鍋に月夜
「お爺さん!?」
エマは理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
ベオが鍋にものをぽいぽいと疑いなく入れている。
「なんじゃ?」
最後の一つを入れたところでエマの顔を見る。
「何をしているのですか…?」
わなわなと震えながらベオに問う。
「何って…これはうまいものじゃよ。気にせんでよい」
エマの問に理解したベオは、誤解を解く。
「信じられません!!そんなものが…美味しいなんて!!早く出してください!!」
エマは信じられなかった。
その部位を食べることが怖かった。
「しかし…もう遅いしのう」
「仕方がありません…その鍋…排除させて頂きます!!」
エマは手を上げ魔法を使おうとする。
しかし、ベオに止められてしまった。
粘着力のある糸で手を縛られてしまった。
圧倒的な力さに悔やむ。
ベオを見るといたずらっ子の表情だった。
「娘よ小僧には内緒じゃよ」
不適な笑みをあげるベオを見つめるしかなかった。
「さて、ご飯が出来た。小僧、手伝え」
グツグツと鳴る鍋をべオは見る。
「ああ、わかった。エマは今まで手伝ってたから、動かなくていい。座ってろ」
エマも手伝おうとしたので、晃は抑えた。
「わかりました」
エマは仕方なく、大人しく座った。
台所から、食器や漬け物など持って来た。
今日の食事は魚介類や野菜類が入った鍋料理だ。
晃が皆の分を取り分ける。
というか、ベオが目線でやれと指図されたからだ。
「「「いただきます」」」
二人は一口食べ驚く。
「うまい!(ナルタの食文化は俺たちの世界とあまり変わらないのか)」
「美味しい!(たった一つの容器にぶち込んだだけなのに!)」
二人はそれぞれ感想を持ち関心した。
朝ご飯しか口にしていなかった二人は、空腹のあまり夢中で食べた。
それに、和風の匂いが食欲に火をつけた。
中身は海老、貝、白身魚など魚介が豊富で、野菜は鍋料理の定番の種類だ。
しかし、味が和風とはいえ魚介のだしや野菜のエキスがスープに出ていて、とても美味しかった。
晃は自身の食器に鍋から取り分けようと、勢いよく鍋底から具をすくった瞬間固まった。
「なにをしておる?」
「おい…爺さん」
「なんじゃ?」
「なんだこれは?」
晃はお玉の中には魚の頭と思われるものがあった。
目玉が飛びでて、口からは胃袋らしきものが出ている不気味な魚の頭が、最初から好印象だった鍋に、しかも鍋底に入ってるなんて当然思わない。
しかもよく見ると鍋の中には、魚の頭が六つほどあった。
具も少なくなっていたせいか、始めの美味しそうな鍋が、不気味で吐き気がしそうなものになっていた。
「それは、プルオという深海魚じゃよ。鍋にも入っている白身もプルオじゃ。しかし、プルオの一番美味の部位は頭なのじゃよ。ほれ、食べてみろ」
「待て、魚の頭を食べる習慣は俺の世界にもあるがこれは…」
一応、晃の食器に取り分け、箸で頭を持ったが頭の下の切り目から毒々しい液体が出ている。
(なにこれ…なんか紫ぽっいものが出てるけど…食べれるのか、これ?)
晃は頭をまじまじ見ていたが、ふとあることを思い出した。
「エマ…これおいしいのか?」
ベオから出た嘘なのか、本当においしいのかを確証が欲しく、この世界の住人であるエマに聞く。
「すみません…このような…プルオという魚は初めて見ました」
険しい表情でエマは告げる。
「仕方がないのう。プルオはこのラーキリス海のトウイ海溝の深海魚。アルスク国内でも海岸沿いの町や村、市しかでわまわらん代物じゃ。知らんのも不思議ではない」
プルオに関して説明してくれたベオは、野菜を口に入れる。
「…解説してもらったが…エマ」
「はい」
「不気味な頭を入れるのを黙って見ていたのか?」
隣にいるエマに疑問を口にする。
得体の知れない魚の頭を入れるところを見ていたであろうエマが、何もせずいたとは思えなかった。
「…すみません。私…いきなり頭を…しかも鍋の底に入れるなど…止めようとしたのですが、お爺さんの魔法により叶いませんでした…」
エマは訳を話しながら、晃の持っているプルオの頭を見て、不快な目をしている。
「ふむ。食べぬならわしが食べよう」
ベオはプルオの頭を鍋から取ると頭の先端からかぶりついた。
液体がビチャビチャと出ている光景を見て、二人はおぞましく思った。
「うまいのう。はて、こんなうまいものが食べれぬとは、餓鬼じゃな」
最後の言葉に晃はキレた。
確かに、晃は童顔だがなんかいろいろとむかついた。
(…エマ)
(…はい)
晃は小さい声で、話しかける。
(このままでいいのか?餓鬼呼ばれして、しかも…あの顔を見て何も思わないのか?)
(うっ…たっ確かに)
ベオはにんまりとふざけた顔で、頭を食べている。
エマは餓鬼という言葉は晃に向けられた悪口なので、気にもしないがベオの姿は不愉快に感じる。
(それに、初めて緑茶を飲んだ時を思い出してみろ)
(はっ!そうでした。一口も食べずに嫌いになるのも、いけません)
「爺さん、やっぱ食べるよ。何事も経験だし」
「そうですね。一口も食べずに嫌いになるのは良くありません」
エマはプルオの頭を自身の食器に入れる。
食べるのに勇気がいるが、二人は頷き合いガブリと頭を食べた。
当たり前のように、液体は出ている。
「「おっ美味しい…」」
二人はあまりの美味しさに、夢中に食べ出した。
プルオの頭を食べ終わった。
「爺さん、疑って悪かった。すげーうまいよ、これ」
「すみません、お爺さん。見た目だけで判断するのは、間違いでした。とても美味しいかったです」
二人はベオを信じられなかったことを謝った。
「まあ、良い。さあ、冷めぬうちに食べなさい」
「「はい!」」
二人は無我夢中に食べた。
ベオは微笑み、また食べだした。
◆◆◆◆◆◆◆
「「「ごちそうさまでした」」」
三人で手を合わせ挨拶をした。
残さず食べきり、満腹感に満足していた。
「お爺さん、とても美味しく頂けました!」
「爺さん、隠し味とかあるのか?」
晃の言葉にエマも興味津々だ。
「ほっほっほっほっ、内緒じゃ」
ベオに省かれ、二人からブーイングがでたが、ベオは笑っているだけだった。
「あと片付けでもするか」
「あっそれ、俺やります」
ベオが片付けようとするのを止め志願した。
「任せよう。寝てた分働け」
「だから、志願したんだろ」
晃は鍋や食器などを持ち台所に向かう。
「手伝いますか?」
「いい。茶でも飲んでゆっくりしてろ」
「はい」
エマの申し出に蹴ると、食器などを洗い出した。
数分後、晃が戻ってきた時、エマとベオは茶を飲み談話していた。
「お疲れ様でした。あの食器とか置く場所わかりました?」
「ああ。同じような食器とかと一緒に置いといたが、良かったか爺さん?」
「良い。茶でも飲め」
「はい」
晃は座り茶を飲んだ。
三人は談話していた。
夜空の話になった。
夜空は二つの月があるとエマとベオから聞くと、晃は驚き本当なのか確かめるため三人は外へ出た。
日が沈み、空には星が瞬き、東に青の三日月と白の逆の三日月…二十六夜のような月が西にある夜空だった。
「本当だ。俺の世界じゃ一つだからか、すっげー違和感がある」
雲がほぼない晴天の夜空を見上げて言った。
「他に二つの月の色は、季節によって変わるんです」
「東の月は、春は青、夏は赤、秋は白、冬は黒と変わる。季節の変わり目だと、黄色じゃ」
「爺さん、黒だったら見えないんじゃ」
黒の月とわかるかせえ、検討がいかなかった。
「確かに、普通は見えませんが、これが不思議なことに見えるんです」
エマは自信ありの顔をしてくる。
「どうやって…まさか、もう一つの月のせいで!」
晃はちょっと忘れかけていた西の月を見る。
「そうです。西の月は、少し東の月と違います。一つの季節の上下があるんです」
エマに続いてベオが話す。
「春は上が白、下が緑、夏は上が灰色、下が赤、秋は上が黄緑、下が黄色、冬は上が青、下が黒。そして、季節の変わり目は橙色。冬の上の青の輝きのおかげで、半分しか見えぬが月の輪郭が見えるのじゃ」
「青の光によって輪郭が見えたとしても、黒い光を放ってます。しかし、冬の下の月は同色の黒…この場合は月は見えません。星の輝きしかない空となるのです」
「すげーな…」
晃はただ驚くしかなかった。
「それじゃあ、今は春の上なのか。それにしても、綺麗だな」
先ほど知ったことをもとに二つの月の色を見て言う。
「そうですね…」
三人は二つの月と星の空を見とれていた。
「なあ…爺さん」
「なんじゃ?」
「今思ったんだが…妖精や魔獣たちは人を襲わない穏やかで、しかし縄張りなど荒らされたり、生命に関わるとならば刃向かうそう言ったろ。じゃあ戦争のとき、妖精や魔獣たちはどうしてたんだ?」
真剣な眼差しで晃はベオを見る。
「…確かに、戦争は居場所を取られるのは、命に関わることじゃ。もう一つ話とくべきじゃな。妖精や魔獣たち…魔力を放つものは、魔法を使えない人には見えん。確かに我々魔法使いによって見せることもできるが、心が清くてはいけない。濁った心ではいけないのじゃ」
「そりゃそうだろうな。で、続きは?」
晃はベオの話を聞いて納得するが、まだ聞きたいことは聞いてないのだ。
「魔力を放つものは、魔法を使えない人を始めは信じておった。ま、当然のことじゃが魔法使いほう一番信じておる。しかし、戦争が起きた。当然、住む場所を荒らされて、魔力を放つものは激怒し反撃した。だがな、魔法使いが無理やり、戦争を加わっているのを見て、人を信じなくなった。そして、人を刃向かうことはしなくなった。身を隠し戦争が終わるまで、だが今は戦争を終わり、自然のある場所で暮らしておる。ああ、言ってなかったがバナイオは魔獣なのじゃよ」
ベオは夜空に目を向けて話した。
「本当ですか!?魔獣を手懐けるなんて!?」
「娘よ…魔獣と真の心で通わせ、分かり合えれば、手懐けるのは容易い」
「へぇ~、すごいな…っ!」
「どうしたんですか?」
晃はエマの呼びかけに反応せず、ただ…だた暗い海を睨みつけている。
「あっ晃さん?」
エマは気づかないので肩に手を置いた瞬間。
「うわあっ!!??」
晃は周りを気にしていなかったせいか、思わず度が過ぎた驚きをしてしまった。
過剰な驚き方にエマはびくつく。
「…何だ…エマか…ごめん、驚かせて悪かった」
はっと我にかえり、冷静になってエマに謝罪する。
「い…いえ、こちらこそ驚かせてしまって…すみません」
「あっいや、エマが謝るほどじゃない。そう落ち込むなって…」
エマのしょんぼりように、晃は慌てて慰める。
「二人とも身が凍える。早よう中に戻るぞ」
ベオは二人に声をかけ、そそくさと家へ入っていった。
「「はい!」」
夜の海は、冷え込み潮風でいっそう凍え、二人は素直にベオの家へ入っていった。
ベオは囲炉裏の定位置に座っていた。
「娘よ。風呂は沸かしておる。先に入りなさい。場所はさっき教えたからわかるじゃろう」
「はい。先に失礼します」
ペコリとお辞儀をし、風呂場に向かうエマをベオは止めた。
「あと、脱衣所や風呂場にあるものは好きに使ってよい」
「ありがとうございます!」
パ~っと輝かした笑顔でお礼をすると上機嫌に向かった。
晃はエマの様子にぱちくりした。
「何があった?」
「ただ…小僧が寝てた時にマブールが使われた入浴剤があると教えただけじゃ」
「はっ?なんだそれ?」
「マブールとは貝の一種じゃよ。マブールは疲労回復、癒やしをもたらす。他に、とても良い優美な香りが漂い、世間では美容効果があると発表されたばかりじゃからのう」
自身と晃の茶を用意し、湯のみを晃に渡しずずっと茶を飲む。
晃は礼を言って茶を一口飲んだ。
「だから、あんなに喜んでたのか」
「さて、布団の準備をしようかね。手伝え小僧」
「はいはい」
隣の部屋に向かうベオに晃は続く。
押し入れから布団を取りだし、晃に次々と渡していく。
「どこに持っていけばいいんだ?」
「出たすぐの部屋じゃ」
晃達が入ってきた反対側を差す。
「わかった」
片手でなんとか開いてなかった襖を開け、見回す。
「後、小僧の寝場所はわしと同じところじゃからな構わんだろ」
「うん、いいよ。どうせ、部屋が一人ずつなんてなさそうだしな」
隣の部屋に入ると隅に置き、ベオが持っている枕やシーツ受け取り重ねておく。
「そいうことじゃ。ま、娘と寝たいなら無理にわしと寝なくともよいぞ」
「なっ!?ふざけるな!駄目に決まってるだろ!!」
晃は頬を染まして怒鳴った。
その単純な初々しい反応にベオは笑う。
「クックックッ、面白いのう若造を苛めるのは」
「っ!からかったなー!!」
からかわれたことに余計に顔を真っ赤にさせた。
「全く…!」
熱のある顔やベオに苛つくが、ここで言い返せばベオの思うつぼだと、晃は部屋を出ていく。
ベオは楽しそうな表情で晃の後に続く。
晃達は自分達の布団を用意し、また囲炉裏で一息つくのだった。
茶を作り始めたベオに晃は俺が作るとの申し出に、ベオは少しは気が利くのうと晃に任せた。
「一言多いぞ…爺さん」
「それが年寄りというものじゃ」
(せっかく、親切心で言ったのに…)
晃はベオに対して本心では心から感謝していた。
見知らぬ二人を助け寝場所まで与える、その心の寛大さに、尊敬や申し訳ない気持ちもある。
だが、ベオに助けて貰えなかったら、今頃捕まって牢屋の中だと思うとぞっとする。
ベオと出会えて良かったと思っていたが、ベオはからかいだとしても、本心じゃなくとも苛つくのだから仕方がない。
睨み付けるが嘲笑いされるだけで、目線を外しため息を出すと茶の準備にかかる。
晃の用意した茶をすすりつつ、二人はエマを待ちながら談笑していた。
ずいぶん返信が遅かったです
すみません
今回は晃達のパターンです
異様にお茶を飲むことが多いですが、これはベオがお茶好きなご老人だからです
暇があればお茶を飲んでいます
たまには、違う種類を試したりしてます
今回のお茶はベオが上位にあたるお茶です
ありがとうございました




