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学校日和2  作者: めろん
103/235

第103回 双子日和

「詰み」


 パチンと駒を将棋の盤に打ちながらプリンがさらりとおっしゃると、


「うにゃァァァァァ!!」


ポトフは猫のような叫び声をあげながら盤の上の駒をめちゃくちゃにした。


「貴様は狼男だろう」


その叫び声を聞いて素朴な疑問を抱いたプリンに、


「もォ一回だ枕ァ!!」


ズビシィっと指さしながらポトフが挑戦状を叩き付けた。


「む……そんなに僕に負けたいのか?」


「んなわきゃねェだろ?! こちとら勝つ気満々だぞテメェェェ!!」


呆れたような目を向けてきた彼にポトフが怒鳴り突っ込みを入れると、


「む!? そうだったのか?!」


プリンは素で驚いた。

恐らく彼に、悪気はない。


「っ……このヤロ……人バカにしやがって……っ!」


が、当然のごとくバカにされたと受け止めたポトフは当然のごとく悔しそうな声を発した。


「む……では」


悔しそうな彼を目の前に、プリンは申し訳なさそうに、


「僕、六枚落ちする?」


と、自らハンディキャップをつけようかと提案した。

恐らく彼に、悪気はない。


「……。……お……お願いシマス……」


が、ポトフが素直にお願いしたので、


「うむ。分かった」


プリンは自分の駒を最初から六枚なくすというハンデつきで、再び彼と将棋を始めたのであった。


「ぴわわ……詰み……」


「っだァァァァァァ!!」


恐らく彼に、悪気はない。














「♪」


 ポトフが有利極まりない状態からあっけなくプリンに負けた頃、ミントはコーラがたくさん入った袋を抱えて上機嫌で廊下を歩いていた。


「れ?」


が、途中で柱の陰に見覚えのある人物を見付けたミントは、


「アセロラ?」


と、彼の名前を小首を傾げながら呼んでみた。


「!?」


すると、彼はびっくり仰天といった様子でバッとこちらを振り向いた。


「こんなところで何してんのさ?」


彼の様子に構うことなくミントが質問を口にすると、


「い、いえ、ちょっとした個人情報を収集していただけです」


アセロラは手に持っていた怪しげな手帳を指さしながらそう答えた。


「それってだいぶちょっとしてないよね?」


とか突っ込みながらも、アロエも同じことやってる上に趣味だからまあいっか、と何やら彼の行動を受け止めたミント。

が、恐らく、まあいっか、で済ませられることではない。


「それにしても、僕の存在に気が付いたのもそうですが、よく僕がアロエではなくアセロラだと分かりましたね?」


彼が自己完結していると、アセロラは驚いた様子でそう言った。


「あはは、双子とは言え、男の子と女の子の違いくらい誰だって分かるよ」


「いえ、ミントさんが初めてです」


「って、えええ?!」


すると、今度はミントが驚く羽目になった。


「そ、そうなの?」


「はい。こうして何度かここに来ているのですが、一度も僕だって気付かれたことはありませんよ」


「へえ……って、何度かここに来て何してんのさ?」


「いつも同じ範囲の人間を観察していたら飽きるでしょう?」


「あは……成程……」


飽きるとかそんな理由で国境を越えてきたのかこの人は、とか思ったミントは、


「あれ? じゃあ、アロエは今あっちの学校に言ってるの?」


と、ふと思ったことを聞いてみた。


「はい。ですが、妹があちらに行くと、大抵消し炭になっているバジルさんが焼却炉から発見されるんですよね」


「はあ、生理的に受け付けないんだね」


「外見はまあいいとして、中身があれですからね」


「うんうん」


何やら今頃バテコンハイジュ校にバジルのくしゃみが木霊していそうな会話の途中で、


「あ。そう言えば、どうしてアロエとアセロラは別々の、しかも国違いの学校に行ってるの?」


ミントがバジルの話題をどこかに投げ捨てた。


「ああ、はい。それは、僕たちの両親が……」


「!」


するとアセロラが突然うつ向いたので、まずいことを聞いてしまったのか、とミントが気まずい心境に陥った。


「"国立は学費がお得だけど制服が同じだと区別がつかない"とのことで」


直後、アセロラは、ほどけていた靴紐を結び直しながらさらりと答えた。


「っ……さいですか……」


靴紐を縛っている彼を蹴り飛ばしたくなった気持ちをミントが無理矢理抑え込んでいると、


「まあ、僕と妹は二卵性の双子のくせに顔も背丈も似てる上に僕の声変わりと妹の二次性徴があまりかんばしくないことも手伝って」


「ロックンロール!!」


「「?」て、うわあ?!」


アセロラの言葉を掻き消すように、呪文と巨大な岩がミントに向かって飛んできた。


ドゴオオオオオオオン!!


「あ、ミントさんが」


岩にぶっ飛ばされたミントに、アセロラが薄ーいリアクションを示した。


「ったた……はっ! コーラ?!」


ガシィ!!


吹っ飛ばされて倒れていた状態から起き上がると同時に、ミントはガシィと胸ぐらを掴まれた。


「あ、よかった。コーラ無事だった―…て、あれ?」


抱えていたコーラの無事を確認した後に、只今の事態に気付くミント。


「ぱ、パセリ?」


「ミント=ブライトてめえええ!! ミスおサルさん寮のチロルちゃんとミスウサギさん寮のココアちゃんだけでは飽きたらずミスヘビさん寮のアロエちゃんまでも手にかける気かあああああ?!」


「わは〜……なんかオレが超悪い男に聞こえる〜」


怒りの形相のパセリに苦笑いを浮かべていると、


「……ああ。彼はいつだったか、泣きながら逃げるミントさんを必死に追い掛け回しながら"唇をよこせ"と叫んでいたパセリ=ジュース……」


「なんで知ってるのとかそんなこと今はどうでもいいとしてなんかすっごい誤解招くよその発言?!」


アセロラの呟きが聞こえてきたので、ミントは透かさず突っ込んだ。


「ヒトはいつどこで誰に見られているか分かりませんからね」


アセロラはそう言って眼鏡をかけ直した。


「そんなことより、僕は男性と女性とを間違えるような失礼な方と」


後、彼は氷のように凍てついた瞳と右手をパセリに向け、


「とある人物を思い出させるような地属性魔法を使う方は許せないんですよね」


その瞳のごとく凍てつく魔法をお見舞いした。


「アイスエイジ」


パキンッ


彼の声と共に、パセリは一瞬にしてパキンと凍りついた。


どさっ


「……大丈夫ですか、ミントさん?」


「あ、う、うん。ありがとうアセロラ」


氷像と化したパセリの手から落ちたミントは、アセロラにお礼を言った後、


「あの……バジルとアセロラって友達じゃないの?」


と、冷や汗を掻きながら聞いてみた。


「はい? ……ああ」


すると、


「大親友ですよ」


アセロラは、にっこりと笑ってそう答えた。


「そ、そだよね。って言うか一緒! 男の子と女の子を間違えるヤツって許せないよね!!」


「はい。灰も残らないくらいに滅びればいいと思います」


「だよねだよね?!」


素敵な笑顔が真っ黒だった気もしたが、バジルだし、まあいっか、なノリで、ミントはアセロラと仲良く男性と女性とを間違えるような人物について語り合うのであった。


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