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その男、奇才につき  作者: 外郎売
1/1

その男、若造につき

12月も半ばを過ぎて。

クリスマスムード一色の繁華街を、足早に歩く男が一人。

年のころは20代だろうか。

若者らしい黒髪のロングヘアといえば聞こえはいいが、ファッションとして伸ばしているわけではなく、

”伸びてしまった”と言ったほうが理解に容易い。

薄手の紺色のジャケットにジーパンを履き、やや季節外れのその外見はお世辞にもお洒落とは言いがたい身なりだ。


その男はなおも足早に、道を行く人の合間を縫うように歩き続ける。

男が立ち止まった先には、大きなビジネスホテルのロビー入り口があった。

ビジネスホテルには似つかない風貌ではあるが、男は躊躇することなく足を踏み入れた。


彼は私の席の前へ来ると何を言うわけでもなくスッと椅子に腰掛け、寄ってきたウェイターの差し出したメニューをそのまま返し、

小さな声でコーヒーと告げた。

無表情でやや冷徹な印象を受けたが、本当にこの男が密告者なのかと、猜疑心がふっと心を支配したが、気にせずに

いつものように仕事に取り掛かることにした。

「どうも、今回はご足労頂きましてありがとうございます」

「いや、こちらこそ貴重なお時間を頂きまして。」

大橋は名刺入れを取り出し、名刺を渡した。

それを受け取ると同時に、彼もまた名刺を差し出した。学生と聞いていたのだが、と怪訝に思いながら肩書きに目を落とす。

代表執行役員、大槻洋平。そう書かれていた。

私が彼と会ったのは、この時が始めてであった。



「おはようございます」

「おう、おはようさん」

事務所の入り口に、いかにもな男が数名。

箒と塵取りを手に、朝から掃除に精をだしているようだ。

外見とミスマッチな光景ではあるが、この業界では常識である。

春と夏の境目であるこの季節、セミもまだ疎らに鳴いている。

境目の季節といっても、日中の気温は30度をゆうに超え、うだるような暑さにさいなまれる。

「あ、オヤジ。新宿の滝口さんからファックス来てはりますよ」

事務所の中から、リーゼントの若い男が駆け寄りそう告げた。

「おう、読め」

オヤジと呼ばれるこの男性、年のころは60前後であろうか。白髪交じりの頭髪に

ピッチリとパンチパーマをかけ、門前の若い物同様、いかにもな外見だ。

事務所のソファにどかっと腰を下ろすと、タバコを取り出し、リーゼントの男に火を付けさせた。

「産廃の件、大林の若い者を送ります。カタギではありますが、有望な人間なので使ってやってください。

だそうです。」

「カタギの若い男?あれか、洋平って奴のことか?」

「洋平ですか?私は存知ませんが・・」

タバコの煙をくゆらせ、テーブルに置かれた新聞に目を落としながら続けた。

「大林って、あの東京の人、知ってるな?」

大林といえば、日本最大の組織の中でも、上位100名にランクインするほどのエリートだ。

この事務所のある埼玉でも、知らない人間は居ない。

「その大林の舎弟では無いみたいだが、懇意にしてる若造がいるらしいんだな」

オヤジは新聞を広げ、2面,3面とめくりながら続けた。

「大林がこの前挨拶にきただろ?物件の件でよ。そんときくっついてた若いのがその

洋平らしいんだがな、なんか陰気くさい奴でな、あんまり好かんな」

「はぁ。」

そういいながらリーゼントの男はファックスに再び目を通した。

「で、その洋平さんが今日の夕方、こちらに見えるそうなのですが、どうしますか?」

「どうしますっておめえ、大林さんとこの人間なら迎えなきゃダメだろうが。ベンツでお前いってこい」

「え、私ですか?」

「なんだ、忙しいのか?」

「いや、わかりました。行ってきます」

とはいっても時刻はまだ9時前。

まだ時間はあるな、そう思いながらデスクに腰を落とし、新聞に読み耽るオヤジを尻目に、

前日の祭りで上がった収益の計算を始めた。

この稼業では毎年恒例ともいえる的屋の運営。昨日は祭りの最終日であったため、3日続いた

開催期間中でももっとも収益が上がっていた。

しかし、的屋といえば夏の風物詩であり、いわば期間限定のしのぎである。

この期間だけの収益で一年の経費をまかなうことは到底不可能である。


暴対法という法律の施工以来、いわゆるヤクザと呼ばれるこの稼業では、どこの組も

軒並み収益を落とし、財源難を理由に解体する組織も少なくなかった。

この新浜組も例に漏れず、先月、産業廃棄物の不法処理のケツを持っていたある会社に、

暴対法を盾に活動する暴力団専門弁護士団がテコ入れして、その座を奪われたばかりであった。


奪われるといえば語弊があるように感じられるが、本当に”奪われて”しまったのだ。

件の弁護士団は業界内でも悪名高く、暴力団と取引のある会社に的を絞った営業活動を行い、

ヤクザとの関係を絶つ代わりに、顧問弁護士料として高額な料金を請求する業者だ。

会社がもし弁護士団の”営業”を断れば、暴力団との金銭取引のある違法業者として後ろ指を指されてしまう。

法律を盾にしたヤクザそのものであるが、正義の皮をかぶっているだけに、ヤクザ以上に始末が悪い。

「天野、どや?」

しばらくしてオヤジは新聞越しにリーゼントの男に声をかけた。

「大体集計終わりました。」

「おう、いくらや?」

「純益で11万と3454円です。」

「おお、そうかそうか。端数はもってけ。バイト代や」

オヤジと呼ばれる男はうすく笑みをこぼし、新聞を置いて立ち上がった。

「天野、ちょっと付き合えや」

そういってオヤジと呼ばれるこの男は、右手をクイっと動かし、また笑みを浮かべた。

「あ、はい。車回します」

天野は端数の3454円をポケットに突っ込み、デスクの引き出しからキーを取り出し、裏口から出て車に乗り込んだ。

黒塗りのベンツ、いかにも、であるが、年式は古く、あちこちにガタが出始めている。

車を止めている場所にはオイルが滲み、少し乗らない日が続いたかと思えば、エンジンはかからなくなる。

買い替えしてもらいたいところではあるが、そんなカネはこの組にはもうないことは知っている。


この稼業は入りも多ければ出も多い。

先日の産廃の件で大口の”入り”を失ってしまい、出がかさみ続ける毎日であった。

ガソリン代も例外ではなく、大排気量で大食らいのベンツも、そろそろお荷物に感じられていた。

「オヤジ、産廃の件の始末、洋平ってのに任せるんですか?」

天野はバックミラー越しに後部座席のオヤジを一瞥した。

「・・あぁ、まぁウチではどうにもできんしなぁ。まぁ大林さんとこのなら間違いはないだろうし、東京随一の奇才って評判もあるくらいだからなぁ」

「奇才ですか?でもまだ若いんでしょう?」

天野は自分より若い、それもカタギの人間に、自分の手柄を横取りされるような気がしてならなかった。

オヤジは車窓に目を向けたまま続けた。

「仮にできんかったとしてもな、大林にケツとればええやろ」

オヤジはそういって笑った。他人の足を引っ張り合う、いかにもヤクザのやり方である。

「はぁ、そうですか。」

「なんやお前、やりたいのか?」

オヤジは笑いながらバックミラーごしに天野の顔を覗き込んでいた。

出来ないのを知っていながら聞いているのだろうと考えると、オヤジの笑みが嫌味に感じられた。

「いえ・・、自分には・・。遠慮させてください。・・道はこっちで大丈夫ですか?」

「せやな、いつもんとこでええわ。」

「わかりました。」

いつものとこ、地元のパチンコ屋である。

財政難に喘いでいる組を尻目に、この人はギャンブルか。そう思って天野は小さくため息をついた。

天野は18の時にこの新浜組に入って、6年目の中堅の人間である。小さな組であるが故に、出世も早い。

しかし所詮は田舎の弱小組織である。天野はオヤジの楽天的な性格に嫌気が差していた。

「ほな、また連絡するから、またここで頼むわ。」

そういってオヤジは11万円を懐に忍ばせ、揚々とパチンコ屋に消えていった。

この人間に付いていていいのだろうか。将来はあるのだろうか。

天野は不安を拭えなかったが、一旦この業界に浸かってしまった以上、他にどうすることも

出来ないのは、天野自身が良く分かっているつもりだった。

時刻は午後2時を少し回ろうとしていた。


「大宮~大宮~降りるお客様が-----」

アナウンスが目的地到着を告げた。パソコンと手帳、それに携帯電話など細々した物を

つめたカバンを網棚から下ろし、列車からホームに足を踏み入れた。

もう日も傾いたというのに、外はまだ汗ばむような気温である。

列車とホームの隙間から熱気が吹き上がり、余計に暑さを感じさせた。

若い男は携帯電話を取り出し、Tという名前で登録された番号に電話をかけた。

「・・・・もしもし。あ、あの、洋平です。はい。ええ、今大宮に到着しました。・・・はい。わかりました。」

洋平というこの男、身長は180はあろうかという長身で、髪は無造作に伸び、襟足は肩まで

達していた。

外見からすればまだ10代か、20代ごろであろうかというところだが、だらしなく伸びた

髪の毛と、ファッションセンスのかけらも無い服装に、見た目よりも少しふけて見えなくもない。

携帯電話を片手にスタスタと歩くスピードは速く、前を行く人の合間を縫うように改札を抜けた。

眼前にはバスのロータリーが見える。そこに一台、やたらと目立つ黒塗りの外車が止まっていた。

これか。そう心の中でつぶやき、その外車へと近づいていった。

「あー、あのー、天野?さん?」

「あ、あぁ、洋平さんですね?お疲れ様です。どうぞ」

天野は後部座席のドアを空け、洋平に乗るように促した。

「どうも・・」

洋平は小さな声でそうつぶやいた。

天野は、大林の若い衆と聞いて、洋平という男がどんなイカツイ人相なのかと想像していたが、

意外なほど貧相な人間で、少々拍子抜けした表情を浮かべていた。

天野は運転席に乗り込み、ギアをドライブに入れて走り出した。

走行中車内で会話は無く、時折バックミラー越しに洋平の顔をのぞいてみるが、力なく車窓を眺めるばかりであった。

本当にこの男で大丈夫なのだろうか。不安に思いながら車を走らせた。

「あのー、洋平さん?お仕事は何をなさってるんですか?」

探りを入れる訳ではないが、会話の無い車内の空気に耐えられない様子で天野が口を開いた。

「・・・ボクはー、学生です」

洋平は相変わらず力の無い目で車窓を眺めている。

会話が続かない、面倒な男だと思った。

天野は洋平が陰気でひ弱な人間だと踏んだのか、突っ込んだ事を聞いてみた。

「大林さんとはどういうご関係なんですか?」

「貴方に関係ないでしょう。」

洋平はミラー越しに天野を一瞥した。

先ほどの死んだような目つきではなく、鋭い目つきに感じられた。

予想外の反応に天野は少したじろいだが、失礼しました、と続けて取り繕った。

それと同時に、洋平に対する嫌悪感がふつふつと浮かび上がってきた。

自分より年下の、それも学生のガキが、何故大林さんに懇意にされるのか。

天野の脳裏にオヤジとの先ほどの会話が頭をよぎった。

お前に出来るのかと問われ、自分は出来ないと答えた。しかしこの洋平という男に勤まるというのか?

この男に出来るとすれば、自分にも容易い仕事なのではないか?

色々な思いが頭に浮かぶが、どれも洋平に対する嫌悪感に変わっていった。


車中は無言のまま、程なくして事務所の前に到着した。

「・・到着しました。」

「・・どうも」

洋平は相変わらず無表情のままそうつぶやいた。

自らドアを開けるそぶりを見せないところを見ると、自分にドアを開けろといってるように見えた。

客分の扱いだから仕方ないとは思いつつも、その態度は内心ははらただしかった。

運転席から降りて後部座席のドアを開けると、洋平はやっと車外へと足を踏み出した。

「オヤジさんは?」

洋平はタバコを取り出し火をつけながら尋ねた。

「いや、今外出中で・・・」

間違ってもパチンコなんていえない。

「・・そうですか。」

洋平は気に留めない様子で、事務所へと足を踏み入れた。

天野の洋平に対する心情は既に敵意へと変わっていた。

しかしこの男が奇才と呼ばれる本当の理由を、今は知る由もなかった。

もうすこし書こうかと思いましたが、疲れたので中途半端なところで

無理やり切ってしまいました。

みなさんの暇つぶしにでもなれば幸いです。


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