第七話
憲輔side
「何してるの?こんなところで」
有奈の言葉に返事を返すことができない。
今はあんなに大好きな有奈の顔すら見たくない。
気がつけば、僕は走り出していた。
有奈side
「ちょっ、憲輔っ?!」
慌てて、彼の名を呼んだ。
でも、彼は黙って走っていってしまった。
「どうしたんだろう・・・」
「ま、俺が原因だろうな」
「えっ?!憲輔になにしたの?!」
お兄ちゃんに対して、こんなに声を荒げたのは初めてだった。
お兄ちゃんもびっくりしたみたいだったけど、すぐにいつもの涼しい顔に戻った。
「お前、気付いてないのか?」
「無理ですよ、有奈はそういうところ鈍いですから」
鈍いって・・・なにが?
雅美は何か知ってるの?
「あぁ、雅美ちゃんっつったっけか?」
「そうです。お久しぶりですね」
「おう。元気にしてたか?」
「ハイ。そちらもお元気そうで」
「ちょっとすみません」
見知らぬ女の子がお兄ちゃんと雅美の会話に加わった。
初対面なのに、なぜかとても親近感が沸いた。
「何となく分かるんですけど、うちのお兄ちゃん勘違いしちゃってるみたいですね」
「やーっぱり紗希ちゃんは勘が鋭いわねぇ。それに比べて、憲輔ときたら・・・」
うちのお兄ちゃんってことは・・・。
「ねえ、雅美。この子は?」
私が会話に入ると、その女の子が私の方を見て、ペコリとお辞儀した。
「初めまして。長尾 紗希と言います。もうお分かりだと思いますが、
あの憲輔の妹です」
やっぱり・・・。
すごく礼儀正しくて良い子だなぁ・・・。
「あ、私は・・・」
自己紹介をしようとすると、それを紗希ちゃん(でいいのかな?)に遮られた。
「知ってます。有奈さん、ですよね。いきなりで本当に申し訳ないんですが、
お兄ちゃん追っかけてあげてくれませんか?私たちじゃどうにもならないと思うんで」
「あっ、うん!」
私は頷いて、憲輔を追って走り出した。
紗希side
「紗希ちゃん、だっけ?すごいね、テキパキしてて」
有奈さんと一緒に居た男の人が話しかけてきた。
おそらくこの人は・・・。
「そんなことないです。ただこうでもしないと、お兄ちゃんたちってくっつけないと思うから」
「そうだね。君、いくつ?」
「中学一年生、13歳です」
「そう。俺は高2なんだけど、俺君みたいな子、好きだよ」
「は?」
何言ってるんだろう。この人。
「ちょっと、ナンパはやめてください。紗希ちゃんはあなたには勿体無いです」
雅美さんが間に入ってくれた。
「ひどいなぁ、結構俺、本気なんだけど?」
確かに目が本気だ・・・。
「はいはい。とりあえず紗希ちゃんに自己紹介してあげてくれませんか?」
またもや雅美さんが助け舟を出してくれた。
本当は私は雅美さんにお義姉ちゃんになってほしかったけど、見た限りじゃ有奈さんも良い人そうだし・・・。
「ああ、ごめんね。俺は中里 晃輔。コウって呼んでよ。
そんで、有奈の兄貴です。君のお兄ちゃんはなんか誤解してるっぽいけどね〜」
「ほんと、しょうがないんだから・・・」
私はそう言って、ため息を吐きながら、二人が上手くいくことを願った。
憲輔の妹ちゃんと有奈のお兄さんの登場です。
一話に3人の視点って少し無理がありましたかね・・・。
とりあえず、コウさんは妹ちゃんが気に入ったみたいです。この二人がどうなるのかは書こうかと検討中です。その辺の意見も含めて、感想などをいただけたら嬉しいです。