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魔界の勇者の誕生

 背中に大きな十字架の様な鉄の弓を担ぎ、大きな鉄の筒を腰にぶら下げ、未だ意識の戻らないスラリーを胸で温めながら少女エミはようやく魔王城に前まで到着した。

 途中、村を襲撃している小規模な傭兵との戦闘もあるにはあったが取るに足らないものである。

 封建制度が確立しつつある時代ではあるが、未だ戦は時々起こり、戦場となる村々から傭兵が生まれ、女は娼婦となる。

 戦争孤児は修道院に送られ教会の奴隷扱いだ。

 そんなやるせなさを胸にエミは魔王城のダンジョンに入っていった。

 ここはエミにとって忘れられない場所。世界が変わった場所、裏切りの場所。

 そこで待ち構えている者がいた、巨大なスラリーとアスモデである。

 「やっぱり、ここで会えると思っていたわ……」

 「見覚えのある女だ……そうか貴様、僧侶のサラ殿といた勇者の一味の女だな?」

 「あら、光栄だわ私なんかの顔を覚えていて下さるなんて」

 「一人でのこのこ何をしに来た?まさか復讐でもあるまい」

 「復讐だなんて……、それに一人じゃないわ」

 そういってエミは胸で温めていたスラリーを取り出した。

 「あっオラだっぺ、オラの分身が帰ってきただっぺ」

 「さあどうぞスラリーさん」

 巨大スラリーはカボチャ位のスラリーを同化した。途端に意識の共有が始まる。

 「先に帰還したスラリーからエミの情報はある程度手にしている、だがまさか本当にやってくるとはな……」

 「アスモデ様凄いっぺ!オラさ空飛べるだよ!ほえええ、こりゃ気持ちいいっぺ!」

 「何っ!それは事実かスラリー!」

 「間違いないっぺな、戦術が格段に増えっぺ、それにエミはとんでもない武器をもってきたっぽいっぺ」

 「何、とんでもない武器だと!どんなシロモノだスラリー?」

 「こっから先の記憶がねえっぺ、エミに聞いてみるしかないっぺ」

 「あら、それってこの二つのことね?」

 エミは背中と腰を指さす。

 「さっきから気になって仕方がなかったのだ、エミそれは一体何なのだ」

 「そういう言い方をするっていう事は魔族でもこの武器は知らないって事ね、いいわ、この背中の奴は私が恐らく百六十間も先から狙撃された物よ、そして腰の筒は三十間から先の岩を一瞬にして砕く威力があるわ、私が知っているのはここまでよ」

 「にわかには信じがたい……」

 「でしょうね、これをもって私を殺そうとしたのは耳の長い褐色の肌の男たち、使っていた言語は不明、全員ターバンを巻いていたわ、状況とタイミングから考えて教会からの刺客ね」

 「アスモデ様、エミの言っていることはまちげえねえっぺ」


 しばらくの沈黙の後、アスモデが静かな瞳で勇者に問いかける。

 「エミよ、この魔界に来た目的は何だ」

 「私を魔王様に謁させてください、アスモデ元帥閣下」

 「ついてこられよエミ殿、ダンジョンを安全に抜けれるよう案内しよう」

 そういってアスモデは踵を返しエミを招きいれた。

 城を警備していたのはクロウと呼ばれる有翼人が多い、執務をこなす官僚たちは背の低いゴブリン達、額に生えたツノが特徴のゴブリンである。他の将官、大臣は皆魔族で特徴は瞳が紅く、どちらかというと美形が多いようにエミには映る。

 謁見の間に通されたエミは驚いた、人の諸侯のそれとよく雰囲気が似ていたためである。

スラリーの言った言葉「人間さ興味抱いてる」を思い出していた。

 王室執事が運んできたお茶にも驚かされた、平民出のエミ(この国に魔界を除いて喫茶の習慣というものはなく)は夢中で何杯もおかわりしてしまう。

 それなりにあちこち冒険をしてきたエミだが、新しい発見に素直に感動した。

 「魔界の茶の香りはいかがかな?」

 魔王が下座から入ってきてエミに尋ねる。

 「美味しいです、こんな美味しいもの生まれて初めて飲みました!」

 エミはかぶり付く様に身を乗り出し満面の笑顔で応じた。魔王も微笑で返し、エミと正面から向かい合う。

 「おもしろいお嬢さんだ、そんなに飲まれては晩餐の前にお腹がいっぱいになってしまいますぞ」

 「ええっ食事まで頂けるんですか」

 「ははは、お望みとあらば」

 「スラリーから話は聞きました、随分苦労をなされたのですね」

 「お恥ずかしいことです、それより、魔王様に盾突いてしまい、それについての謝辞をさせて下さい」

 そういってエミは立ち上がり最敬礼する。

 「エミ殿は人間社会をどのようにとらえておいでかな?」

 「私は人間社会は矛盾していると考えます、魔王陛下は何でも人間に興味を抱いておいてとか、この部屋もそうなのですか?」

 「儂の名はルシフェル、儂の事をよくご存じのようですね、この部屋のことまで当てられるとは」

 「ルシフェル陛下が人間に興味を持たれているように、わたくしエミも陛下に興味を持っています、陛下は人間との戦で、人間を滅ぼされるお考えなのですか?]

 「いま人間達は全面戦争を仕掛けているわけではありません、仮にそうなった場合恐らく我々は敗北するでしょう」

 「では、その手段を手に入れられた時は人間を滅ぼされるおつもりでしょうか」

 ルシフェルとエミは視線を合わせ部屋は沈黙が支配する。


 静かに語り出したのはルシフェル。

 「我らが望むのは人間の支配、殲滅ではない」

 「陛下は優しい、優しすぎる、皇帝フティング三世はおそらく魔族を滅ぼす考えなのです、人間は異形の者達、異教徒に恐ろしく残忍です、バーデン聖教の聖典には異教徒のマクロホン兵十八万が一夜にして滅ぼされる伝説が記されています、これこそが人間の所業なのです」

 「エミ殿、それではまるで人間を滅ぼせと言われているのと一緒になってしまう、エミ殿の本心は別の所にあるように思われるのだが」

 「殿下、このわたくしをルシフェル魔王殿下の勇者に任命していただきたい」

 「勇者殿は世界の半分を支配するおつもりかな?、無論儂は歓迎する、つねづね人間の手が必要と思っていたからな、だが何故に勇者なのじゃ、一度は勇者として裏切られているのに、また裏切られてもかまわないという意思表示なのかな?」

 「もしわたくしが邪魔になった時は、いつでも打ち捨ててもらって構いませんわ、例え裏切られても勇者は勇者なのです」

 「人間とは面白いものですな……」


 ルシフェルとエミの談義中、アスモデはエミのもたらした武器を技術者に調べさせていた。

 「どうだ?分解できそうか?」

 「もちろんです、しかし凄いテクノロジーですな、見たことのない品だ」

 「これからの戦に必要となるかもしれん、技術の解析を急がせろ」

 「合点でさ、魔界の鍛冶師の腕前、存分に揮わさせて頂きやす!」


 魔王によってエミは勇者に叙任され、その日一日エミは魔王城の客人として大層なもてなしを受けた。

つ、つかれた。

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