サラの野望
魔王城の裏門から入城したサラは迎えてくれた人物がアスモデ一人であることに気付き少し気安く話しかけるのだ。
「あらアスモデ元帥閣下、魔王様は今日はいらっしゃらないんですか?」
「陛下は執務で忙しい、それよりも約束のものは連れてきているようだな。サラ殿は信用できる方の様だ」
約束の人質を渡すと、次の生贄となる勇者候補の話を始めた。
「もちろん我々はサラ殿に協力させていただく、これからもいい取引をしたいものですなあ。ところで、話は変わりますが、マクという物は聞いたことがありませんかな?」
「いえ、全くの初耳ですわ」
「強力な媚薬と思って下さい」
「それは私の仕事に関係ありそうですわ、具体的にどのような効果があるのかしら、今回の人質を使って実験してくださりませんか?」
「ええ、ええ、元よりそのつもりでしたから、是非にでも罪人の男女ペアを使い、効果のほどを見ていただきたい。馬小屋に移動しましょう。ささ、どうぞこちらへ」
アスモデ、サラはそんなことを話しながら準備の整った魔王軍の馬小屋の二階部分の一角に向かう。
「それにしても、マクとはどのようなものなのですか、アスモデ閣下」
「まさにこれですよ、サラ殿」
そういってアスモデは懐より小さな小瓶を取り出し、サラに見せた。
その物資は赤身がかった白色粉末状で、一見すると重曹のようにサラには映った
「この粉末状物資をどう摂取するのです」
「具体的には煙草の葉に混ぜ、喫煙するのです。サラ殿は煙草を嗜まれますかな?」
「ええ、僧侶で喫煙する者は結構いるもののですわ」
「そうですか、ですがこれをサラ殿にはおすすめしません。余りの快感に中毒性が高過ぎるのですよ。サラ殿に廃人になられては困ります。ハハハッ」
「それは益々興味がわいてきますわ、うふん、あー、あの二人ですわね……」
馬小屋の中は甘酸っぱい匂いに満ちて、二人の行為は凄まじかった。
女の上げる嬌声はいくつもの極彩色を感じさせ、媚態に満ち満ちている。表情は恍惚として快感に溺れる様がサラには気持ち悪く思われた。
男のいきり立ったそれは一体観察してから何度白の毒液をぶちまけたのか、いっこうに収まる気配を見せないのだ。幼い時分より修道院で犯され続けたサラではあったが、ここまでの絶倫は見たことがなかった。
教会経営のクラベリア娼館でもここまでのコトは目にすることは出来まい。サラは確信した。
なるほど、これならば確かに誰も可も夢中に、虜にしてしまうはずだ。
アスモデの説明によれば薬効が三刻は続くとのことだ。
「使える……この薬は凄いですわ!アスモデ殿、この薬の取引はどのくらいでできますかしら?」
「まあまあ、そう焦らずに今回はこの一瓶をお持ちになって下さい。サラ殿は信用できる方だ、これは私からのサービスであり、信用の証だと思って下さい」
男女の行為の傍でアスモデとサラの商談は盛り上がる。
「魔族の方のほうが下手な人間よりよっぽど信用できる……
サラは地面に視線を落とし呟く。
「用量にはお気をつけて下さいね、一回の使用量は耳かき一杯分です。これ一瓶で二〇回分はあります、どうぞサラ殿」
大きく節くれたアスモデの手から、小瓶を受け取り、サラはアスモデのの眼を見た。
朱に染まった瞳は人間離れして引き込まれそう、貌には笑みを貼り付け人懐っこさを演出している。
恐ろしげではないところに、魅力的なところに魔族の本当の姿があるのではないか?サラはそう感じた。
次回の勇者候補の事を話し、いつもの手はずで行うことを確認したサラは従者とともに魔王城を後にした。
罪人という人質を得たアスモデは早速二人を引き立て、スラリーの部屋(というにはやけにだだっ広い)へ連れて行った。
二人の男と女には訳が分からない。薬の後遺症の為意識がもうろうとして、ふらつき正体不明である。
部屋の中央には巨大なスライムが鎮座してアスモデの許しが出るのを待ち構えていた。
「スラリーよ、この二人をお前に喰わせてやるがいきなり喰っては駄目だ」
「ええ?なんでだっぺ?オラ腹ペコで死にそうだっぺや~」
「この二人を溶解せずに包み込み、窒息させるのだ。そして気絶させてから一度この者たちから離れて見せてくれ」
「うーん?食べたいのガマンするってことだっぺか、その後喰ってもいいっぺか?」
「もちろんだ」
「じゃ、やってみっぺ」
スラリーとアスモデの会話を聞いていた二人は意識混濁の中にも恐怖し、這って逃げようとする。が、スラリーはそれを許さずまず男を包み込んだ。
「ひっひぃぃぃぃぃぃぃぃ」
薬のせいで朦朧としていた女の意識が覚醒する。
目の前にはさっきまで情を交わし合っていた男が、透明ゼリー状の液体の中で白目をむいて一切の身動きが取れぬ、顔を覆うようなポーズ(ファイティングポーズ)のまま痙攣している様だったからだ。
「あっこいつオラん中でおしっこしたっぺなんかイヤだっぺ!」うんこするのはかんべんしてけろ」
「よし、もうそろそろ頃合いだ。その男を開放してやれスラリー」
男からスパッと離れたスラリー、後には脱力し、ぐにゃりと転がる男の姿があった。
「アンタ……、生きてる?呼吸してる?」咎人同士のせいか男の身を案じる女。
その背後からスラリーは女を包み込んだ。
「ガボッガボッ!」
スライムを気管に入れてしまい溺れる女。
「よし、スラリーそのまま女を溶かさず捻じ切って見せてくれ。そしたら喰っていいぞ」
「分かったっぺ、やってみるだ。そ~れ、ぎりぎりぎりぎりぎりぎり!」
女の体は雑巾を絞る如く圧縮され、脳天から脳漿や脳、血液を噴出させ、女は即死、そのまま溶解されたのだった。
「やっぱ人間って生きたまま喰うほうがうまいっぺなあ、あっもう一人もいただくっぺや」
「よし、よしよしよしよーし。喰ったあとは早速腹ごなしの勉強と運動だぞスラリー。この間と同じように今度はお前を二十分割しそれぞれに魔族の教師を付ける。戦術、語学、数学、物理、魔族の歴史、宗教、哲学、……お前は魔族のエリートとしてステップアップしなくてはならない。お前のの存在を完全に秘匿する時期は過ぎた」
「なんかめまいがしてきたっぺや~」
「安心しろ、まだ捕食する人間は生かしておいている。それからスラリー、これからはイチイチ剣で斬ってお前を分裂させるのではなくて、自身で分裂できるように訓練しておけ、詳しくは体育と戦術の講義で説明する」
こうしてスラリーのレベルアップの集中講義がスタートした。
そのころ、バーデン聖教会ではサラの『収穫』に気を良くしたヨッカ枢機卿が他の枢機卿に取り入る工作を開始していた。
「魔王討伐十字軍?ヨッカ猊下それはどのような物なのかしら?」
「サラよ我ら教会は政治に口出しは出来ても、軍隊は持たない集団である」
「ええたしかに皇帝フティング三世殿下とラダーレン教皇猊下は不可侵独立の存在ですわ。フティング帝国軍は皇帝殿下に統帥権があり……」
「そんなことは言われんでも解っている。だが我らの主の教えに帰属しようとせん魔族を、布教の名の元に十字軍を組織し、攻め入り神の教えを宣教するのならば、大儀が立つではないか。皇帝も納得しよう」
「でもそれじゃ蜜月となっている魔王との仲がこじれてしまいますわ」
「無論本気で魔王を討とうなどとは思わんでくれ、これは教会が軍事を持つ足がかりにすぎん。遠征に出す十字軍は年端もいかない少年少女で編成するのだ」
「あはんっ、そーゆうことでしたか枢機卿猊下。もしやこの間の男の娘クララはクラベリア娼館に出されたのではなくて?もしや猊下がお囲いになったのでは?」
「あのような悪所で肉の餌食になるのは忍びなくてなあ」
「さすがは猊下、お優しいですわン。今回は勇者のように少人数では物足りないという事ですわね。いかほど必要なんでしょうか?」
「現在の枢機卿の数は八十名だ。わかるなサラ?」
「……それほどとなるとちょっとわたくしの手にはあまりますわ……」
「どうしたらいい?知恵を貸せサラ」
「今度の人集めには猊下の教会での政治力強化のためですわね?それぞれの枢機卿の趣味も把握しておられて?」
「チッまあいい、近頃ラダーレン教皇猊下のお体の具合が芳しくないのだ。場合によっては教皇選挙も見据えておかねばなるまい。無論サラの言うように枢機卿全員の趣味は把握しておる。くれぐれもこのことは誰にもしゃべるなよ」
「それともう一つ」
「何だまだあるのか!」
「次に枢機卿のポストにはこのわたくしを推挙してくださりませんか、猊下さま……勿論ヨッカ教皇着任のご褒美としてですわん」
「ふん女狐め、かつて女で枢機卿に推挙されたことなどないというのに」
「わたくしと猊下は一心同体ですわ、猊下のためならばウェットワークはお手の物。このサラめにお任せくださりませ」
「して肝心の策はどう考えておる?」
「猊下の寵愛するクララを使い、神の手紙を神から手渡され、魔王城を布教せよとお告げがあったとふれ回させてはいかがかしら?同じ年頃の子供達ならば、きっと感化される者も出てきますわ。その子たちの中から、容姿の良いものを選抜し十字軍を編成してはいかがかしらん?」
「なぜにクララなのじゃ!」
「いやん猊下様、それ位やきもち妬くくらいの美少年じゃなきゃ説得力ないじゃないんじゃありませんこと?オホホッ」
「確かに……いやしかし、アレには教会に利用させられ、打ち捨てられたのだぞ!協力するとは思えん……。バカげたことを抜かすなサラッ!」
「あら猊下様それだったらイイお薬がありますのよ、もうどんな娘だってメロメロにしてしまうお薬がね……お試しになられてはいかがかしら?きっとどんなプレイだって答えてくれるはずですわ」
サラはなまめかしい仕草で懐からマクをとりだしたのだった。




