


「ふふふ、はーい」


こうして、プリンとムースの初デート計画は敢えなく失敗に終わってしまったのであった。


「……つか、なんで枕放すのが嫌なんだよ?」


「ふふふ、ないしょ」



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