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職場の喫煙所で出会った激メロお姉さんが推しのVtuberだった  作者: 嵐家マダ


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第三話 押しに好きな人がいるらしい

 夕食を終え、一人暮らしにはかなり広いお風呂で一息つく。

 お湯に浸かりながら、自分の身体を見下ろしていると、ふとお昼休憩に喫煙所で出会ったすごく美人な……いや、美人と言うより、もはやメロいお姉さんのことを思いだした。


「……あの人、スタイル良かったなぁ」


 メロお姉さんを思い出しながら、自分の身体を見ると………………。

 いや、いやいや、別に? 私だって身長は160センチないけど、他はそこそこあるし……。


「……って、何考えてるんだろ。……あ~そう言えば、あのお姉さん、声も良かったな~」


 なんだか悲しい気持ちになりそうだったので、思考を切り替えようとした時、不意にあのお姉さんの声が頭を過ぎった。

 顔は見たことなかったけど……あの声、どこかで聞いたことがあるような……?


 ……いや、気のせいか。

 顔を知らないのに声だけ知ってるとか状況が謎過ぎるし、どこかであった人に似た声だったんだろう。


「……そろそろ出なきゃ」


 お風呂の時計を見れば、ナゲクちゃんの配信開始まで1時間を切っている。

 今出れば、ゆっくり髪を乾かしても十分間に合う時間だ。


 喫煙所のお姉さんのことがどこか頭に引っかかりつつも、私は配信のために湯舟から上がった。


 ◇◇◇


 お酒とおつまみを用意して、パソコンの前に腰を掛ける。

 配信アプリを立ち上げ、ナゲクちゃんのチャンネルへ行けば、配信枠は既に立っており、まだ開始前だが視聴者も1000人ほど集まっていた。


「ナゲクちゃんも有名になったな~。昔は待機100人もいないくらいだったよね?」


 缶チューハイのプルタブを起こし、ちびちびと口をつけながら、昔のことを思いだす。

 私がナゲクちゃんの配信と出会ったのは今から3年と少し前。

 前職に就いて、本格的にブラック労働が始まった頃だった。


 始めは、耳寂しさに寝落ち用の配信を探していた時、たまたま目に入っただけだった。

 ネクロマンサーモチーフの可愛いビジュアル。

 肩に、と言うか背後にちょこんと存在しているお化けのキャラクターも可愛い。

 でも、その顔立ちには可愛い中にも確かな華と言うか、魔力のように引き付ける綺麗さがあって。

 そんな魅力的なビジュアルに惹かれて、配信をつけた。


 どんな配信だったかは覚えていない。

 けど、多分いつも通り、視聴者からの『嘆き』を聞いて、それに答えていく配信だったと思う。

 でも、私がハマったのはそこではない。

 あの時は本当に久しぶりに、ゆっくりと眠りに就くことが出来たのだ。

 ナゲクちゃんの抑揚の少ない、でもしっかりと相談に乗るような声が、本当に私を安心させてくれたのだ。


 それから、私は毎日ナゲクちゃんの配信を寝落ち用に聞くようになり、気が付けば、なるべく配信をリアルタイム視聴するようになり、コメントなんかもするようになったりして——。

 

 そうして気が付けば、オフイベに参戦するほどのファンになっていたのだ。


 ——♪

 パソコンから軽快な音楽が流れだす。

 ナゲクちゃんの配信のオープニングBGMだ。


 それに乗じて配信のコメント欄も勢いを増していく。

 

「このコメント欄も昔は数人しかいなかったよね」


 そう思うと嬉しい反面、少し寂しい気もした。

 もちろん、ナゲクちゃんの魅力が多くの人に知られて、視聴者が増え、人気になって行くのはそこそこ古参のファンとしては嬉しい。

 やっぱり、良いものは広まって欲しいから。


 だけど、ちょっと、ほんとちょっとだけ、遠くに行っちゃったような気がしてしまうのは、私の傲慢だろうか?


 なんて、そんなことを考えているうちにオープニングBGMが止まり、あの視線を吸い集めるナゲクちゃんの顔が画面に映し出された。


「みんな、こんばんは。あ~んでっどライブのネクロマンサー、夜泣ナゲク。今日も配信始めるね」


 定型文の挨拶から始まるいつもの配信。

 だが、SNSの告知でも言っていたように余程嬉しいことがあったのだろうか?

 いつもより、若干声が弾んでいる気がした。


『ナゲクちゃん、今日は「嘆き」の配信じゃないんだよね?』

『ナゲクちゃんの話早く聞かせて~!』

『心なしかちょっと嬉しそうな声に聞こえる』

 

 どうやらコメント欄も私と同じ意見だったらしい。


 いつもとは少し違うナゲクちゃんの様子に、さらにコメント欄は盛り上がっていた。


「うん、そう。今日は私の話を聞いて欲しい」


『聞く聞く~』

『いつも俺たちの話聞いてもらってばっかりだしね』


「みんなありがと。じゃあ、話すね」


 コメントと会話をしながら、配信は進んで行く。

 私はその耳に良く馴染む声をアテにさらにひと口お酒を飲んだ。


「今日、収録で事務所に行ったんだけどね。そこでずっと会いたかった人に会えたんだ」


「え! ナゲクちゃん今日事務所に来てたの? ってことは私とすれ違ってたり?」


 どんな話が来るのかと、楽しみにしていれば、出てきたのは予想外の話だった。

 思わず画面越しに立ち上がってしまう。

 

 でも、よく考えてみればそうだよね。

 

 私が転職したのはあ~んでっどライブの運営。

 あそこに来るのは同じ社員さんだけではなく、所属しているVtuberさんもなのだ。


「うわぁ~、全然考えたことなかった。……でも、事務所で会いたかった人って誰なんだろ? 収録が被った他のVtuberさんとかかな?」


 椅子に座り直しながら、そう呟くと、


『ずっと会いたかった人って?』

『サケビちゃんとか? 確かサケビちゃん側は会ってみたいって言ってた気がする』

『も、も、もしかして、男!?』


 コメント欄のみんなもすごく気になっているようで、もう、一度クリックして止めないと流れが速すぎてコメントが読めないような状態になっていた。


「ふふ、大丈夫。男の人じゃないよ。でもね……」


 珍しく、本当に楽し気にナゲクちゃんが笑う。

 そして——


「ずっと、大好きな人なんだ」


 あまり感情の籠らない声で話すのが特徴のナゲクちゃんが、感情をたっぷりと込めた声でそんな爆弾を落としたのだった。

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