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降る星に読む物語  作者: 紫木
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黒き少年と勇者

深い森の奥、湖のそばの木陰にひとりの少女が静かに眠っている。

大木に背を預け、微動だにしないその姿は神々しくもありながら、寂寥を感じさせる。

そんな少女に一人の少年が歩み寄る。

幼さがまだ残る顔立ちに、目が隠れるほどの前髪。

特筆する程のない平凡な容姿。

しかし彼を見た人間の大半は彼のその服装に目をとらわれるだろう。

全身黒ずくめでコーディネイトされたその姿はいやがおうにも少年の雰囲気を闇へと誘う。

少年は少女の目の前で立ち止まると、跪き言葉を投げかける。


「オレの声が聞こえているか?」


少年の声に少女は微かに目を開き、再度目を閉じて問いかけに応じる。


「少年よ、私の事は気にしなくて良い。別に行き倒れている訳でも、腹減って動けない訳でもない。貴方こそ、こんな場所に一人で来るべきではない。夜になればこの辺りにも獣の類が跋扈するだろう。日の高いうちにこの場所から去るべきだ」


少女は少年が偶偶この場所に迷い込んで来たと思い、何の装備も持たない少年の身を案じた。

少年は少女の答えに満足し、さらに言葉を投げかける。


「オレは別に迷い込んだ訳でもないし、ましてや獣程度にどうこうされるほど弱いつもりもないからそんな些細な事は気にしなくていい。オレはアンタと話をする為にわざわざこんな世界まで来たんだ」


少女は今度は目を閉じたまま、問いかけに応じる。


「おかしな事を言う少年だ。私ごときに会う為にわざわざこんな場所まで来たというのですか?それに貴方の言い方ではまるで貴方自信はこの世界の住民では無いかのような言いようだ」


少女は臨終の時が近づき、自分が幻と会話しているかの様に感じていた。

少年は少女の問い掛けを一笑に付し、己の問い掛けを続ける。


「私ごときとは随分謙虚じゃないか『勇者』様。これでも探すのに結構苦労したんだぜ。オレにはアンタにどうしても確認したい事があるんだ」


少女は静かに瞼を持ち上げて少年を見据える。


「私が『勇者』と呼ばれている事を知っていてなお、この私に何を求めると言うのですか?もはやこの世界には魔王もおらず、人々は幸せと希望を胸に抱き日々を過ごしているでしょう」


少女はかつて王女に投げ掛けた言葉と同様の言葉を口出す。

少年は少女がそう言うだろうと予め予想していた。


「オレが確認したかったのは、『アンタが今、幸せなのかどうか』という事だ。アンタが如何に今まで王家の兵士として生きてきたとしても、アンタが如何に巧妙に感情を殺そうとしても、アンタが生きている以上、感情なんてものは絶対に死んでくれない。他の有象無象の事なんて考えなくていい。安心してくれ、ここには俺以外誰もいない。どんな答えだって臨終間際の戯言だって思ってやるよ」


少女が一般の人間であったなら、何て愚かな事を言うのだろうかと思ったに違いない。

しかし少女は少年の言う通り、幼い頃から感情を殺したふりをして生きてきた。

それを知覚すれば『兵士』足りえなかった。

それを知覚すれば『勇者』足りえなかった。

自分自身に暗示をかけ、自分自身に騙されたままこの道を終わらせようと思っていた。


これ程までに、自分ですら知覚出来ないほどに騙されていた感情が息を吹き返す。


「私は・・・・」


そして世界は再編される。







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