第107回 お約束日和
大海原に浮かぶ二つの大陸の丁度真ん中に位置するセイクリッド島には、森をはじめとする様々な自然が溢れている。
その自然のうちのひとつ、荒波叫ぶ海岸にそびえたつ岩山の入り口の先に広がる海底洞窟に先程入っていったミントとプリンとココアとポトフの四人は、
「きゃああああああ!?」
「うわああああああ?!」
洞窟に入って早々、物凄い速さで落下していた。
「んで入った瞬間こんなことになるんだァァァ?!」
「馬鹿か貴様は? そんなこと、入る前から分かっていたことだろう」
今の状況に叫ぶポトフに、
「ここは"海底洞窟"だぞ?」
プリンはさらりとそう言った。
「あァ成程そら落ちるわ」
「ってそんな簡単に納得しないでよって言うか海底に行くんだとしてももうちょっと方法あると思うでしょ普通ーーー?!」
ポンと手を叩いたポトフにココアが叫び突っ込みをかますと、
「――はっ!? えらい調子よく納得するとこだった!! おい、落ちる前からこォなるって分かってたならなんとかしろよ枕!?」
はっとしたポトフが、まさにまっ逆さまに落下しているプリンに向けて叫んだ。
「テレポートはもといる場所が固定されていないと使えないと何度言えば学習するんだ貴様は?」
すると、彼はさらりとそう言った。
「あ、そっか」
「ってだからそんな簡単に納得しないでよって言うか分かってたのに考えなしだったのプリンーーー?!」
再びポンと手を叩いたポトフに、ココアが盛大な叫び突っ込みをかました。
「ジャックと」
そんな愉快な仲間たちの会話に珍しくツッコミ役として参加せずにいたミントは左手を大きく振りかぶり、
「豆の樹!」
落下した先にあるであろう地面に向けて、左手に出現させた種を投げつけた。
ぼわーん
「「!?」」
すると、四人は、地面に当たって物凄い勢いで急成長した巨大な豆の樹の先端の巨大な葉っぱの上に、トランポリンのごとく何度かはね返ってから着地した。
「……ふう」
「あ……あああありがとうミントー!!」
「ありがとォ、助かったぜミントォ!!」
「うむ。ありがとう」
「どういたしまして」
心の底からお礼を言ってきた友人に、額に掻いた汗を拭いながら応えるミント。
「ホントに死んじゃうかと思ったよー……」
「うむ。僕も」
「"僕も"じゃねェェェ!!」
「あは……。じゃあ、取り敢えず降りてみよっか」
元気な彼らに笑ってみせつつ、ミントは豆の樹に指示を出した。
巨大な豆の樹によって安全に海底洞窟に着地したミントは、
「わは〜、真っ暗だね〜」
辺りを見回しながら素直な感想を述べた。
「うむ。この辺りの海底は全体的に深いからな」
冷静なことを冷静に言いながらも、ミントのローブをしっかりと握っているプリン。
「きゃ?!」
「! ココアちゃん!?」
珍しくココアの方からひっついてきたので驚いたポトフは、
「プリズムソード!」
彼女が怖がらないように、慌てて光の剣、プリズムソードを出現させた。
「大丈夫?」
それによって明るく照らされたココアに、ポトフが心配そうに声をかけると、
「う、うん、ありがとー。大丈夫だよー。なんかさっき急に寒気がして……」
彼女は顔を上げてそう応えた。
「――はっ」
直後、今の状況に気付いて横を向くと、
「……はっ」
その先にいた、ミントに鼻で笑われた。
「ちっ、ちちち違うもーん!!」
「はいはい分かりやした」
顔を赤くして何かを否定した彼女をミントがさらりと受け流すと、
「っもー、ミントのバカっ!」
ココアはぷりぷり怒りながら歩き出した。
カチッ
「かち?」
そしてそのままぷりぷり歩いていると、足元からおかしな音が聞こえてきた。
「……」
そっと足を上げてみる。
「……」
そのままの状態で数秒間停止。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
「……」
すると、後方から不吉な音が聞こえてきた。
「……み、みんなー?」
ので、ギギギと三人に顔を向け、
「ごめーーーーーん!!」
「ごめんで済むかああああ?!」
「わー、おっきい」
「って言うとる場合かァァァ?!」
と謝ると、ゴロゴロと転がってきた大きな岩から逃げる為、彼らと共に死ぬ気で走り出した。
「だってまさかこんなベタな罠があるはと思わなかったんだもーーーん!!」
「確かにベタな罠だけどそれに引っ掛かるココアもベタだよねえええ!?」
「む。前方に分かれ道」
「これまたベタですなァァァ?!」
ベタな展開に会話しながら必死こいて逃げていると、四人はこれまたベタな展開に遭遇した。
「え? え!? え?! どうするのどうするの右? 左? 右ーーー!?」
「うああ……この展開からするとどっちかはあの岩に引き続き追い掛けられちゃうんだよね?!」
「ベタベタだなオイィィィ!?」
「ふむ。そうなのか」
そうこうしているうちに右か左かの決断の時が訪れた四人は、
「あー」
「もう」
「むう」
「おし」
と、半ばヤケクソに意を決し、
「「右!!」」
「「左!!」」
ベタに二手に分かれてしまったのであった。