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スラリーの旅立ち

 スラリーの学習教育は多忙を極めた。教師には魔界で最も勤勉なゴブリン達があてがわれ、彼らは実に真面目に仕事に取り組んだ。

 だが余りに四角四面な実直ぶりに、当のスラリーが時々逃亡してしまうのがゴブリン教師の頭痛の種。

 訓練の結果、スラリーは自分の意思で分裂をすることが出来るようになり、学習の効率やスピードが加速度的に上がって、外見や口ぶりからは想像できないほどの知性を見せ始めていた。

 それもこれもスラリーの身体的特徴によるもので、分裂し個別学習し、合体による意識知識、経験の統合、共有による効果は他には見られないスラリー特殊能力である。

 また、陣形戦術の習得と体躯を生かしての訓練より、蛇の様に体をくねらせながら移動する技術を編み出していた。その移動速度はヒトの大人が全力疾走した速度とほぼ拮抗しかつ、持久力に長けていた。

 かなりの満足のいく途中経過に、アスモデは大胆な案を大魔王に具申する。

 「大魔王さま、スラリーの成長はすごぶる順調です。重量は八〇〇貫(三〇〇〇㎏)に迫り容積は馬車一台分にも達しています」

 「だが、人間どもの本拠を落すにはまだまだ足りぬ、引き続き作戦は継続するのじゃ」

 「はい魔王様。僭越ながら、このアスモデに一つ策があります。そのためには魔王様にお聞きしたいことがございます」

 「儂に聞きたい事か?」

 「ズバリ魔王様はこの先人間どもをいかが致すおつもりでございますか?」

 「アスモデ!おぬしは元帥の立場にありながら、未だ任務の半ばだというのに何を考えておるか、バカモン!」

 「まこと言葉もございません。人間どもに後塵を排しているのはこの元帥アスモデのせい」

 「まあいい、その策とやらを聞いておこうか」

 「ありがたき幸せ、陛下ここはひとつスラリーに人間界を巡る旅に出してはいかがでしょう?今でしたら人間どもはスラリーについて何も知らない、絶好の機会と考えます」

 「フーー、なるほどだから人間についてどう考えていると問うたわけか?儂は人間どもに興味を持っておる。この玉座も人間どもの真似をして作らせたものじゃ、少しでも奴らの考えることを理解するためにな」

 「何と!そのようなことまで考えておられたとは……」

 「だが、今奴ら人間は我らを殲滅し魔界の地を奪わんとしておる。このまま手をこまねいているわけにはいかん。しかし、もしこの作戦が機能した場合についての、出口戦略も念頭に置かなくてもいかん。スラリーの一部、旅に出ることを許可する……」

 こうしてスラリーは、一部ではあるが、国中を旅することが決まったのだった。

 旅立ちはすぐ翌日、アスモデはスラリーに旅の目的と注意点をかいつまんで説明した。

 「いいかスラリー?この旅の目的は人間界をその眼で観察し我らにレポートすることにある」

 「「「やったぺー!旅だっぺよー!オラわくわくするっぺー!冒険、冒険するっぺよ!」」」

 結局三匹のスラリーが旅に出ることに決まったのだ。魔界に残され学習と訓練をしなければならない大スラリーは少しふてくされている。

 「後でオラにもくっついて情報を共有するんだっぺよ!」

 「注意事項がある、今回の旅で人間を襲ってはならぬ!これは絶対条件である」

 「「「えええっじゃあおら何さ喰ったらよかっぺか?」」」

 アスモデの足元を三匹のスライムはくるくる回りながらはしゃいでいる。

 「夜に人間どもの家畜を襲い捕食しろ、首都フティングの女司祭サラ殿には言い含めておくから、そこで人間を捕食することが出来る。しかし必要以上に肥え太って人目に付くようになるな、旅の目的がそがれる」

 「「「分かったっぺ」」」

 「旅の期間は二週間だ!遅れて帰って来るなよ、多様性を得るためにも三匹は個別に行動しろ、団体行動、途中での合体も許さん」

 「「「えー別々に旅にでるっぺか?なんか寂しいっぺ」」」

 「時間が惜しい即行動開始!」

 

 そのころ、特有の甘酸っぱい匂いの部屋で、修道服姿のクララは夢うつつの様な、とろけるような瞳で大きなパイプをふかしていた。

 濡れたような黒髪のおかっぱ頭、生来の長い睫毛に大きな目、通った鼻筋、薄い唇、蝋の如く透き通るような白い肌。

 勇者のパーティにいたころの女性らしい化粧ははぎとられ中性的な美少年を強調する。

 ナチュラルな美少年でありながら香る程度に女性的。

 身に纏う修道服は男性の物でありながら、線の細さゆえに、それ、を強調していた。

 これがヨッカ枢機卿の趣味だ。

 彼をはべらせながら、ヨッカはクララの耳を舌で愛撫し、右手はクララの胸へ、左手はクララの柔らかな太ももを愛撫していた。

 数日前、ヨッカはサラよりマクを渡され、今日クララに喫煙させている。ヨッカの眼にも効果はてきめんであった。

 「猊下、クララは、あっ、自分がどこかに逝ってしまいそう、あっ、気持で、あっ、ございま……す」

 時折痙攣しながら、どこを見ているのかあやふやな目の動きをし、恍惚となるクララ。

 そのクララにヨッカは耳からくちびるへ愛撫を移し、情をそそぎこんだ。

 高揚するクララに興奮を隠せないヨッカ。バーデン聖教典では男色を禁ずる解釈がされているが、それゆえ背徳の行為はヨッカをより興奮させた。

 きっと今までにない歓喜をクララが感じていることを考え、枢機卿は一体となる前に果ててしまいそうになる。

 「いかんいかん、もっと愉しまなくては……」

 慌てて自制しようとするが、愛人のあられもない姿に、愛人の掌の中で自身をぶちまけて仕舞う枢機卿。

 だがそれをうっとり優し気な眼差しで、クララは自ら舌で舐めとる。

 強制されず自らの意思でした行為に、枢機卿は感動すら覚えた。

 「わたしを求めているのか?クララ」

 黙ってうなずくクララ。

 これまではヨッカとクララの情景はヨッカの一方通行なものでしかなく、クララの情念は非常に冷めた感情でしかなかった。いやむしろ殺意すら混じったものである。

 それが今やどうだ?ヨッカの情婦のようではないか?……そう、これがマクの効果だ。

 マクの魔力により、相反するクララとヨッカは愛し合い、信頼する仲へと変わっていった……。

 更にを求めるクララに枢機卿は、話、を繰り出した。

 「クララ、私の仕事を手伝って欲しい」

 「げ、猊下のためならば、あっ何なりと」

 話の途中にも枢機卿は愛人のそれを愛撫する。

 「神の手紙を神から手渡され、魔王城を布教せよとお告げがあったとふれ回ってほしい」

 「そのような、ことを、あっ、して、何をなさる、おつもり、ああっ猊下だめ……」

 「魔王討伐十字軍を少年少女で編成し、魔界へ布教させに送り込む」

 「まっまさか猊下、わたくしをお見捨てになるつもりじゃ?」

 「はははっ何を心配しているのだ、私が他に色目を使うと思ったのか、心配するなクララ」

 「ああっヨッカ猊下、見捨てないでください……」

 「見捨てなどするものか、その人集めの為にクララ、各地を回ってくれるか?」

 「クララは、猊下と離れたくありません」

 「それは私も同じよ、しかしこれはお前にしか頼めない重要な仕事、この成否によって私の出世が決まってくる」

 「ああ、ならばクララは……やります、猊下の為とあらば……」

 二人の燃えるような情景をもって、十字軍計画は転がり出していく。

 後に悲劇の十字軍として歴史に刻まれることとなるバーデン聖教会の崩壊の始まりであった。

 

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