表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし学園奇談  作者: 水瀬紫苑
★学校案内編★
4/16

ラーメンは豚骨に限るわ!!

刹那様ご登場。

タイトルからも分かるように、此処から一気に崩れていきます。


※誤って、この章を削除してしまいました。申し訳御座いません!!



 ぎいぃぃぃぃ……。重厚な扉を開く音がする。

 屋敷の外壁には蔦が絡まり、所々剥がれ落ちた壁と相俟って、廃墟のような雰囲気を漂わせている。しかし、男は何の躊躇いもなく、開けたばかりの扉の中へと身を潜らせた。男が館の中へ入ると、扉はひとりでに閉まってゆく。

 中は薄暗く、目の前どころか足元すらもよく見えない。全身を黒い衣服で被っている為、男の姿すら闇に溶けて見えなくなってしまいそうで。

 何処からか冷気が漂い、錆びた匂いが鼻孔を擽る。しかし、男はそれらに対し無表情を貫いていた。全く怯む様子もなく、まるで幽霊屋敷のような無気味な館を、躊躇うことなく闊歩している。


 しばらく歩いていると、ずずずずず……と、不気味な音が響いてきた。その、何かを啜るような無気味な音を聞いてなお、無表情を崩すことなく。歩みを進めるに従い不気味な啜り音は大きくなり、何処からか、まるで獣の様な生臭さまで漂い始めてきた。 

 錆びれた臭いに、生臭さが混じる。男はしばらく廊下を歩き続けていたが、臭いが強くなるにつれて、漸く僅かに顔を顰めた。

しかし歩みを止めることはなく、規則正しい足音を響かせ続けた。


 そしてある扉の前で、漸く足を止めた。不気味な音も匂いも、どうやらこの扉の奥からしているらしい。

 しかし、男は僅かも躊躇することなくドアをノックする。

 トントントン。何の応えもなく、音が止むこともない。しかし男は顔色一つ変えず、扉の向こうへ声をかける。

「ただいま戻りました。新たな羊を引き渡してきましたが……」

 それでもやはり何の応えもない。

 男は一つ溜息を着くと、失礼しますと一言断り、扉を開けて中へと入った。



 扉を開けた瞬間、むわっと熱気が押し寄せ、強烈な生臭さが襲ってくる。人によっては食欲をそそるらしいこの臭いも、自分にとっては異臭でしかない。不快に思いながらも、部屋の奥へと足を進めた。 

 目的の人物を見つけ、はぁ、と一つ溜息を洩らす。

「居らっしゃるなら返事くらいなさって下さい」

 その言葉に僅かに非難が混じっていたが、彼の探し求めていた人物は俯いており、反応が今一つ分からない。

 その人物は、髪の毛がカーテンのようにかかっており、よく顔が見えない。しかし、華奢な身体つきや髪から僅かに覗く小さな顔が、それが女性であること示していた。

 彼女はただ、男の声が聞こえていないかの様に、一心不乱に何かを啜り続けていた。白濁の風呂に浸かっている細長い物体が、血のように真っ赤な口唇に吸い込まれていく。

「ただいま戻りました。羊を引き渡してきましたので、もうすぐこちらへと届けられるでしょう」

 再度語りかけるが、少女らしき人物は行為を止めようとはしない。それを視界の端に捉えながらも、彼は機械的に報告を続ける。

「しかし報告によると、狐が動き出したとか。どうやらサンビが関わっているようなのですが、如何致しましょう」

 細長い物体がすべてなくなると、今度はそれらが浸かっていた白濁の液体を一気に飲み干し始めた。

 ぴくぴくと男の頬が痙攣し始めるが、少女はそれに頓着する様子もない。

「……サンビはこちらの管轄ではありましょうが、狐の眷属でもあります。我々でカタをつけるかそれとも奴に引き渡すか……聞いていますか?」

 とうとう堪え切れなくなったのか、男が少女に問いかけた。

 少女は中身をすべて飲み干し、空の器を机に置く。

「あ~……美味しかった。満足満足」

 少女が顔を上げて、初めて口を開いた。

 年のころは14、5歳位だろうか。その容貌は完璧に整っており、美少女と形容してもまだ足りない程であった。肌は透き通るように白く、闇を固めたような艶やかな漆黒の髪を結ぶことなく流しているので、なおのことその白さが引き立っている。

 くりくりと大きな目をしており、まだ少女らしいあどけなさを残していながらも、唇は血のように真っ赤で、それが妖艶さを醸し出している。

 そんな彼女を見て、男は大きくため息を吐いた。

「……吸血鬼がラーメンなんて食べないで下さい」

 男が疲れたように、ため息交じりに言葉を落とした。

「なによう!吸血鬼はラーメンを食べちゃいけないっての!?」

 不満そうに言いながら、手元にあった小さな物体を口の中に放り込む。

「……吸血鬼が餃子なんて食べないで下さい!!」

 男は僅かに声を荒げる。しかし少女は脅えた様子もなく、頬を膨らませながら反論する。

「吸血鬼が餃子を食べちゃいけない法律でもあるっての?!」

 そんな彼女に、男は呆れたように言った。

「法律云々の問題ではないでしょう。……ここまで大蒜の匂いがしますよ」

 男が不快そうに眉を寄せる。


「良いじゃない。アンタも食べる?美味しいわよ」

 そう言いながら、ほれほれと餃子を男の前にチラつかせる。

「いりません。……私の記憶が確かであれば、古来より吸血鬼と大蒜は相性が悪い筈なのですが……」

 呆れたように反論すると、少女は景気よく次々と餃子を口の中に放り込見ながら言った。

「このアタシが単なる食材に怖気づくとでも?!はんっ!ニンニクごときでビビる私じゃないわ!!」

 少女は胸を反らしながら得意げに……餃子を食す。

 男ははぁとため息をつくと、自分の不幸を呪った。


 何でこんなわけのわからない小娘が自分の主なのだろうか。こんな、自分よりも十以上も離れているような年端もいかぬ小娘が。

 

 だが、男は知っている。少女が、見た目通りの年齢でないことを。

 自分なんかより、遥かに永い刻を生きていることを。

 その華奢な姿からは想像もつかないほど 強力な力を秘めていることを――



 そっと目を伏せる。


 忘れない……あの刻を――


 あの、心も、魂さえも奪われてしまったあの刻を――



 真紅に染まった世界。


 その中で一番鮮やかだった彼女の口唇。



 紅一色の世界で彼女は、艶やかに、笑む




 もぎゅもぎゅもぎゅ。

 意識が過去より舞い戻ってくる。

 もぎゅもぎゅもぎゅ。

 しかし眼を伏せていた為、他の五感が余計に敏感になっており、今まで気にしないように努めていた生臭さが鼻について耐えられない。

 もぎゅもぎゅもぎゅ。

 男は顔を顰め、袖口で鼻を覆うと、不愉快そうに口を開く。

「一体何杯召し上がられたのです?生臭さが部屋中に充満していますよ」

 もぎゅもぎゅもぎゅ。

「……いい加減食べるのをやめて頂けませんかね?」

 もぎゅ?

 ごくんと飲み込むと、少女は苛立ったように反論する。

「何を言う!!この芳醇なる香り!!食欲をそそる、素晴らしい極上の香りではなくて!?やっぱりラーメンは豚骨に限るわ!!」

「異臭でしかありません。……というかそろそろラーメンから離れて下さい。――報告をしたいのですが」

 疲れたように言う男を見て、彼女はその形のよい唇の端を上げる。

「放っておきなさいな。サンビは一応無害だわ。――問題は、サンビを担ぎ出した奴らの方ね。よからぬことを企んでいたのをサンビが嗅ぎつけたのでしょう。……まぁ、大体の予想はつくけれど……」

「……聞いていたんですか」

「迎えは誰に行かせるの?」

「学園につき次第、美雨と真紅が結界まで護衛をするようですが……」

「真紅、ね。あの子も多少は使えるでしょうけど――困った癖が出なければ、ね……」

 そこまで言うと、少女はすっと音もなく立ち上がる。

「……如何致しますか?刹那様」

「楓李、お前はその不心得者を捕えなさい」

 そう言うと、その美しい容貌に笑みを浮かべる。楓李と呼ばれた男は、背筋に冷たいものが奔ったのを感じた。頬を、何かが伝う。

 その笑みは、酷薄で 冷徹で。圧倒的な力を感じた。

 自然と頭を垂れる。

 そう、これこそが。この方こそが、唯一絶対の、我が主。

 自分の心も、魂も、忠誠も。全てを捧げたただ一人の――

「御意。我が主の、御心のままに」

 そう言って一礼すると、部屋を出て行った。


 少女は唇の端をゆっくりと上げる。

「悪い子には……お仕置きをしてあげなくてはね……」


 その言葉は誰の耳にも届くことなく、空気中に溶けて 消えた。


刹那様は最初から刹那様でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ