間
「守備は?」
低い声が問いかける。
「ああ、予定通りだ。」
違う声がそれに応える。
暗がりの中、幾つかの影が動いているが、その姿は視認出来ない。
人影から推察するに、おそらくは3人程度であろう。
声は何れもまだ若く、声変わりの過ぎた青年期のものだった。
「……待ちわびたぞ……」
最後の1人が呟く。
「ああ。この機会を逃したら、もう後はないだろう。」
「だからこそ、慎重にいかなければ……。
ずっと我慢してきたんだ……急いて事を仕損じてしまっては元も子もない。」
そんな同士の会話を聞き、1人が口角を吊り上げる。
「その為にサンビを雇ったんだ。小賢しく忌々しい奴だが、あいつの策に失敗はない。」
その言葉を聞き、賛同の意を示す。
「そうだな。現に羊を誘い込んだ。ここまであいつは完璧に仕事をした。
……失敗は ない。」
「だがここまでだろう?
全く。ここからが大切だというのに……」
「何だ。ここまでくれば成功したようなものじゃないか。
厄介なのは、結界だからな。あの結界から引きずり出せればこっちのもんだ。」
1人が憤慨すると、1人がそれに応える。
それは一筋の光もない暗闇の中での会話とは思えないほどに、正確に相手を捉えていた。
「そうだ。ここまでくれば、成功したようなものだ。
……久方ぶりの御馳走にありつけるぞ。」
じゅるり、と下卑た音を立てて舌なめずりをすると、それに呼応するかの様に白く光るものがあった。
口内の奥で不気味に光るそれは、犬歯というにはあまりにも大きく。
「そうだな。待ちきれない。
……急いでかたをつけろとサンビにも言われたしな。」
「ああ。あの忌々しい狐や小娘に嗅ぎつけられたら厄介だ。」
その瞳が狂気めいた光を宿し、暗闇の中、不気味な三対の光だけが浮かび上がる。
口は耳の辺りまで裂け、その隙間からは鋭く尖った白い物体が見えた。
今まで耳があったはずの位置には何もなく、代わりに、頭に三角形の物体がのっている。
その姿は最早人とはいえず……。
「サンビの仕事はここまでだが、幸い、策を残して行ったしな……。」
「ふん……ここまで来たら、手に入れたも同然だ。
あの小賢しい狐の策などいらん。」
「油断するなと言ったはずだ。……今迄の苦労を台無しにする気か?」
語り合う彼らの眼には最早狂気しかなく。
否、これこそが彼らの正常なのかもしれない。
「さあ、行こうか……。
――久方振りの 晩餐に……。」
その声に異論を唱えるものはなく、あるのは無言の肯定。
改めて心を1つにした彼らの目的は1つ。
餓えた心を表すように、不気味に光る鋭利な牙。
それらを包み込む暗闇は、ただただ静寂を以て事態を静観していた。
それはまるで、これから起こる嵐を予感しているようであった。