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プロローグ

「今日から中学生か…。学校行くのなんて面倒くせーなぁ。」

 寝癖でひどい事になっている頭をボリボリと掻きながら、祐二は大きな溜息を一つついた。

 祐二はもともと学校が好きだったのだが、小学校6年生の時に担任になった、駒田という教師のお陰で学校が大嫌いになったのだ。


 祐二は背が高く、性格もヤンチャだった為に、非常に目立った。

 その存在感のお陰で、駒田に祐二は目の敵にされていた。

 祐二の通っていた榊小学校では、大概は祐二達の悪ガキグループが何か問題を起こす。

 問題といっても、授業を少しさぼったり、喧嘩や、ちょっとした悪戯、夜遊びといった程度のものだ。

 それらを注意されても、自分に否があると思った場合は、祐二は一切反抗しなかった。



 ある日、クラスメイトの給食費が無くなるという事件が起きた。

 駒田は真っ先に祐二達を疑い、祐二達のグループを職員室に呼び出した。

 駒田は、祐二達が給食費を盗んだと最初から決め付けていた。

「正直に言えば、許してやる。」

 祐二達を呼び出し、駒田は開口一番こう言った。


「給食費なんて、盗んでねーよ!なんで俺だって決め付けんだよ!?」

 身に覚えのない祐二は、潔白を主張したが、駒田は聞く耳を持たず、口答えするなとばかりに、平手打ちを食らわせた。


 結局、祐二が最後まで罪を認めなかったので、犯人は分からずに、祐二の殴られ損となってしまったのだが、祐二が犯人ではないという事が分かっても、駒田は一切謝罪はしなかった。

 それどころか、

「日頃の行いが悪いから、こういう時に疑われるんだ」と、吐き捨てるように言った。

 祐二はこの時、生まれて初めて『殺意』というものを感じた。

 きっと、この気持ちを抑えきれなくなってしまった時、人は人を殺めるのだろうと、殺人犯の気持ちが分かった気がした。

 それ以来、駒田と顔を合わせるのが嫌で、学校もサボりがちになり、学校自体も嫌いになってしまったのだ。


「祐二!早く支度しなさい!入学式に遅れちゃうでしょ!」

 母親の和美が、一階のキッチンで朝御飯を作りながら、二階の自室にいる祐二に大きな呼び掛ける。


「はいはい…。朝っぱらからそんなデカい声出すんじゃねーよ。」

 ブツブツと文句を言いながらも、さっさと制服に着替えて一階へと降り、テーブルにつく。


「そろそろ出ないと遅れちゃうでしょ。急ぎな!」

 入学式から我が子に遅刻してほしくない一心で、和美は祐二を急かす。


「分かってるよ。なんで母ちゃんがそんなに張り切ってんだよ?」


「別に張り切ってないわよ。中学校は気持ちを入れ替えてちゃんとに通って欲しいだけよ。」


「分かってるよ。あっ!もうこんな時間なんだ…。もう行くわ。和哉達と待ち合わせしてるからさ。」

 トーストを牛乳で流し込み、祐二は急いで家を出た。




 榊中学校の近くにある、白川神社に、小学校の悪ガキ仲間達と待ち合わせをしていた。

 思ったより、早く着いてしまった祐二は、ポケットからタバコを取出し、火をつけた。

 タバコの味など、一切分からないが、なんかカッコいいからという理由で、小学校5年の頃から吸っている。


「それにしても、あいつら遅せーなぁ。まぁ、時間通りに来るとは思ってねーけど…」

 独り言を呟きながら、タバコを吹かす。


「コラッ!タバコなんて吸って、お前はうちの学校の生徒か!?」

 神社の前を通りかかった、頭の少し禿げた40代前半と思われる男が、いきなり祐二を叱りつけた。

「うちの学校って?榊中?」


「そうだ。俺は榊中で教師をしている、伊藤という者だ。お前はどこの中学だ?」


「…」

 祐二は黙りこんでしまった。

 教師というと、駒田のイメージが強烈すぎて、全く良いイメージが湧かない。

 しかし、今回の場合はどう考えても、タバコを吸っている自分が悪い。

 素直に謝るか、ウソをついて切り抜けるか、祐二は悩んだ。


 入学初日から、喫煙現場を教師に見つかった自分のツキの無さを呪い、返答に困っていると、伊藤と名乗る教師は、祐二が全く予想していなかった言葉を投げ掛けてきた。


「見たことの無い顔だが…。お前、さては新入生だな?タバコを吸うなら、もっと人目につかない所でコッソリと吸え。分かったな?タバコくらいで、俺は文句なんて言いたくないが、あまり大っぴらにやられると、立場上何も言わないワケにはいかなくなるからな。ハッハッハ。」

 そう言って豪快に笑う、伊藤という教師。ビンタの一つや二つは覚悟していただけに、祐二は呆気に取られてしまった。


「そろそろ入学式が始まる時間だぞ!こんな所にいないで、早く学校に行け!」

 伊藤はそう言い残し、学校の方向へと歩いて行った。

「なんだ、アイツ…。殴られるかと思ったけど、なんか笑ってたし…。」

 駒田とは全く違う対応。祐二には理解しがたい対応だ。駒田は、祐二が何かしでかすと、待ってましたとばかりに、暴力をふるったのに…。



「祐二!今の榊中の教師だろ?何だって?」

 物陰に隠れて様子を伺っていた和哉達が、祐二の元に駆け付ける。


「タバコ見つかったんだけど、なぜかアイツ笑ってたし…。」


「マジ!?ありえなくね?」


「だよな。何なんだろ…。」


「まぁ、いーべ。ラッキーだったっつー事で。」


「だな。そろそろ学校行くか。」


 祐二、和哉、誠、博樹、邦生、薫、6人の悪ガキ連中は、入学式の時間が迫る榊中学校へと向けて歩きだした。


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