第4話
やっと到着した港は沢山の人でごった返している。
その足元には水上げされたばかりの色とりどりの魚介類が並べられていた。
セイジとティナは、いつもはその中からめぼしい物探して仕入れているが、今日は島の北側で取れるであろう珍しい魚介類を求めて、ほろ酔い亭の常連客でもある漁師の元に向かって行った。
「ちわーっす、ハリーさん」
「おはようございます」
「おうっ、セイジの旦那と嬢ちゃんか、遅かったな」
「いや~、また例の如く足止めが多くて」
この百獣の王を彷彿とさる立派な鬣を持つ気のいいおっちゃんが猫獣人(と本人は言い張っている)の漁師ハリーだ。
彼はほろ酔い亭のすぐ近くに住んでるので、帰るついでにいつも大量に仕入れた食材を店まで運んでもらっている。
しかも俺をおまけ扱いしない素晴らしい人物だ。
顔は怖いけど・・・
「ハリーさんも北に行ってきたんですよね、なんか変わったのは捕れたました?」
「ああ、今回はめったに捕れたない珍しいのが何本か上がってるぜ、ほら見てみろ」
「こっ、これは!!」
ハリーの指差した先に、大きい物でおよそ60センチ位の大きさで、美しい桜色の鱗を持った、どこか気品のある顔立ちの魚が並べられていた。
日本生まれ、日本育ちのセイジには非常に馴染み深いそれは・・・
「真鯛じゃないですか!
うわぁ、こっちにもあったんだ!」
「マダイ?へぇ、セイジの故郷ではそう呼ぶのか。
こいつは滅多に上がらないから幻の魚って呼んでる、どんな風に食ってもうまいぜ」
「うん、知ってるよ。
俺の住んでた国では祝い事なんかで良く食べるんだ。
身はやっぱり刺身かな、出し茶漬けもいいし、蒸し物もいいな、後、頭はかぶと煮か潮汁かなぁ、ああ、色々やりたい物があるよ。
よしっ、ハリーさん、こいつあるだけ頂戴!」
「ああ、いいぜ・・・と言いたいが、許可が出たらな」
「許可?」
首を傾げるセイジの肩にポンっと手がおかれた、振り返ってみるとそこには、目の笑っていないティナの笑顔があった。
「セ~イ~ジ~、また何も考えないで仕入れる気?
そんな事だからお店が儲からないんじゃなかったかしら?」
思わず'うっ'と呻いてしまった。
そう、客入りは良いほろ酔い亭であるが、セイジがこのような趣味のに走った仕入れをしてばかりの為に、料理の原価率はいつもとんでもない事になっていた。
赤字である月も珍しくない、だからこその大繁盛でもあるが・・・
「大体、値段も聞かずに買い占めとかどこの馬鹿よ」
「・・・確かにそうだな、ハリーさん、この一番立派なのでいくら位ですか?」
ティナの言う事ももっともだと思い、セイジは素直に従う事にした。
他所行きモードのティナには逆らえないセイジ、今の彼には朝の容赦ない姿は見る影も無かった。
「まあ、普通なら金貨1枚って所だが、あんたらなら特別に銀貨80枚で売ってやるよ」
「って、高っ!
ハリーさんそれマジで言ってんの?」
「当たり前だろ、こいつは本当に珍しいんだよ」
金貨一枚、セイジの日本人感覚で言えばおおよそ10万円位の貨幣価値がある。
因みに、銀貨は一枚千円、銅貨が一枚百円程、そして十円位に値する硬貨はアルミニウムっぽい金属で出来ている。
セイジとしては、どうしても手にいれたかったが、さすがに予算的に手が出せない。
「はぁ、残念だけど今回は諦めるか・・・」
「・・・セイジ、お客さんがどうのより、自分で食べたかっただけじゃないの?」
「・・・うん、正直に言うとね・・・」
「もう、しょうがないわね!」
ティナはそう言うと、セイジを押し退けてなにやらハリーと話を初めてしまった。
10分程話すとその手に1匹の小ぶりな真鯛を受け取った。
「ほら、小さいけど売って貰えたわよ」
「えっ、でもこれいくらしたの?」
「店に必要な分と纏めて仕入れるからって言って安くしてもらったの。
全部で銀貨15枚でいいって」
どんだけ値切ったんですか、ティナさん・・・
ハリーも「ったく、嬢ちゃんには参ったぜ」とか言って高笑いしていた・・・
本当に、外でのティナさんは、すごく頼りになります。