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一話 友達から仲間へ ①

業務日誌1 1日目 ①

「まずは卒業に対しておめでとうと言いたい。ここでの五年間それぞれ学ぶ事があったと思うが、人生はこれからだ。慢心を覚えず、自身の力を大きく伸ばしてほしい。皆わかっていると思うが、それもこの学校とこの星があってのことである。そこで皆に今一度自国について復習してほしい。我らが惑星メタリオス王国は三百年にわたり4つの連合国家の間にあり、その争いの抑止力となってきた。それも皆我らが王の御力である。そもそもこの学校が開校したときは・・・」


卒業式の学長の話はいつも長いと相場が決まっている。ここ王立士官学校の卒業式でもそれは例外ではない。いつも整えられたカイゼル髭とどこかの劇団員みたいな無駄に豪華な礼服を着こんだ学長は堂々としていました。


そして無駄ともいえるその長話は聞く者の体力を消費し、苛立ちを生産していました。


各言う僕はそんな話に聞く耳を持たず、これからの事について考えていました。あ、すいません。ご紹介が遅れました。僕の名前はフィリックス・カッツェ。仲間たちからはフィルと呼ばれています。


ここは王立士官学校の講堂。今まさに卒業式の最中です。この学校では、主に宇宙を航行することに関するいろいろな事を学ぶことができます。学長の話も長くなりそうなので学校について簡単に説明しようと思います。


この学校では航宙科、機関科、砲雷科、船務科、衛生科、航宙戦闘科、この6つの科からなっており、5年間の生活の中でスキルを磨いていきます。僕は航宙科です。


そして専門的な知識のほかにもう一つ、この学校の自慢であるカリキュラム“クリエイト・カントリー(通称CC)”があります。


ここでは入学してすぐに同学年内でチームを作り、バーチャル世界において1つの国が与えられます。それをチームのみんなの意見をもとに発展させていき、その中で革新的な方法を考えたチームには学費の免除や就職先の斡旋、時には星の運営を任される事もあるらしいです。


だからこの学校に入学した者は想像力を働かせて、学生生活を謳歌しようとします。学校側にとっても政策の提供や優秀な人材を生み出せることから、このカリキュラムに一番お金をかけていてちょっと学費が高いのはそのせいだと思います。


そしてここを卒業した多くは王国の軍隊や船の整備士になるものが多いです。それは公務員みたいなもので、学校のネームバリューもあって一番安定していました。


しかしこの星を出ていく人もいます。よその星のお金持ちや軍隊、スパイという噂もちらほらありました。


そんな僕はこの星で働くつもりですけど、王立の仕事には就きません。代々続く家業があるんです。家業を継ぐためにこの学校に通って会社を大きくするのを夢見ています!だからこれからの生活は楽しみと不安がフィフティーフィフティー。


ここではいい思い出がいっぱいありました。時には仲間の働きで学費が一年間免除になった事もあったし、学年対抗試合で一番になったこともあった。町をどちらの方角に伸ばすかで、大喧嘩したこともあった。そんなこんなで5年間過ごしてきましたが。


やっぱりみんな1つや2つ絶対に言えない秘密があるもので・・・。僕の場合は1つありました。このせいでみんなに迷惑かけたこともあったかな?でも言ったらみんなが離れていくと思ったので言えませんでした。それもこれも小さい頃の思い出が原因です。もうあんな思いはしたくないから。この秘密は絶対言わない。


あ、そろそろ話も終わりそうだ。ではまた。


「・・であるからしてこの素晴らしい日に王立士官学校を卒業し、それぞれの道を進む君らに幸運があることを祈る。」


みんなが安堵したように盛大に拍手が巻き起こる。その真意に気づかないまま学長は壇上から降りた。そして卒業式が終わり体育館からでると、そこには思い思いに喜びを表す人が集まっていました。後輩に胴上げされる人、親に感謝を伝えている人、就職先の上司と話す人、皆が5年間の成果とこれからの門出に沸き立っていました。


そのなかで僕は去るようにこの場を離れようとしていました。僕は喜び合う事が恥ずかしいのであまり好きではなかったんです。今までかけた迷惑を考えるととてもそんな気持ちにはなれなったし・・・。でもそんな僕の前に見慣れた5人組、いや4人と1匹がいました。


「おーフィル。卒業おめでとう!」


「おーー我らが班長殿、お疲れ様ですにゃぁ」


「フィル君、おちゃっほー」


「もーー。遅いわね。もう帰ったのかと思ったわ!」


「フィル みんな 待っていた。」


皆が思い思いに話しかけてきた。慣れ親しんだこの空気は我が家より落ち着けるんです。

僕としては5年間連れ添った大切な仲間がかけてくれた言葉を無視することはできなかった。


「やぁリューク、同じ卒業生なのにおめでとうはないよね?」


「まあ、いいじゃねーか。こうやってみんな一緒に卒業できたんだからオールオッケーだろ。」


白い歯を輝かせて力強く親指を立てたこの陽気な青年はリュークス・ギルベルト。赤茶色の髪は短く切りそろえられていて、目の色は茶色、背も高くてスポーツ万能、如何にも二枚目という言葉がぴったりなんだ。最初は僕も絡みづらいのかなって思ったけど話してみるとすごく気さくで仲間思い。


最初の出会いは入学して数日経ったある日、図書館で本を読んでいる時にいきなり隣に座られて「友達になろうぜ」と握手を求めてきたのが最初だった。


他の仲間からすると、ある意味残念らしいが僕は「裏表がなくていいな」と思う。CCでは防衛部隊隊長をしていて、なんでうちに入ってくれたのか今でも不思議なくらい頼もしい仲間だ。


「にゃーにゃー班長殿、吾輩もかまってくれにゃー」


1メートルくらいの小さな体にモフモフとした毛並みでとてもかわいいこの猫、いや猫獣人はアキラ、彼も入学した当初校門の前で苛められているのを助けたのがきっかけでチームに入った。マスコットだという人もいて、女子の多くは「触らせてー」と大騒ぎだ。


けど彼の魅力はそこじゃない。“物を作る”ということに優れていたんだ。その代表的なのが“特性ツナ缶”!校舎の裏で自作のツナ缶をみんなに売っていたのが最初で、半年で学校の売店、一年で学食に、二年で町の料理屋に卸すようになっていたんだ。


僕も食べたけどすっごく美味しいんですよ!そのおかげでなぜかチームの僕たちまで学費が一年免除になったこともあって、


詳しいことをアキラに聞いても「しらないにゃ♪」と答えるばかりでした。CCにおいてもそのクリエイティブ性は、新しい建材、工業製品、特産品など次々に作りだし国の発展に貢献してくれた。


「ねえマホ、おちゃっほーってなに?」


少し棘のある口調で尋ねたのがアミィ・スコルピ


「おつかれとやっほーでおちゃっほーだよ。アミィ」


それに対してゆっくりとした口調だけどしっかりとした力がこもった言葉を返したのがマホ・アリエスです。うちのチームの女性陣でこの世界に存在する12の剣力者の内の2つで、互いにライバル心を燃やしています。“権”じゃないの?と思いますが、実際に“剣”があって、その力らしいです。


まずマホは、剣力者の内の財剣(財力)を司るアリエス家の一人娘であり、お金に一番うるさい。髪はショートなんだけど羊みたいにクルクルとパーマが掛かっていて耳の上からは綺麗な白い巻き角が生えています。背は低くて、青い瞳に時々クイッと上げる小さな眼鏡がトレードマークなんだ。


お金の管理は完璧なんだけど、日常はとても天然で、そのギャップと容姿から異性の評判も高いうちの頼れる副班長だ。


アミィは12の剣力者の内の労剣(労力)を司るスコルピ家の次期後継者だ。いつも強気で負けず嫌い。スタイルは良くモデルみたいだ。赤い瞳とサソリの尾のように三つ網にされた深紅の髪、これまで多くの異性に声をかけられたらしいが全て一喝。


でも僕が声をかけた時はちょっと迷った後に「仕方ないわね!」って言ってチームに入ってくれた。労働力の分配を任せれば天下一品。


二人ともCCで無駄なんかどこにもなかった。CCでうちの班がこの学校で歴史上一番発展できたのは彼女たちのおかげだといってもいいし、なんだかんだ仲がいいのかもしれない。アキラのツナ缶事業が今では星を巻き込む規模になったのも彼女たちの協力があったからだと聞いた。


「フィル 疲れている 休むか?」


「ありがとうウォール。大丈夫だよ」


ひと際大きな青年はウォータル・グラス。この学校に入学式で初めてできた友人だ!緊張しまくっていた僕はウォールにぶつかってウォールが上級生だと思ってひたすら謝った。彼も困ったように必死で同級生だと言ってきて、互いに笑って友達になった。


なにやら辺境の星出身らしく言葉もたどたどしいけど褐色の肌と黒の短髪、白色の瞳は力強さに満ち満ちていた。


でも僕は知っているんだ。学校の花に水をやっているのも、朝教室を掃除しているのも、壊れた机を直しているのも、全部ウォールなんだ。“優しい”っていう言葉がとっても似合う。CCでも誰の意見にもNOとは言わず、他国との交渉もまずはやってみせた。その全てが最終的には上手くいって僕はとてつもない実行力だと思った。


「アミィ マホ そろそろ 喧嘩 やめる」


まだいがみ合っている女性陣にウォールが仲裁に入った。迫力のある仲裁は有無を言わせない。2人は渋々喧嘩を止めた。


「ということで「大好きツナ缶隊!」全員集合だ!!」


リューク気合を入れて叫ぶと、


「ねえ。結局その名前が正式になったの?」


呆れたようにアミィがため息にも似た言葉を発した。このチーム名はCCにおいてチーム名に困った僕たちがその時アキラが作っていたツナ缶をもじって作ったものだ。その後リュークがみんなで打ち上げだと言いだしたので、町にあるなじみの食堂に集まることにした。



業務日誌の最後に妙に達筆な字でこう書いてあった。

そこで僕の人生が大きく変わるなんて思わなかった!


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