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無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜  作者: 黒崎隼人


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第9話「最強の物流ルートとレトルトカレーの盟約」

 カレーの匂いが立ち込める村の広場で、満腹になって芝生の上にひっくり返っている魔王軍の兵士たち。その光景は、恐ろしい魔族の軍勢というより、合宿中の学生のようだった。エルフたちも最初は怯えていたが、カレーをおかわりする魔族たちのあまりに情けない姿を見て、次第に警戒を解き、彼らに水やタオルを配り始めていた。


「ぷはぁっ……人間よ、貴様の用意したこのカレイライスとやら、見事だった。魔王たる私が直々に褒美をやろう」


 ルビアは三杯目のカレーを平らげ、口の周りについたルーをドレスの袖で無造作に拭った。食欲が満たされたことで、彼女の顔には少しだけ血の気が戻り、元々の美しい顔立ちが際立っている。


「褒美はいらない。それよりも、魔王軍の現状について少し話を聞かせてくれないか」


 タケシはプレハブ小屋の前に用意したアウトドア用のテーブルにルビアを促し、向かい合って座った。テーブルの上には、食後のコーヒーとして「在庫」から出した缶コーヒーが二つ置かれている。タケシはプルタブを開け、一口飲んでから静かに切り出した。


「あんたたち、ただ単に腹を空かせていたわけじゃないだろう。軍の装備は古く、補修も追いついていない。領地の経済は破綻寸前、人間と戦争をしている余裕なんて、本当はどこにもないんじゃないか」


 タケシのストレートな指摘に、ルビアの表情が一瞬で強張った。彼女はテーブルの下で拳をきつく握りしめ、赤い瞳に悔しさをにじませた。


「……人間ごときに、我が軍の台所事情を侮辱される謂れはない。魔族の土地は痩せこけていて作物が育たず、魔獣の被害も絶えないのだ。おまけに人間の領主どもが国境の交易路を封鎖しやがったせいで、物資の値段が跳ね上がっている。私は、このままでは民が飢え死にするのを黙って見ているしか」


 ルビアの言葉の端々に、若くして重責を背負わされた少女の苦悩が滲み出ていた。魔王という恐ろしい肩書きの裏で、彼女はただ、部下と民を飢えから救うために必死に奔走していただけなのだ。


「なるほど。深刻な物資不足と、不当な関税によるインフレか。最悪の経済状況だな」


 タケシは缶コーヒーをテーブルに置き、両手を組んでルビアを真っ直ぐに見つめた。


「ルビア。俺と業務提携を結ばないか」


「……ギョウムテイケイ」


 聞き慣れない言葉に、ルビアはきょとんと首を傾げた。タケシは胸ポケットからボールペンを取り出し、手元のメモ帳に図を書き込みながら説明を始めた。


「簡単な話だ。俺の商会が、魔王軍の領地に食料と日用品を安定して供給する。カレーだけじゃない。米、保存食、石鹸、タオル、医療品……必要なものは何でも用意できる。しかも、市場価格の半値以下でだ」


「なっ……正気か。そんなことをすれば、貴様の商会が破産してしまうぞ」


 ルビアは身を乗り出して驚いた。彼女の常識では、それほど大量の物資を安価で提供するなど、不可能を通り越して狂気の沙汰だった。しかし、タケシにとっては「無限在庫」から出てくる廃棄品を流すだけなので、原価は実質ゼロである。


「俺の心配は無用だ。その代わり、俺からの条件は二つ。一つは、魔王軍の正規兵を、俺の商会の専属護衛として雇い入れること。俺の流通ルートを、領主の兵やゴロツキから完全に守り抜いてほしい」


 タケシの言葉に、ルビアはハッと息を呑んだ。魔王軍の圧倒的な武力を、戦争ではなく物流の護衛として使う。それは、異世界の常識を根本から覆す発想だった。


「そして二つ目。魔王軍の領地に、俺の商会の巨大な物流拠点を作らせてほしい。そこを足場にして、人間側の領主が牛耳っている経済圏を一気に飲み込む」


 タケシの目は、野心に燃える冷徹なビジネスマンのそれだった。領主の街で起こしたカップ麺の騒動は、ほんの小手調べにすぎない。魔王軍という最強の物理的バックボーンを得ることで、タケシの商圏は他者の介入を一切許さない無敵の要塞となる。


「……貴様は、本物の悪魔だな」


 ルビアはタケシの描いた図面を見つめながら、畏怖の混じった声でつぶやいた。人間の商人が、魔王軍の武力を使って人間の領主を経済的にすり潰そうとしている。そのあまりに合理的で冷酷な計画に、背筋が寒くなるのを感じていた。


「褒め言葉として受け取っておくよ。どうだ、悪い話じゃないだろう。これで魔族は飢えから救われ、俺は安全に商売ができる。お互いに利益がある関係だ」


 タケシは手を差し出した。ルビアはその手をじっと見つめ、大きく息を吸い込んだ。彼女の瞳にもう迷いはなかった。部下たちを腹いっぱい食わせることができるなら、悪魔とでも契約を結ぶ。それが彼女の王としての覚悟だった。


「わかった。その契約、魔王ルビアの名において承諾しよう。今日から我が軍は、貴様の商会の剣にして盾となる」


 ルビアがタケシの手を力強く握り返した瞬間、異世界最強の武力と、地球の無限在庫が結びついた、前代未聞の商会が誕生した。


「タケシさん。魔王様。デザートの準備ができましたよ」


 緊張感のある契約の場を和ませるように、リリアが満面の笑みで巨大なボウルを抱えて近づいてきた。ボウルの中には、タケシの「在庫」から大量に出されたフルーツ缶詰のシロップ漬けがたっぷりと入っている。


「おおっ。それはなんだ。透き通った水の中に、色鮮やかな果実が」


 先ほどまでの威厳はどこへやら、ルビアは目をキラキラさせてボウルに飛びついた。スプーンで桃の果肉をすくい上げ、口に入れた瞬間、彼女の顔がとろけるように緩んだ。


「あまーい。こんなに甘くて柔らかい果実、食べたことがない」


「まだまだたくさんありますから、ゆっくり食べてくださいね、ルビアちゃん」


 リリアがすっかり打ち解けた様子で、ルビアの背中を優しく撫でる。魔王軍の兵士たちとエルフたちが、肩を並べて缶詰のフルーツをつついている光景。それは、タケシが作り上げた新たな日常の、一つの到達点でもあった。


 しかし、この強固な同盟の成立は、領主側にとって致命的な脅威となる。魔王軍という絶対的な武力を背景にしたタケシの物流網は、いよいよ人間の領主が支配する経済圏の喉元に、その牙を突き立てようとしていた。

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