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降る星に読む物語  作者: 紫木
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勇者と呼ばれた少女

「世界に平和が訪れました。女王よ、私はこれからどうすれば良いのだろうか」


深く暗い森を抜けた先、知らなければたどり着けない場所

黄金の花に囲まれ、見上げれ群青の空

其処にあるのは一つの墓標

吹き荒ぶ風は二人の金色の髪をすり抜けていく


一人は騎士、まだあどけなさを残した少女は目の前の墓標を唯見下ろす

一人は女王、背筋を伸ばし、毅然とした態度を保ちながら騎士の背中に語る


「ご自分でお決めなさい。地位も名誉も全てを貴女は手にしたのです。人々は貴女を『勇者』だと賞賛し、今でも街は祭りのような賑わいを見せております。これ以上、私が貴女に願うことは御座いません」


振り返る事もなく少女は応える


「私は盟約に従い魔王の首級を落としただけだ。その結果がどうであれ、誉れに思う事も、それを糧に生きる事も叶わない。女王よ、私は『勇者』等と呼ばれる存在ではないよ。ただ其処にあった約定を果たしたまでだ。この平和に私の意志など何一つない。私には民の幸せなどどうでも良いのだから」


少女は生まれながらにして戦士だった。生まれながらにして兵隊として育てられた

故に騎士となり、その命は生まれながらにして女王に捧げられていた

他国との争いでは率先して首級を上げ、多くの血を流した

魔物が現れたと聞けば躊躇する事なく剣を抜いた

その結果、強くなった彼女は魔王の討伐を命じられることとなった


少女には野心も報恩も無く、唯そこにある敵を切り伏せる事だけだった


「知っていましたよ。ただ貴女にとってそうであっても私はそうはいかない。例え如何なる人間性をもった人間であろうと、この国を守る為なら上手に使ってみせる。現に貴女は魔王を討伐し、この国に平和をもたらした。結果論としては最上位となるでしょうね。『勇者』とは自己で決するものでは無く、周囲より持ち上げられて初めて決されるものです。貴女がどう思おうと、貴女は『勇者』と呼ばれる存在となったのですよ」


女王は国と共に在り、国と共に滅びるものである

彼女はこの国の平穏のみが求められるものであった

故に彼女にとって『勇者』の末路に欠片ほどの関心も無かった

この地を訪れるまでは


彼女にはひとつだけ気になる事があった。

それは女王としてでは無く、幼き頃より少女をずっと見てきた者として


--少女の前に佇む墓標は誰のものなのか--


少女は多くの人を魔物を殺めた。

その死に様がどうであれ、少女は弔いなど行った事が無い

死に悼む心も、残された者の痛みも、少女には痛覚として認識されないのだから


少女は墓標前に跪き、それでも振り返る事なくこう答えた


「これは魔王の墓標です。ご安心ください。かの者は確実に滅ぼされ、この下にはひと振りの剣しか御座いません。間違えても蘇りなどはしないでしょう」


ああ、それはある程度予測出来ていた

では何故か?


再度問われた少女は腰を上げ、空を見上げながら口を開いた


「私はかの者と剣を交わし、幾千の剣戟の末に勝利した。正直、会話と呼べるほど大した事は話しておりません。ただ、ひとつだけ、かの者の言葉が頭から離れませんでした」


--「魔王よ、貴方は何故この世界を滅ぼそうとする」

--「我が魔王故、魔王としてこの世に存在する故」

--「生まれながらの宿命とでも言うか。では、貴方はこの世界を滅ぼしたとするならば何を望む」

--「何も望みはせぬ。滅びが訪れるまでが我の宿命、後の世に興味などありはせぬ。滅びの世に魔王など

  不要、しからばこの身も不要となるだろうさ」


風が吹いた。まるで少女の語りに呼応するかのように強く激しく。


「戦いが終わり、多くの賞賛を頂きながらも、私は愚かにもかの者と同じ考えを抱いてしまった。そうでしょう?私が本当に『勇者』ならば平和な世にはもはや不要な存在」


そう言い切った『勇者』は今日初めて女王と向き合った


「では貴女は旅立たれるというのですか?」

「ええ、女王陛下よ。最後に陛下の御尊厳を拝する事が出来て良かった」


年相応の笑顔を向けた少女はそのまま女王の横を通り過ぎ、深く暗い森の中へ消えていった


黄金の地に残された女王は魔王の墓標に語りかける


「貴公は魔王でありながら、彼女の記憶した唯一の敵の御名前、とても悔しくはありますが、この身に刻みましょう」


『勇者』に必要なものは『魔王』

『魔王』に必要なものも『勇者』


相反する故に同軸に存在する伝説


そう一言告げ、女王は空を見上げた


その姿はさながら、勇者伝説に焦がれた町娘のようだった


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