第二話:ヒロト
祐二、和哉、誠、博樹、邦生、薫、佳奈、愛子、早苗、里香、順子の総勢11名は、体育館に向かった。
小学生の頃から、常にこのメンバーで行動してきた祐二達にとっては、こうして皆と廊下を歩くのは、全く珍しい事ではないが、皆自己主張の強い外見をしている為、大人数という事を差し引いても、非常に目立つ。
茶髪や金髪、だらしない腰パン、パンツの見えそうなミニスカート、早速潰された上履きの踵…。 ここまで初々しさのかけらも感じられない中学一年生は、そう簡単に見かけられないはずだ。
「あー、たりー。式とかどーでもよくね?」
両手をポケットに突っ込み、大あくびをしながら祐二はつぶやく。
「基本的にお前はなんでも、たりーじゃん。」
和哉は、祐二の口癖を嫌という程聞いてきたので、適当に流す。
二人で話ながら歩いていると、薫達よりもかなり前を歩いていた。
こうやって皆でどこかに向う時は、いつもこうだ。
祐二と和哉は意識して早く歩いているワケではないのだが、気付くと先頭にいる。
二人立ち止まり、皆が追い付くのを待つ。
「ホント、いつもあいつら歩くの遅せーなぁ。」
「きっと、俺らよりも足が短いからだ。可愛そうに…。」
祐二がそういうと、和哉と祐二は、二人して吹き出してしまった。
「てめーら、何こっち見ながら笑ってんだよぉ。」
誠が二人に問い掛ける。
「なんでもねーよ。ほら、行くぞ。短足ちゃん達。」
「短足だぁ??」
「やっべー!和哉、誠番長がキレたぜ!」
祐二と和哉は走りだす。
こうして、仲間とふざけあえる事を、祐二はとても幸せに思う。
駒田に目の敵にされ、荒んでいた頃、心の支えになってくれたのは、仲間達だった。
この仲間達がいなかったら、きっとこんな風に笑う事もなかっただろう。
体育館のドアを開けると、祐二達以外の新入生は並べられたパイプ椅子に座り、入学式が始まるのを待っていた。
クラス別に区切られ、並べられているパイプ椅子の空席にそれぞれ腰を下ろす。
「また孤独な時間の始まりだよ…。」
祐二は呟きながら、和哉達と薫達を交互に見る。
和哉は誠となにやら談笑しているし、薫も邦生達とふざけ合っている。
「ったくよぉ…。つまんねー。」
祐二は、外に目をやった。
その瞬間に左隣に座っていた生徒と目が合った。
「んだよ?」
「俺、木田小から来た、葛田博人。矢崎祐二君だよね?」
「そーだけど…。なんで俺の名前知ってんの?」
「有名人じゃん。」
「そっか?まぁいいや。俺さ、クラスに知ってる男が誰もいねーのよ。暇つぶし相手になってくれよ。」
祐二は、友達とか仲間とか、そういう言葉を軽く使いたくなかった。
だからといって、『暇つぶし相手』という、博人にはかなり失礼な表現になってしまった事を、少し悪いと思った。
しかし、博人はあまり気にしていない様子なので、祐二はホッとした。
間もなく入学式が始まり、祐二にとってはどうでもいいような話や挨拶が、延々と続く。
そんな退屈な時間も、博人と知り合いになったお陰で、あっという間に過ぎていった。
博人の話では、祐二達は自分達が思っている以上に名前が売れているらしく、祐二達を倒して名前を売ろうとしている輩も多いらしい。
「俺らなんか倒したって、何の自慢にもならねーのになー。」
「そんな事ないでしょ?それに、祐二君の彼女を狙ってる奴も多分沢山いるよ。」
「は?俺、彼女いねーし。」
「北原さんと付き合ってるんじゃないの?」
「佳奈と?別につきあってねーよ。」
付き合いたいのは確かだけど…と祐二は心の中で付け足した。
「ふーん。そうなんだ。みんな付き合ってると思ってるよ。」
「勝手に思ってなさいって感じ。」
博人は相当話好きの様で、話題が次から次へと出てくる。
博人の質問に答えたりしていると、あっという間に入学式は終わってしまった。
祐二は入学式という言葉から、耐え難い程退屈な時間を想像していただけに、博人に少しだけ感謝した。