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無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜  作者: 黒崎隼人


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第5話「真空パックがもたらす錬金術」

 領主の兵士たちが大量の米とハーブティーを持ち帰ってから数日が経過した。村は以前とは見違えるほどの活気を取り戻していた。崩れかけていた家屋はブルーシートと真新しい木材で補強され、広場の中央にはタケシが提供したアウトドア用の大型テントがいくつか張られている。エルフたちはタケシの指示のもと、すっかり見違えた顔つきで作業に勤しんでいた。


「タケシさん、お願いされていたものが集まりました」


 リリアが弾んだ声でタケシの作業用テントに駆け込んできた。彼女の腕には、森の奥で摘み取られた色とりどりの薬草が抱えられている。その中には、先日の徴税で領主が要求していた特級の月光草も大量に含まれていた。


「お疲れ様、リリア。ずいぶんたくさん採れたな」


 タケシはパイプ椅子から立ち上がり、折りたたみ式のテーブルの上に薬草を広げさせた。青みがかった葉から、微かに清涼感のある香りが漂う。月光草は確かに貴重な薬草だが、鮮度が落ちるのが異常に早く、摘み取ってから半日もすれば薬効のほとんどが失われてしまうという厄介な性質を持っていた。それが、領主が無理難題として要求した理由の一つでもあった。


「でも、タケシさん。これ、すぐに街へ持っていかないと、枯れてただの雑草になってしまいます。どうするんですか」


 リリアの心配そうな顔に、タケシは自信たっぷりに頷いた。


「心配いらない。ここからが、俺のスキルの見せ所だ」


 タケシは「無限在庫処分」のシステムを呼び出し、目の前のテーブルに一台の機械を出現させた。それは、地球の食品工場やレストランで使われている、業務用の真空パック機だった。さらに、大量の透明な専用フィルム袋も傍らに積み上げる。これらは、最新型の全自動モデルが導入されたことで一斉にお払い箱になった、旧型の機械と余剰資材だ。


「なんだい、その鉄の箱は」


 不思議そうに覗き込むエルフたちを前に、タケシは手際よく月光草の葉についた汚れを一枚ずつ丁寧に拭き取り、透明な袋の中に並べて入れた。そして、袋の口を真空パック機のスリットに挟み込み、スタートボタンを押した。


 ウィィィンという低いモーター音がテント内に響き渡る。次の瞬間、袋の中の空気がみるみるうちに吸い出され、透明なフィルムが月光草の葉にぴったりと密着した。プシューッという音とともに機械の蓋が開き、タケシは完全に密閉された月光草のパックを取り出してリリアに手渡した。


「これなら、空気に触れないから酸化しない。半日どころか、何ヶ月経っても摘みたての鮮度と薬効を保ったままだ」


 リリアは真空パックされた月光草を光に透かし、信じられないというように目を丸くした。


「すごい……葉っぱが、ガラスの中に閉じ込められたみたい。これなら、遠くの街まで時間をかけて運んでも、最高級品のまま売れるわ」


「その通りだ。領主が牛耳っている市場には、この鮮度保持パッケージに入った月光草を大量に流し込む。向こうの商人がどんな顔をするか、今から楽しみだな」


 タケシの言葉に、周囲のエルフたちから歓声が上がった。彼らはタケシの指導の下、手分けして薬草の洗浄と袋詰め作業を開始した。真空パック機がリズミカルな音を立てて稼働するたびに、異世界の傷みやすい特産品が、長期保存可能な高付加価値のブランド商品へと生まれ変わっていく。


 タケシの戦略は明確だった。領主が支配する街の市場は、品不足と高額な税によって慢性的なインフレ状態に陥っていた。そこへ、地球の保存技術を用いて圧倒的な品質を維持した特産品と、廃棄予定だった大量の日用品を安値で大量に流通させるのだ。


 数日後、タケシはリリアたちとともに、真空パックされた月光草と日用品を積んだ荷馬車を引き、領主の治める街へと向かった。街の入り口では厳しい検問が行われていたが、タケシが流れの商人だと名乗ると、兵士たちは顔色を変えて道を開けた。


 市場の中心に陣取ったタケシは、簡易的な陳列棚を組み立て、商品を並べ始めた。色鮮やかなプラスチックのパッケージに包まれた石鹸、純白のタオル、そしてガラスのように透明な袋に密閉された月光草。異世界の薄暗い市場において、タケシの露店は異様なまでの存在感を放っていた。


「さあ、いらっしゃい。ここでしか手に入らない、最高品質の品々だ」


 タケシが声を張り上げると、物珍しさから瞬く間に人だかりができた。最初に食いついたのは、街の裕福な商人たちだった。彼らは真空パックされた月光草を手に取り、そのあり得ない鮮度に度肝を抜かれた。


「な、なんだこれは。魔法の保存箱でも使わなければ、こんな鮮度は保てないぞ。いくらだ、言い値で買う」


「こちらのセッケンという香りの良い塊も素晴らしい。領主様が使っている高級品よりも泡立ちが良いじゃないか」


 飛ぶように売れていく商品。タケシは涼しい顔で金貨を受け取りながら、心の中でほくそ笑んだ。地球ではゴミとして捨てられるはずだったものが、ここでは富と権力を吸い上げるブラックホールのように機能している。


 しかし、この異常なまでの盛況ぶりが、領主の耳に入らないはずがなかった。市場の喧騒を切り裂くように、武装した兵士の一団が露店を取り囲んだ。その中心には、先日タケシから米を巻き上げたあの小役人が、青筋を立てて立っていた。


「貴様。許可なくこのような怪しげな物を大量に売りさばくとは、何事だ。市場の相場が崩壊してしまうではないか」


 小役人の怒鳴り声に、市場の客たちは一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。タケシは慌てることなく、残った真空パックの月光草を一つ手に取り、小役人の鼻先に突きつけた。


「相場が崩壊する。違うな。俺はただ、適正な価格で高品質なものを提供しているだけだ。それとも、領主様は自分の民が良いものを安く手に入れるのが不満だとでも言うのか」


 タケシの静かだが冷たい声に、小役人は言葉に詰まった。周囲には、タケシの言葉に同調するような街の住人たちの冷ややかな視線が集まっていた。タケシの仕掛けた経済侵略は、すでに領主の足元を確実に蝕み始めていた。

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