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勇者エミの救出

 三匹のスラリーは海上経路と山岳経路に別れ首都フティングを目指す。フティング郊外にはバーデン聖教の総本山サン・アラミノス大聖堂が鎮座しており、ここに在職しているサラと落ち合う手筈になっていた。

 海上経路を選んだスラリーは東へ進む、途中には村々が散在し、村には必ず教会があった。人々のほとんど全ては農民で、スラリーの目からみて暮らしは楽ではない。

 農民は畑仕事のみならず家畜の飼育、果樹や野菜の栽培、パン焼き、馬の飼育など、複合的な仕事をこなしていた。働き者だった。

 内陸にある村々は基本自給自足であるが、塩と鉄は貴重品であることをスラリーは知った。

 農民の生活からは様々な情報が得られ、それをスラリーはレポートすることになる。

 「ゴブリン先生の座学では分からないことがいっぱいあるっぺ、魔界にはない文化って面白いっぺ、導入したいものであふれてるっぺなあ」

 村々には必ずと言っていいほどバーデン聖教会があったが、必ずしも人々が経典や教義を理解しているわけでもなかった。

 妖しげなまじないや儀式が教会とは別に残っていて、必ずしも教会としてうるさく干渉してくるわけでもなさそうだ。

 ただそれを利用してか、まじないや儀式の最後に十字を切る仕草を持ってくることは習慣として植え付けていた。

 人々にとって教会が役立つのは教会のもたらす技術にあった。しかし、その技術を抑制したのも教会であるとスラリーは後になって知ることとなる。

 行く先々で小動物を捕食しながら進むスラリーだったが、或るときネズミ一匹いない地域に出くわした。この地域では飢饉が発生していたのだ。

 飢饉が起こった村には領主の貴族が備蓄を切り崩し、救済を行ってはいるが、対応しきれない場合があるらしく、この村もそういった村らしかった。

 そういった村にはバーデン聖教会によって人買いの商人が派遣され、奴隷として買い取られていき、その取り分の一部は教会の財源の一つとなっている。

 ただこの時代の農民にはそのようなシステムを理解出来るものなどおらず(文字を読み書きできる農民はスラリーが見た限り皆無である)、教会にとって都合が良くできていた。

 「うーん、今だからわかっぺが、おらの食べてる人間さこいうとこからさ来てっぺなあ、喰いつめた人間の口減らしってわけっぺか、人間さうまいっぺが、どしたもんだっぺ?」

 旅のさなかスラリーにも人間社会に疑問がわいてくるのであった。

 やがて、途中の目的地メリダ内海イザベル港に到着したスラリー。

 高台から見下ろす初めて見る巨大な海はスラリーを興奮させた。

 「すごいっぺ!こんな大きな水たまり初めて見るだ!おらがいくら人間さ喰ったらここまでの大きさになれっぺか?それに船だっぺ!魔王軍には船はねえからこれも初めて見るっぺ!わくわくするっぺ~~!いや旅ってたのしいっぺなあ」

 スラリーは興奮を抑えつつ、首都フティングに向かう商船に荷物として紛れ込んだ。

 旅立ちまえの情報では二日ほどで首都南の港湾に到着する。

 この船の荷は偶然にも塩であった、塩の精製技術はバーデン聖教会が下部組織の修道院の技術である。人々の暮らしに欠かすことが出来ない塩を教会が抑えていることは大変重大な事であった。国家戦略で塩は大変重要な位置をしめ、それを教会が握っていることは皇帝フティング三世以前から施政者にとって面白くない話だ。

 一度そのうまみを握った教会にとって大変な財源である塩を手放すはずもなく、人々は教会の言い値で塩を買わされているのだった。

 「これはまずいっぺ、教会と塩は何とか切り離してしまわねば魔界が狙われっぺよ」

 魔界のダンジョンには岩塩が取れるので、塩不足に陥ることがなかったが、そのことが知れると人間どもがこぞって押し寄せてくるのをスラリーは恐れた。

 

二日後、商船は予定通り首都南の港湾に付けられ荷物の塩と一緒にスラリーは降り立った。

 目の前には高級娼館が大きく鎮座し、夕方だというのに煌々と灯りをともし光の城のようである。

 「これはアスモデ様がおっしゃったクラベリア娼館だっぺな、字さ読めっと便利だっぺな、人間の男が遊女さ買って何さするとこだっぺ、ちょっくら覗いてみっぺかな」

 そういってスラリーは夕闇に紛れ柱ずたいによじ登り、わずかに開かれた二階の窓より侵入したのだった。

 部屋の中はランプがいくつもあり煌々と部屋を照らしてあった。中は肥えた数人の男たちが一人の美少女をいたぶっている酒池肉林の真っ最中であった。

 その中には剃髪をした僧侶までも混じり、淫らで厭らしいプレイをしている。年端もいかない少女が好みの変態野郎。

 「お願い……無茶なことはやめてください……体がもちません……」

 「いやいやそんなことはないぞ、聞けばお前はもとは勇者だったそうじゃないか?剣をかついで走り回っていたんだろう、身体が締まっている、どんな事をしても壊れることはない、虐め甲斐がある」

 嗜虐的な笑みをたたえた男が剃髪の男に目配せする。

 「坊さんはコチラの方が好きと聞きますがいかがですかな?」

 男は少女を上に抱いていたが、そういって女の尻を両手で広げて見せる。

 「よくご存じで、一度味わうとやめられなくなる味があるんですよ、ほほほほっ」

 「分かりますとも、何、夜は長い、ゆっくりとたのしみませんと、ははははっ」

 少女はここひと月ほど前に送られてきて、一度に何人もの客を取らされ続け、身も心もボロボロにされていた。

 涙をみせればより一層男たちは歓び、更に残酷になった。弱さをみせれば付け込まれるのも分かった。

 何とか生き延びてやるんだという気概も男たちにはいい加虐嗜愛の材料にされただけだった。ほとんどの男たちは正真正銘のサディストで容赦なく少女を執拗に、念入りに、嬲り者にした。

 では、痴態を演じ嬌声をあげてみてはどうなのだろう?そういうかもしれない、しかしその効果は全て暴力となって帰ってくるだけだ。男たちからすればサディズムを満たせなければ高い金を払う意味を無くすのだから。

 もとよりここに置かれた者は口封じに送られている者達で、楼主は生きて娼館を出す気などさらさら無い。反抗が出来ない様にしっかりと封魔の儀式が娼館に施されて魔法を使う事すらできない。

 それにしても、この少女は男たちに人気があるようで楼主には金がバカスカ舞い込んで、楼主を大層喜ばせた。。

 とっくに少女は限界だ。誰か楽に殺してほしいと願った。実際この娼館、娼婦の死因の一番は自殺だ。

 その時、天井から無色透明の液体が剃髪の男の頭部に落ちてきて、頭部を覆った。

 液体は無言で溶解を始めた。髪を、皮膚を、筋肉を、眼玉を、脳を、脳幹を瞬く間に溶かし無色透明の液体は血の色に染まる。

 そしてすぐに消化吸収する、男は倒れこんだ。

 この光景を見ていたもう二人の男はあっけにとられていた、娼館の何かの催しなのではないかと思ったらしい。その隙をついてスラリーは大きくなった体を二つに分裂させ同時に残りの二人に襲い掛かった。

 その一部始終をみていた少女もあっけにとられていた、スライムがかつてこんなことをするのを初めて目撃したからだ。

 「お姉ちゃん死んじめえてえって思ったっぺ?そらいけねえことだ、バーデン聖教典にもよくねえって書いてあっぺな」

 はっとする少女は事の重大性に気付く。このスライムが殺した男は枢機卿なのだ。理由はどうあれバーデン聖教会の枢機卿がこのような悪所で死んだとあってはまずい、非常にまずい。

 「スライムさん、私を助けて……下さい、ここから逃げさせて」

 「オラもなしてこっただことしちめったのか分からねえっぺ。だけんど乗りかかっちまった船だ。オラと一緒についてくるっぺよ」

 そういってスラリーは残りの死体を平らげ肥大化した。

 それから少女に服を着せ、スラリーは呼吸ができる様に頭を出させて少女を包み込み、二階の窓から表に出て屋根に昇り、裏手の方から誰にも見られないように夜に溶け込んでいった。

 少女を包み込んだままポヨンポヨン跳ねながらスラリーは少女に聞く。

 「オラの名前はスラリーだっぺ、お姉ちゃんの名前はなんていうっぺ?」

 「私の名前は……エミ」

 何の因果かスラリーはかつての勇者エミを偶然にも生き地獄のクラベリア娼館より救い出したのだった。


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