表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9



「ただいま。誰か来なかったか」


父が帰ってくるなり私のとこに聞きに来たのでちょっとびっくり。


私はあの変な二人を放置して家に帰って、文字のお稽古に熱中していた。

そういえばしばらく外で騒いでたけど、静かになってる。


「変な二人が来た。子供と大人の、微妙に空き巣っぽいの。店閉まってるのわかってて来たんだってさ。キモいからほっといたよ」


外から帰ってきた父が会わなかったんなら、もっと早くに諦めて帰ったんだろうな。


「子供と大人……」


父は心当たりがあるのかないのか、眉間にシワを寄せて隣の部屋に行ってしまった。

まだ、このお人もよくわからんなぁ。




そんな事があったのもすっかり忘れていたある日、いつものように店番をしていた私。


帳簿に書かれたサインを解読しながら累計をとるという、新しく加わった作業に没頭していた。


ふ、とカウンターに影ができて顔をあげたら、いかにも魔法使いっていう黒いフード付きローブを着た人がたっていた。

客は全員魔法関係者だけどここまでイメージ通りの人は初来店。これに杖があれば完璧だよ!


「い、いらっしゃいませ」


思わずどもってしまった。顔は見えないけど、白い髭のお爺さんであれ!


「黒の十番」


聞こえてきた声は、今までにないくらい不気味な声だった。


カサカサして、変な加工をしたみたいな多重音声状態で。


それに。


「黒に、十番は無いです。三番までしか……」


説明が終わらない内に、何かが視界できらめいたと思ったら、カウンターにナイフが振り下ろされた。


や、ナイフなんて生易しいもんじゃないな、鉈だ。

田舎の老人会のボス・小林さんが山道を切り開くのに使っていたブツに似ているわ。筍やら山芋なんかを一緒に採りに行って、お祖母ちゃんに貢いでたなぁ。


「出せ、早く!十番だ!」


カウンターから離れて現実逃避をしていると、客改め居直り強盗はカウンターをガンガン刻み始めた。


「すいません、ごめんなさい、ほんとに無いんで、どうしよう?あ、入れ物見て確かめてもらえたら、信じてくれるですかっ」


身の危険を感じて、何言ってるかわからなくなりつつあったけど、とりあえず命ばかりはおたすけを~という展開に持っていきたかった。

こういう時、下手に抵抗したら八つ当たりでぶすっとやられそうだしね。


持ってけドロボーという言葉もあることだから。

ん?何か違うかも?



黒ローブの人は鉈を持ったままカウンターを乗り越えて来ようとしたので、私は入れ違いに下から出た。

怖くて足ががくがくするのを必死で動かして、そのまま店外へ飛び出した。


それから、父が家側または裏庭に居たんじゃね、という事を思い出した。


薬を探す黒ローブが更に家側に踏み込んで父と遭遇、出会い頭にばっさり、という最悪な想像をしてしまった。

大声を出して注意を呼び掛けるべきか、でも見つからない可能性だってあるわけだから、声掛けたら逆効果じゃね?

どうする、私?


「とっ――わぁぁ!」


迷った挙げ句呼ぼうとしたら、凄い勢いでドアが開いて、黒ローブが出てきた。鉈をかざして。


どこのホラー映画だ!



半泣きで、逃げるしかないでしょ!




必死で走り出して、例の一本道を目指す。

逃げ出して思ったけど、どこまで逃げたらいいんだ。


家の敷地が終わって、細い道が始まる辺りで、こっちに向かって人が来るのが見えた。


助けを求めるべき?

それとも一緒に逃げるように?

迷ってる間に顔が見える距離になり、慌てて止まろうとして失敗、つんのめって思いっきりスライディングした。


「貴様っ、いきなり何だ、何を企んでいるっ」


「いや~、単に転んだんでしょ~?立てる~?」


転んだ拍子に顎を打った!本格的に泣きそうな私の耳に入ったのは、この前の怪しい二人組の声。


「前門の虎後門の狼ってこういう事か!」


サイズ的にはジェイソンとチャッキーか?

自分の想像でもっと泣けてきた。


「汚いな、鼻水が垂れているではないか!」


「ごべんなざい、ごろざないでぇぇっく」


思春期の乙女の泣きながらの命乞いなのに、くそガキは後ずさった。


心にすごいダメージを受けたんだけど!?


「もしかしてあれ~?」


年上の方が、倒れたままの私をひっぱり起こしながら目を丸くした。


転んでたせいで、追い付かれたんだね。


「その娘を渡せ。黒の十番はどこにある」


黒ローブの気持ち悪い声でくそガキは青くなって更に離れて、私を支えていた腕に一瞬痛いくらいの力がこもった。


気がついたらくそガキの方へ突き飛ばされていて、鉈と剣が交差していた。



至近距離でバトル開始とかもう止めて欲しいんですけど。


「ほら、顔を拭かぬか。全く、女の癖に……」


唖然としている私を引っ張って道の端に避けて、ハンカチを差し出したくそガキは、目では二人を追っていた。


派手な音をたてながらチャンバラする二人。

銃刀法とか、ないんか。

なんでもありか。


黒ローブより長い剣を持ってるからか、空き巣の方が有利になってきて、追い詰める、というか家の方へ戻って行く。

横に行って欲しかった。


あ、と思ったら、生け垣がばっさり切られ、よろめいた黒ローブがスロープに沿って咲く花を踏み潰す。


我が家の被害がどんどん増えるし、この辺で止めてくれないと庭に死体が転がるんじゃないだろうか。


「ねぇ、あれ止めてよ」


「阿呆か、貴様!そんな事が出来る訳なかろう。黙って助けられておればよいのだ」


んん?空き巣に助けられるのも不思議な話。

まぁ、意思の疎通が出来るだけこっちの方がましなのかな?




仕方がないから、はらはらしながら決着がつくのをまっていたら、突然の試合終了。


「やかましいっ、この馬鹿共がっ」


ドアが開いて、消防車並みの放水が直撃して黒ローブが吹っ飛び、空き巣はそれを避けきれずに尻餅をついた。



中から出てきたのは、バケツを持った父。

水の量とバケツの体積が明らかにおかしい。


素朴な疑問がちらっと浮かんだけど、聞ける雰囲気ではなかった。


だってこの中で一番こわかったんだもん。




書いてるとどんどん長くなっていきます……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ