第1回 始まり日和
よく晴れた春の日の朝。
ようやく自分の役目を果たす時が来たと、それは勢いよく鳴り出した。
ピピッ―…カチ
「……ふあ……」
鳴り出したそれ、目覚まし時計を素早く止め、少年は欠伸をしながら起き上がった。
「ふう、今日から学校か」
起き上がってすぐ、まだ眠たそうな黄緑色の目を擦りながら、右と左で赤と緑に綺麗に分かれた髪を隠すように帽子を被った彼の名前は"ミント"。
「……って、あれ?」
それから靴を履いてベッドを降りた丁度その時、ふと視界に入った目覚まし時計にミントは小首を傾げた。
彼がその仕草をしたのは、待ちに待っていた役目をたった一秒で終わらせられてしまった為に、目覚まし時計が哀愁を漂わせていたからではない。
「学校……明日からだっけ?」
ミントが小首を傾げた理由は、今日は四月一日だから学校が始まる日だと思っていたのに、その目覚まし時計に表示されている日付が三月三十一日だったから。
(……早くこの家から離れたいって思ってるせいかな?)
そんなことを思いつつ、ミントは部屋を出て一階に降りていった。
「……はあ……」
朝食の準備が終わり、再び二階に戻って来たミントは、"シャーン"と書かれたプレートが下がっているドアの前で、盛大な溜め息をついた。
「朝だよ」
ミントは露骨に嫌そうな表情でドアを開け、その部屋で眠っている人物に露骨に嫌そうな声でそう言った。
「……んー」
すると、そこで眠っている撥ねまくった赤い髪の男性から生返事が返ってきた。
彼はミントパパ。
名前は"シャーン"。
「早く起きないと遅刻するよ?」
「……んー、分かった。あと一分……」
ミントの呼び掛けに、布団に潜り込みながら応えるシャーン。
「はいはい。あと一分ね」
ミントはそう言ってシャーンの枕元に何かを置き、さっさと部屋を出ていった。
「……?」
今日はやけに聞き分けが良いな? と不思議に思ったシャーンが、もそもそと布団から顔を出すと、
カッチカッチカッチカッチ
「え」
カッチカッチ
ドカーン
シャーンの部屋に、キノコ型の爆煙があがった。
「さてと」
背後で大爆発が起こったのにも関わらず、ミントは何食わぬ顔で反対側の"ジャンヌ"と書かれたプレートが下がっている部屋に入った。
しかし、その部屋のベッドには誰も眠っていない。
「朝だよ」
すると、何を思ったのか、ミントはベッド脇のテーブルに置いてある、緑色の炭酸の液体が入っているコップに向かってそう言った。
「ええ。朝ね」
液体が喋った!?
「朝ごはん出来てるよ」
が、驚くこともなく、まるでいつものこととでも言うかのように、ミントはそう言って部屋を出た。
ぶくぶくーっ
「ゲヘヘ♪ なかなか気が利くわね!」
液体から緑色の髪の女性が発生した!!
「はい」
「ゲヘヘ♪ センキュー」
緑色の長い髪を三本の三編みにし、眼鏡をかけて一階に降りて来た女性、ミントママの"ジャンヌ"にご飯を渡すミント。
するとそこに、少し遅れてシャーンがやって来た。
「あらシャーン、ボンバってるわね」
「おお。ボンバってるだろ?」
先程、目の前で爆弾が爆発した為に、彼の髪の毛まで爆発してしまってヘアスタイルが凄いことになっているのだが、ごく自然に会話するジャンヌとシャーン。
「はい」
そして、ごく自然にご飯を渡すミント。
「どーも」
「あら、美味しそうな目玉焼き。ミント、そこの墨汁取ってくれる?」
「醤油で我慢しなさい」
どうやらこの家の住人は、彼の凄いことになっているヘアスタイルについて突っ込む気は皆無のようだ。
「ゲヘヘ♪ センキュー。で、ミント?」
「何?」
ミントから醤油を受け取ったジャンヌは、笑い声に似合わず可愛らしくにこっと笑って、
「そろそろ行かないと遅刻するわよ?」
と、言った。
「? 何言ってんの? 学校は明日からで―…」
そう言っている途中で、ご飯を食べながらシャーンが背後の壁を指差したので、ミントはそちらに目を向けた。
「……しょ……」
その時計には、現在の時刻が四月一日の八時半と表示されていた。
「……え……?」
Why?
おかしいじゃないですか。
目覚まし時計は三月三十一日ってなってた筈ですよ? とミントが混乱していると、
「ゲヘヘ♪ 今日はエイプリルフールだぜイエア☆」
ジャンヌがミントの目覚まし時計の日にちを四月一日にしながらそう言った。
「……」
「イエア☆」
石化したミントに向け、再び"イエア☆"と言うジャンヌ。
「……」
「どんまい」
石化したミントにそう言いながら、漬物に箸を伸ばすシャーン。
「……」
「……」
「……」
……。
「ふっざけんなあああああ!!」
暫しの沈黙の後、ミントは爆発したような叫び声をあげ、目にも留まらぬ速さで身支度を整えて荷物を持って箒に乗って家から飛び出していった。
「ゲヘヘ♪ ごめりんこごめりんこ」
「気ぃつけて行けよー」
そんなミントに、ジャンヌとシャーンは呑気にご飯を食べながらそう言った。