二話 入社式 ①
業務日誌2 ①
業務日誌を夜遅くまとめていたのに僕は妙に早起きだった。
新聞配達のお兄さんに挨拶もしたし、朝の散歩中の近所のおじいちゃんと世間話したし、会社の前と事務所を掃除したし、昨日みんなが住むところがないって言ってたから、使ってない部屋をピカピカにした。
これで準備オッケー。
僕は会社の前で落ち着きなくみんなを待っていた。
この会社は父が始めたもので名前は「熱血!ワイルドキャッツ配達」。
父のネーミングセンスの無さはひとまず置いといて、主な仕事は配送。地域の郵便から星から星への運送まで・・。「繋ぐ」ということに父は誇りをもっていてそれで始めたらしい。でも突然父はいなくなってしまった。いつも通り帰ってきて、まだ小さかった僕にいつもの変なお土産を渡して・・、母は諦めたように「仕方ないわね。」と言っていた。僕は大泣きして母を困らせ、その夜母の涙を見て僕はこの会社を継ぐと決めた。やっとその夢が叶う日が来て、頼れる仲間たちと一緒に仕事ができる事から僕はワクワクが止まらなかった。
会社の前を100回往復したくらいに最初の仲間が来た。リュークだ。
「よぉ。元気か社長!」
いつも思うけどかっこいいな―。あれほどTシャツにジャケット、ジーンズが似合う人はいないな。Tシャツには魚の絵と「SAKANA」と書いてあった。これがみんなの言う残念さなのかな?いいと思うけどな。
「ん?どうしたフィル。」
「ううん。なんでもないよリューク。おはよう!荷物それだけ?」
リュークは黒のボストンバック一つでやってきた。
「おぅ。俺は新しい生活の前にはそれまで使ってたものを全部捨てるようにしてるんだ。この鞄以外はな。」
そういえば妙に使い古した鞄だな。それにしても時間まで後30分あるんだけど。ま、僕も言えたもんじゃないか。
「ちょっと早く来過ぎちまった。楽しみでよ。いやーそれにしてもここがお前の会社かー。ビルってのがすげーな。こりゃ給料も期待できるな。」
「あんまり期待しないでよ。家でもあるんだからこれでいっぱいいっぱいだよ。」
世間話もほどほどにしたところで次の仲間が来た。大型のバイクがドルンドルンと迫ってきてビルの前で止まった。乗っていたのは黒一色のライダースジャケットを着た大きな男、ウォールだ。
「すまない 遅れた 」
ヘルメットを脱いで答えた彼はとてもかっこよかった。ていうかまだ15分前・・・
「ウォール、おはよう。バイクはこの裏の駐車場に止めてくれればいいから。」
「すまない」
「駐車場代は給料から天引きな!!」
リュークが冗談らしく言った。いや嘘だけどね。軽くスルーしたウォールがバイクを押して移動させようとしたとき、バイクの後ろから塊が飛び降りた。
「にゃー!!!なんで気づいてくれないのにゃー!!」
スタッと猫らしく着地したのはアキラだった。正直ウォールの寝袋かと思った。その日は赤いポンチョを着ていたアキラが頬を膨らませて近づいてきた。
「すまん、すまん。俺はてっきり寝袋かと。って痛ってーーー。」
アキラの爪ががリュークにヒットした。
「ごめんアキラ。まさかウォールと一緒に来るとは思わなくて。」
「ウォール氏と出る時間が一緒だったからついでに乗っけてきてもらったのにゃ!それなのに・・・。せっかくおしゃれしてきたのに台無しにゃ。」
僕が「ごめん。」と言いながらアキラの頭を撫でるとちょっと機嫌を直してくれたようだ。
「いたた・・。よし、これで後は女共だな。女は準備に時間が掛かるっていうぜ。気長に待とうや。」
リュークが傷を触りながら言うと、ウォールはバイクを押していった。そして集合時間になった。僕は無駄に早く起きたせいで欠伸を一つ。それがリュークに移りまた一つ。まあ集合時間が今なのでなんとも言えないが・・暇になった。
「そういえばアキラとウォール、荷物は?」
「え、二人とも班長のところにたのんだにゃ?聞いてないのかにゃ?そういえば電話に出たの女の人だったにゃ。」
「たぶんおかあさんかな。集荷は今日?」
「そうだ」
「じゃあ俺達の初仕事はそれになりそうだな。よし、ベットの下を中心に荷物を集めようぜ!!」
そしてリュークの顔に傷が一つ、頭にタンコブが一つ増えた。そんな事をしていると会社がある通りの両側から大型のトラックがやってきた。道路は一本道だったので正面に向いて止まった。一つは真っ赤で一つは真っ白のトラックの助手席から降りてきたのは女性陣だった。
「すいませーん。そこの色がついてないトラック、ちょっと邪魔なんですけど!」
「あ、ごめーん。でも嫁入り道具がそれだと相手も引いちゃうよー」
いつも通りの挨拶だった。ていうか荷物多くない?入らないかも・・・。
「マホー、アミィー喧嘩はそこそこにねー。邪魔になるからちょっと裏までトラック移動させて―。」
僕がエンジン音に負けないように大きな声で言うと、2人とも運転手に指示を出してこちらに歩いてきた。アミィは黒のスキニ―のジーンズに白のカットソー、大きな縁のサングラスをかけていた。
マホは白のシャツにオーバーオール、パンダのリュックを背負っていた。みんなおしゃれだなー。
「ということでみんな集合したね。ようこそ、我が“熱血!ワイルドキャッツ配達”に!!」
みんなの苦い顔が見えた。だってしょうがないじゃん。社名なんだから!!