三
「あの、店って何売ってるの?」
小さな集落の食堂で夕飯を食べながら、とりあえずの情報収集を開始した。
無理矢理連れて来られたことにまだ納得できない部分はあるんだけど、ここで生活していくわけだから。
「お前にわかるように言うと、魔法薬の原料を扱っている店だ」
野菜たっぷりのシチューを食べながら、父はさらっと言った。
魔法とな?
「って、魔法って言った?魔法使いがいるの?うぅぇぇ~?まじで?」
「騒ぐな」
思わず奇声を発すると、眉をひそめた。
「だいたい、どうやってここまで来たと思っている」
そう言えば、瞬間移動したんだった。
ん?
あんな簡単にパッと移動できるなら、ここに住まなくてもいいんじゃないの?
「あちらとこちらは、もう行き来できんぞ」
思っただけなのに答えやがった。これも魔法?
ってまた聞こうとしたらため息つかれたのでやめた。
「今回は特別に国に申請して、根回しをし、あちらとこちらで準備を整えていたから可能だったのだ」
「根回し?」
「有り体に言えば賄賂」
口の中空でよかった。絶対吹き出してたよ。
「ちなみにおいくら?」
「――メジャーリーガーのスター選手の契約金くらいかな」
わかるようでわからんわ!
ん、今回が特別なんだったら、どうやって父と母は出会ったんだ?
私が出来たってことは、しばらくどっちかの国で一緒に居たんだよね。
「二人の馴れ初めを聞きたいなぁ」
父は、また食べる手を止めていやーな顔をした。
なかなか凶悪な面だな!
「私があちらに行ったのは移動術の実験中だった。そこで彼女と出会い――四年ほどで、こちらに戻った。その間彼女とその母親と話し合い、お前の状態によってどちらで暮らしていくか見守る事にしていた」
「16歳までってやつ」
父は食後のお茶を一口飲んで頷いた。
「移動できる条件が揃っている日だったんだ。――彼女はそれまで立派に育ててくれた。初めて会った時から、自立した、とても強い女性だったな。お前はよく似ている」
父は目を細めて私を見た。珍しく、口許が優しい。
ここまで堂々とのろけられると、反応に困るね。
何となく、ほんわかした気分になって家に帰った。
途中の道には街灯なんて無いから小さなランプ?ランタン?一つで、背筋がどんどん寒くなっていったけどね!
ランプの中には蛍みたいな虫が何匹か入ってて、夜だけ光る。エコだね。
虫かご……?ここは魔法じゃなくて原始的なのが面白い。
適当な花を摘んで入れといたら餌になるらしい。
掃除は下部が引き出し式になっているのでごみを捨てて洗うだけ。
やっぱ虫か鳥のかごだね。同じような事考える人が居て面白い。
食べ物も、薄味だけどだいたい好みに近いし。
なんとかやっていけそう。
あ、結局売ってる商品についてはよくわからないままだったわ。
魔法の原料って何でしょ?
「魔法の元って何?魔法使うのに道具がいるの?」
「言っておくが、杖ではないぞ」
居間で本読みながら寝酒を飲む父に聞きに行くと、即答された。
ちょっと頭の片隅に、アニメで見た変身ステッキがよぎったのは否定しないよ。
「魔法と言っても、薬に近いものがある。触媒、とでも言うか。例えば今回の移動には、あちらとこちらのそれぞれに同じ量の魔法薬で同じ陣を描いて道を整えた」
多分、噛み砕いて教えてくれたみたいだけど、ちんぷんかんぷんだった。
「面倒なんだね……」
まぁ、中身が完璧にわからなくても売ることはできるしね、問題ない。
「販売については簡単だから、心配することはない」
なんて、優しい言葉をかけてもらった。
今日はよく眠れそう。