一話 友達から仲間へ ③
業務日誌1日目③
僕の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。
まずなんでうちに?確かにうちの家業は話したけど、個人企業だし、赤字続きだし、社長である父はいないし・・・。
そもそも就職活動しなかったの?どの企業でも喉から手が出るほど欲しいに決まってる。全部落ちちゃった。お祈りメールがいっぱい?いやいやそれは無い、受けた企業がみんな節穴?それも無いよね。
ん?おれたち?たちってなに?複数形?リュークが分身?いやいや、落ち着け僕。とりあえず聞いてみよう。
「リューク。もう一回聞いていい?」
「だから、俺たちを雇ってくれ」
その場にいる4人と1匹が僕を見つめている。
僕は一つずつ問題を解決していこうと思った。
「まず、俺たちっていうのは僕以外の5人だよね」
「そうだ」
リュークが答えた。
「僕の家業話したよね。いろいろ危ないよ。すぐ潰れるかも」
「立て直してー、ついでに市場トップにしてあげるよー」
マホが答えた。
「就職活動しなかったの?もしかしてみんな落ちたの?」
「そんなわけないじゃない!あんたの所で働くから敢えてしなかったの」
アミィが答えた。
「でもでも、みんなやりたいことがあるだろうし・・・」
「吾輩は班長の下でもっともっと仕事がしたいにゃ」
アキラが答えた。
「家族は? うちで働くことを許してくれたの?」
「自分の事 自分 決める みんな 大人だから」
ウォールが答えた。
「ダメか?フィル」
リュークが不安そうに僕を見てきた。
「この学校でお前と会えてすっげー楽しかったんだ。みんなそう思ってる。だから俺達話し合ったんだよ。そしたらみんな離れたくなくて、ならフィルの所で世話になろうって。だから頼むよ。俺達と一緒にこの学校で出来なかった事しようぜ班長!」
僕はとても嬉しかった。「仲間と別れる」ということを寂しいことを考えなくていい。でもそれでいいのかな?簡単に受けて彼らを危険に遭わせるの?
「あ、フィル君悩んでるー。わたしたちに迷惑かけるからーって。耳たぶ触る癖、直した方がいいよー」
マホが最後の一口を食べながら言った
バレた。そうだよな。五年間一緒だったんだから当たり前か。
「で、どうするの。雇うの?雇わないの?」
アミィがイライラしていた。
「わかったよ。雇うよ」
みんなの顔が明るくなった。
「だからこの目が気になったんだね。働く前に隠し事は良くないよね」
僕は左目の眼帯を外した。
その下に隠した目は猫のような目なんだ。瞳は細長くて月のように黄色い目。
これを見たみんなは少し驚いたようだった。
「この目、気持ち悪いでしょ。生まれつきなんだ。子供のころ言われてずっと眼帯してるんだ。だから右目は悪くなるし・・・」
目を擦りながら話す僕にみんなは次の言葉を待っていた。
「この目は見た目だけじゃないんだ・・・。ちょっと力があってね。リューク、君は10秒後に僕にデコピンをする」
リュークは不思議そうな顔をして僕をみた。
「いや、なんで俺がデコピンしなきゃならないんだよ」
リュークは座っていたが突然立ち上がって僕に近づいて、
「ジョークはよせよっ」
僕の額をデコピンした。
「え?」みんながそんな顔をした。やった本人は当然のように席にもどって
「あれ、俺デコピンしちゃった?」素っ頓狂な顔をしていた。
「じゃあ次、アキラ。次おばちゃんが来たときに野菜炒めを頼む」
「にゃー。それはないにゃ。吾輩野菜が大っ嫌いだからにゃ」
みんなが頷く中、僕はおばちゃんを呼んだ。
「おばちゃん。デザートの杏仁豆腐ください」
おばちゃんが笑顔で帰ろうとしたとき、
「おばちゃん、待ってにゃ。野菜炒めも追加にゃ!・・・にゃ?」
みんながまたキョトンとした。おばちゃんもだ。
「あ、おばちゃん。野菜炒めはいいや。ありがとう」
僕が断っておばちゃんは去っていった。
「不思議でしょ。この目は言ったことを相手にさも自然であるかのようにさせる事が出来る。一種の命令だ。強制しない命令なんだ」
このことを言うとたぶんみんな離れていく。気づいたらしいアミィが僕に言ってきた。
「ちょっと聞くけど、それって私たちに使ってないよね?この関係もそれで作ったの?」
アミィの顔はとても悲しそうだった。
僕はなにも答えられなかった。恐かったんだ。小さい頃からそう、友達はできたが親友はいなかった。表面だけの付き合いならいくらでもできる。僕も仕方ないと思った。学校に入る時、これを封印して1から関係を作りたかった。
でもやっぱりこの目は邪魔だった。何も変わらなかった。この目がある限り友達以上にはなりえない。そう、やっぱり駄目だった。だから僕は家業という逃げ道に逃げ込んだんだ。
あーー。またこれで友達失くしたな・・。
「さっきは雇うって言ったけどこれを聞いてまだ働きたいと思った?無理しなくていいよ、そう思ったなら仕方ないし、僕は一人で・・・」
自然に涙が落ちた。覚悟はできていたし、これで全部振り切れる。でも悲しかった。悔しかった。痛かった。痛い、痛いよ・・・。
「フィル そんなこと しない 」
ウォールが口を開いた。
「でもそれくらいできる力をもっていたんだよ。」
マホが言った。
「だから フィル しない 自分 信じている ここまで 楽しかった すごく 言い尽せない 全部 嘘でも 楽しかった みんな いままで どうだった? 楽しく なかったか? 全部 力のせい 言えるか? 」
「ちょっと質問にゃ。見たところその力は左目を見ている時だけっぽいにゃ。班長。そうじゃないですかにゃ」
アキラが尋ねてきたが僕は答えられない。それ自身が嘘だと思われるからだ。
「・・・・フィル。答えるにゃ」
初めて名前で呼ばれた。いつも班長、班長と言われているおかげでびっくりして首を盛大に縦に振った。
「だってにゃ。それにだれか今までに誰か班長の左目見たことあるかにゃ」
みんなが首を横に振った。だけどそれが僕がみんなを騙していない証明にはならない。話が進む。
「はいはーい。しつもーん」
マホが尋ねてきた。
「フィル君はその力をもって幸せだった?だって自分の思うがままだよ。わたしだったらいろんなことに使っちゃうけど。」
僕は左目を瞑って答えた。
「嫌だった。こんな眼なんて抉り取りたかった。でもこんな眼でも何か世間の役に立つことができると思ったから手放せなかった。」
僕は泣きそうになりながら一生懸命答えた。
「たしかに見ないとこの力は出せないみたいだしー。私は信じるよ―。」
マホが力強く答えてくれた。黙っていたアミィも僕に尋ねてきた。
「フィル。私たちはあなたにとってどんな存在?目を見て答えて。」
僕はアミィの目を見た。「両目で!」と言われ僕は左目を開けた。
「友達で、仲間で、親友になりたいと思った。今日みんながうちで働きたいって言ってくれてすごく嬉しかった・・・。だから今度は僕から・・・。僕の友達になってください!」
僕は勢いよく頭を下げ机に頭をぶつけそうになった。その後にアミィの拳骨を受け結局額を打った。
「やめなさい。恥ずかしいでしょ。・・・いいわ!友達になってあげる」
「ありがとうアミィ」
「それで、言いだしっぺさんはどうすんの?あんた一人出て行ってもいいのよ」
さっきから腕を組んで黙っていたリュークにアミィが聞いた。
「あのな。俺がそんな小さな男に見えるか。俺はどんなことがあってもフィルの所で働くって決めてたの。これでみんなの総意が得られたから満足してんの」
リュークは当然だという感じで答えた。
「さ、これでしこりは無くなった。これからもよろしくな。フィル」
僕はこの時の事を絶対忘れられないだろう。初めて本当の友ができたのだから・・・・。
食堂では賑やかな時間が流れていた。一人は泣きながら笑っていた。その左目にいつもある眼帯はもう無い。周りの仲間はその少年を小突いたり頭をなでたりして笑っていた。その間には今まで感じられなかった絆があった。
2時間後、彼らは店を出て、次の日に少年の会社で会おうと約束して2手に別れていった。1人自宅に帰る少年は希望を具現化したような笑顔を振りまき家に帰った。家に帰り眼帯を外している彼を見て家族は驚いたようだった。そして彼はこれから雇う仲間たちの話を家族に語った。今まで彼は仲間の事は家に帰って話に出さなかった。楽しそうに話す彼を見て家族は嬉しそうに聞くのだった。
もう一方に別れた4人と一匹は寮生活の為いっしょに帰っていた。後ろを歩く赤い髪の少女が前を歩く二枚目を蹴り飛ばして「もう!一時はどうなることかと!」「でも俺の言った通りだろ。あいつなら大丈夫だって。」「またこの6人でやっていけますにゃ」「アミィはこれでまた一歩お嫁さんに近づいたね。うふふー。」「うるさいわね!だから違うってば!」「フィル 会社 寮 あるのか? 俺達 どこ 住む? 」「「あ。」」一気に不安になった彼らはモノクルの少年を追いかけるのだった。