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学校日和2  作者: めろん
111/235

第111回 ウフフ日和

 学年末テストも終わって春休み。

視界に入ると取り敢えず飛び付いてくる金髪ガールと正論で突っ込む割には助けてくれない間伸び口調ガールと仲がいいくせに仲が悪そうな双子ボーイズとお別れしたクリスマスボーイ、ミントは、王都シャイアにある庭付き一戸建ての赤い屋根の家に荷物を引きながらやって来た。


「ただいまー」


溜め息もつき飽きたのか、至って普通に帰宅時の挨拶を言いながらガチャリとドアを開けると、


「あ! おかえりなさいませ、ミントさん!」


可愛らしいカエルがどでかくプリントされた緑色のエプロンをつけたシルクハットボーイ、フランがパタパタやって来て、メイドさんのごとく出迎えた。


「……。随分とかわゆいエプロンだね、フラン?」


バッチーン☆ とウインクしているカエルさんを見ながら言うミント。


「あ、え、ええと、これは決して僕の趣味ではなくてですね? 先日、マロ様と夢魔様がわざわざ僕の為に買ってきてくださったものでして……」


若干顔を赤くして、さりげなくカエルさんを手で隠しながら説明するフラン。


(フランって、いいひとなんだね)


とか、恥を覚悟の上でそのエプロンを身につけた勇者を見て思うミント。


「ほ、ほら! このカエルさんの下側半円形の口がポケットになっていてとても実用的――」


「フラン、もう頑張らなくていいよ?」


「――うっ……ありがとうございますミントさん……っ」


必死にカエルさんエプロンのいいところを探している彼にミントが言うと、フランは口を右手で押さえて感謝した。


「ところで、エプロンつけて何してたの? あと他の連中は?」


そんな彼の隣に移動して背中を優しく叩きながら、ミントがふと思ったことをそのまま口にすると、


「あ、はい。マロ様と夢魔様はジャンヌ様とご一緒にお出掛けになられていて、シャーンさんはお城でお仕事をなさっています。そして僕はミントさんが今日のお昼にお戻りになるとシャーンさんから聞いたので、以前ミントさんに美味しいとおっしゃっていただきました特製ハンバーグを作っていました」


フランはつらつらと質問に答えた。


「! わ! あのハンバーグ!?」


「はい、あのハンバーグです」


ぱあっと顔を明るくしたミントに、フランはにこりと笑って彼をテーブルへとご案内した。


「フランが作るものってなんでも美味しいけど、あのハンバーグは特に美味しいよね〜!」


「ありがとうございます」


「ね、どうやって作ってるの? 材料に秘密があるとか?」


そちらに向かいながらミントが問うと、


「はい。作り方は至って普通ですが、材料には秘密がありますよ」


にこやかに答えるフラン。


「? 秘密って?」


席につき、ナイフとフォークを手に取りながら尋ねるミント。


「ウフフ、知らないほうがいいですよ?」


するとフランは、それはそれは素敵な笑顔でそう言った。


「……え?」


「ウフフ」


そんなに素敵な笑顔を見せられたら食べにくくなるんだけど、とか思いながら固まっている途中で、


「あれ? フラン、手袋に青い液体が」


ミントは、彼が手につけているぴっちりとした白い手袋が汚れていることに気が付いた。


「はい? ああ……ただの返り血です。お気になさらず」


すると、フランはさらりとそう言った。


「返り血……」


返り血って時点で"ただの"じゃないって言うか今そんなことを言われたら目の前にある肉はまさか……? とか、様々な思考をめぐらせているミントをよそに、


「ウフフフフフフフフフ」


フランはただただお上品に笑っていた。










 青い返り血が気になってハンバーグの味を楽しむどころではなかったものの、取り敢えず昼食を終えたミントとフランは、ミントの部屋に移動した。


「あ、ねえ、フランってまだ弟子入りしてるの?」


「はい! ジャンヌ様は、こんな僕にメルヘンの極意を教えてくださいますからね! 掃除しろとか炊事しろとか洗濯しろとか肩揉みしろとか風呂沸かせとか溶けろとか!」


ベッドに座ったミントの質問に、椅子に座ったフランはキリッと答えた。


「……」


(いいように使われてるなぁ……)


そんな真っ直ぐな彼から目を逸らして窓の外を見るミント。

なんかもう、つらくて。


「そのおかげで僕もマロ様も夢魔様も、ちょっとですけど、溶解出来るようになったんですよ」


心を痛めている彼に気付くことなく、フランは嬉しそうに報告した。


「へ……へえ、よかったね!」


ちょっと?! ちょっと溶けちゃったの!? って言うかむぅちゃんも溶けちゃったの?! とか心のうちで三連突っ込みをかましながら上っ面だけ同調してみせたミントは、


「そう言えば、どうしてマロ"様"?」


彼の言い回しに小首を傾げた。


「あ、はい。マロ様は、僕が産まれた世界では第10ステージ――最後のボスキャラ、詰まり、魔王様なんです」


「?! 魔王!? マロが?!」


あのちんちくりんピエロが!? とか、非常に失礼なことを思いながら驚くミント。


「はい。ちなみにアオイさんとリンさんとユウさんとウララさんは勇者様ご一行で、ワタルさんは第9ステージのボスで、僕は第8ステージのボスをやらせていただいてました」


「は、はへ〜」


フランの説明を聞き、なんなんだそのロープレ的な世界は、とか思うミント。


「あれ? じゃあ、どうしてむぅちゃんに"様"?」


「はい。それは夢魔様がマロ様の一番のご友人、というのもありますが」


ミントの問いに、フランはにこりと笑って、


「ミントさんは、裏ボス、というものをご存知ですか?」


と、質問で返した。


「え? ……あ、えーと、確か、一般的にストーリーにはほとんど関してないけどラスボスよりも強い……って」


その質問に答えた直後に、


「ウフフ、よくご存知でいらっしゃる」


「……え? まさか?」


ミントは質問の意味にハッとした。


「ウフフ、さて、どうでしょう?」


「え? 冗談? それとも本当なの?」


「ウフフフフフフフフフ」


「いやだからその笑いはなんなのさあああ!?」


丸くて小さくて耳が長くて足が短いつぶらな瞳が特徴であるマスコット的なむぅむぅ鳴くあの魔物は、はたして何者なのか。

答えは、フランとマロと、むぅちゃんのみぞ知る。


「フッフッフッ。オレ様も知ってるぞ」


「ってどっから出てきたのさワタル?!」



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