第105回 お昼寝日和
緑豊かな森の中、暖かな日差しが差し込む日溜まりにて、
「いい天気だねぇ」
『なんだなぁ〜♪』
真ん中で綺麗に分かれた赤と緑の髪を隠すようにいつものごとく帽子を被っているミントと、彼の召喚獣、グリフォンのσ(シグマ)が、木々の間から見える青い空を見上げてそう言った。
「こんな日に森にいると、なんだか眠くなっちゃうよねぇ」
『なんだなぁ〜♪』
ミントがくりっとしたライトグリーンの瞳をとろんとさせると、σがもともととろんと半開きになっていた目を更にとろんとさせた。
『!』
が、再び元の半開きに戻ったσは、黒く大きな翼をバッとひろげ、
『フェザーショット! なんだなぁ〜♪』
ズドドドドドドドドド!!
前方に現れた大型の魔物数体に向けて勢いよくはばたき、それはもう、羽がなくなっちゃうのではないかと思うほどの勢いで無数の羽鉄砲をお見舞いした。
「……森は好きだけど、魔物がいるからねぇ」
『でもオイラはご主人様に呼んでもらえるから嬉しいんだなぁ〜♪』
ありがとう、と、大きな黄色いクチバシを撫でながらミントが言うと、σは翼を折り畳みつつ、嬉しそうにそう言った。
「……」
それを聞いたミントは、
「そう言えば、召喚獣って召喚術師に呼ばれるまではどこで何をしてるの?」
と、ふと思ったことを質問してみた。
『家でゴロゴロしてるんだなぁ〜♪』
すると、思わぬ解答が返ってきた。
「……………………家?」
σパパとσママを想像しつつ、たっぷりと間を置いてから聞き返すミント。
『ご主人様たちとは異空間の、オイラたち召喚獣が住む場所のことなんだなぁ〜♪ ちなみに、オイラたちにパパとママはいないんだなぁ〜♪』
鷹の漆黒の頭と翼をもったたくましく大きな獅子の姿に似合わず、大きな瞳を半開きにしてのんびりとした口調で家の説明をしつつ、さらりとご主人様の心を読んだσ。
「え? そうなの?」
『オイラたちは全部で24体で、それ以外はいないんだなぁ〜♪』
「へえ、じゃあ、二人の召喚術師が同時に同じ召喚獣を呼んだらどうなるの?」
説明を聞きながら、新たな疑問を抱いたミントが小首を傾げると、
『その場合は、より好きなご主人様の方に行くんだなぁ〜♪』
σは、もちろんオイラはご主人様のところに行くんだなぁ〜♪ と付け足しながら彼に頭を擦り付けた。
「あは、ありがとσ」
主人になついた犬のような行動をしているσの頭を、ミントがよしよしと撫でていると、
『な!』
σが急に全身の毛を逆立てて固まった。
「!? σが目を半開きじゃなくて全開いてる?!」
ミントが驚きポイントをやや外していると、
「ふふふ、ふさふさ」
背後から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ、プリン?」
「うむ。僕はプリンだ」
振り向いた彼に、プリンはこくりと頷いてみせた。
「……って、何掴んでるのさ?」
「しっぽ!」
σの尻尾を掴みながら。
『あ〜や〜や〜!! は〜な〜し〜て〜なんだなぁ〜!!』
すると、σが気の抜けるような叫び声をあげた。
「む?」
「あは……プリン、はなしてあげて」
小首を傾げたプリンに、
「σ、尻尾が弱点で、掴まれると動けなくなっちゃうんだ」
ミントは困ったように笑いながらそう言った。
「む、そうなのか」
それを聞いたプリンが、尻尾を握っていた手をはなすと、
『……ほ』
σはほっとして毛と瞳を元の状態に戻した。
「……わー……!」
それを見て、青い瞳をキラキラに輝かせたプリンは、
ギュッ
『な!』
パッ
『ほ』
ギュッ
『な!』
パッ
『ほ』
「って遊ぶな遊ぶな」
てな具合にσで遊んでいたところ、ミントにさらりと注意された。
「ふふふ、面白い」
『……獅子肌にも鳥肌なんだなぁ〜……』
それを了承した様子で彼の隣に移動したにこにこプリンと、どんより涙目になったσ。
「ごめん。お詫び」
そんなσの目の前に、プリンはぴりっとフタを開けたプリンを置きながらそう言った。
『?』
クチバシにある鼻を近付けてそのにおいをかいでみた後、
『……?』
クチバシを入れてそれを食べようとしたものの、容器が小さい上にクチバシが大きい為、食べられない。
『? ! ……? ! ! ……?』
そうして、σがプリンと悪戦苦闘している時、
「そう言えば、どうしてここに?」
「む。魔科学が終わって食堂に行ったらミントがいなかったからミントの魔力を辿ってここにきた」
ミントとプリンは大きな木の下に座ってお話ししていた。
「あれ? もう授業終わってたの?」
「うむ。終わってたの」
ミントの問いに、同じ調子で答えるプリン。
「そうなんだ……。探してくれてありがと、プリン」
くっそう植物学ティーチャーめ放置ですか、とか思いながらミントがお礼を言うと、
「……照れる」
プリンはいつものごとく枕で顔を隠した。
「あは、……あ、確か次って、休講だよね?」
そんな彼を見て笑いつつ、ミントが思い出したように言うと、
「む? そうなのか?」
プリンはぴこっと小首を傾げた。
「うん。ポリー先生のピノキ花粉症が酷いみたいで」
その問いに答えた後、
「てなわけで、お昼寝しよっか」
ミントはにこっと笑って提案した。
「! うむ!」
そうして、木に寄りかかるようにお昼寝を始めたミントとプリンの前で、
『! ! ……食べられないんだなぁ〜……』
σはしょんぼりと肩を落とすのであった。
そう言えば今日で一周年じゃんとか思って慌てて書いたお話でしたー。
……?
この話のどこが一周年記念なのか?
……。
毎度ご愛読ありがとうございます!
ではまた!!(逃走




