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学校日和2  作者: めろん
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第10回 平伏日和

 階段を上って、爽やかな朝の光が差し込む食堂の入り口をくぐった少女は、一人の少年の後ろ姿を捕え、ぱっちりとした金色の目をこれ以上ないほどに輝かせた。

動悸がして、自然と息も苦しくなる。

これは、彼女が運動不足だからではない。


「……よし! 今日もバッチリよ、チロル!」


ローブのポケットから取り出した手鏡で、ポニーテールにした金髪に乱れがないか確認し、服装にどこかおかしなところは無いかチェックした後、


「おっっっはよ〜〜!! ミントきゅ〜〜〜ん!!」


彼女、"チロル"は、愛しの彼、ミントの元へと駆け出した。


ドガアアアアアアアン!!


 直後、静かな食堂に轟音が鳴り響いた。

勿論、これはチロルが立てた足音ではない。


「「?!」」


この時食堂にいた者は、食堂のおばちゃんも含めて、轟音の発信元に無言で目を向けた。

そこからは、こっちは食事中だというのに、もうもうと粉塵と爆煙が上がっている。


バサリ


 大きな羽音と共に突風が巻き起こり、粉塵と爆煙は一瞬にして晴れた。


『グオオオオオオオ!!』


「「って、ドラゴンんんん?!」」


そして姿を現した巨大な魔物、ドラゴンが雄叫びをあげた直後、その場にいた者は悲鳴をあげて食堂から逃げ出した。


『むむっ!』


が、その中で正反対の行動を示す者が一匹。


『む〜!』


プリンに抱えられていたむぅちゃんだけは、彼の腕の中から飛び出し、あろうことか、ドラゴンに向かって走り出した。


「! むぅちゃん!」


「何してんだバカ枕!?」


「何やってんのさ、二人とも?!」


むぅちゃんを追い掛けたプリンの腕を掴んでポトフがそれを止めると同時に、彼の腕にミントの薔薇の鞭が絡み付き、


ぐわんっ


「おわ?!」


「ぴわ!?」


二人はミントに釣られたように、食堂の入り口の方に引き戻された。


『む〜』


 その間にドラゴンの元に辿り着いたむぅちゃんは、短い右前足を上げ、ドラゴンに向かって挨拶をした。


『グオ』


「「!?」」


すると、ドラゴンも片手を上げて挨拶を返した。

ドラゴンが挨拶をしたことに、逃げ遅れたミントとプリンとココアとポトフの四人が驚いていると、


タッ


「……探しましたよ。こんな所にいらっしゃったんですか、夢魔様?」


ドラゴンの背中から、ミントたちと同い年くらいの少年が飛び降りて来て、華麗に着地した。


『む〜』


「"む〜"じゃないですよ。此処は異世界で、しかも貴方は小さくて探すのが大変なんですから、あれほど勝手な行動は控えるようにと―…」


彼はむぅちゃんをやんわりと叱っている途中で逃げ遅れた四人に気付き、そちらに顔を向けた。


「!?」


驚いて固まっている四人を見て、少年は驚きに目を見開いた。


「……そ……それはもしや……薔薇の鞭……!!」


少年は震える声でそう呟いた後、感極まって、


「女神様あああああ!!」


と叫びながら駆け出し、ミントの足元に平伏した。


「ええ?!」


少年の行動に、ミントは驚いて思わずのけ反った。


「ワット!? 何よあんた?! ミントきゅんに平伏していいのはアタイだけ〜〜〜みたいな〜〜〜!!」


その隣に、チロルも平伏した。


「ええええ!?」


飛び入り参加してきた彼女に更に驚くミント。


「……ミントにそんな趣味が……」


そんなミントに、じとっとした視線を向けるココア。


「ココア?!」


このままだと自分の趣味を誤解されかねないと思ったミントは、


「ああ、お目にかかれて光栄です女神様!! はっ! 申し遅れました!! 僕はフラン……"フラン=スパン"と申す者です!!」


「い、いや、あの、えと、フランスパンさん? 人違いではないですか? って言いうか、オレ、男なんですけど」


困ったように笑いながら、しゃがんで少年、フランに話し掛けた。

ちなみに、チロルに関しては面倒臭いので無視した。


「え、ええ!? 貴方はメルヘンの女神様、ジャンヌ様ではないのですか?!」


すると、フランは驚いたようにガバッと顔を上げた。


「……。…………。……………………ジャンヌ?」


長い沈黙の後、彼が口に出した名前をゆっくりと聞き返すミント。


「はい。ジャンヌ様です」


こくりと頷くフラン。


「……あー、その人なら、王都市・シャイアにいますよ? たぶん」


と、ミントが教えると、


「マジですか!?」


「マジですよ」


「そ、その都市に行くにはここからどの方角に向かえば?!」


「北東ですね」


「あ、ありがとうございました!!」


立ち上がったフランは、被っていたシルクハットを取って深々と頭を下げ、


「イヴ!!」


『グオオオオオオオ!!』


イヴと呼ばれたドラゴンに乗って、北東へと飛び去っていった。


「「……ドラゴンマスター……」」


『む〜む〜』


五人はそんな彼を見て、口をぽかんと開け、一匹は二本足で立って、彼とドラゴンに短い右前足を出来る限り大きく振ってさよならをした。

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