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無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜  作者: 黒崎隼人


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第4話「強欲な徴税と段ボールの山」

 空を覆っていた厚い雲が割れ、赤紫色の陽光が修繕されたばかりの村の屋根を照らし出した。色鮮やかなブルーシートが不釣り合いに輝く広場は、数日前までの死の静寂が嘘のように活気づいている。しかし、その穏やかな空気を引き裂くように、森の入り口から耳障りな金属音と馬のいななきが響き渡った。


 タケシは作業の手を止め、電動ドライバーを腰のベルトに差し込んだ。隣で木材を運んでいたリリアの肩が、びくっと跳ねる。彼女の透き通るような青い瞳には、隠しきれない恐怖の色が浮かんでいた。他のエルフたちも同様に、顔を強張らせて作業道具を握りしめている。


「来た……領主の兵隊たちよ」


 リリアの震える声に重なるように、鈍く光る鎧を身にまとった五人の男たちが広場に乗り込んできた。先頭を進むのは、脂ぎった顔に傲慢な笑みを貼り付けた小太りの男だった。豪華な刺繍が施されたマントを羽織り、いかにも権力を笠に着た小役人といった風情だ。彼が乗る立派な馬の蹄が、エルフたちが手入れしたばかりの地面を無遠慮に蹴り立てる。


「おいおい、なんだこれは。ずいぶんと小ぎれいになっているじゃないか」


 小役人は馬から降りるなり、ブルーシートで補強された屋根や、整然と積まれた木材の山をねっとりとした視線で舐め回した。その目がタケシの姿を捉えると、眉間に深いしわが刻まれる。


「お前、見ない顔だな。エルフの村に人間が入り込んでいるとは。まあいい、誰であろうと関係ない。今日は税の徴収日だ。まさか、家を直す余裕があって、納める麦や薬草がないとは言わせないぞ」


 小役人の背後で、武装した兵士たちが剣の柄に手をかけ、威圧的に一歩前に出た。村の空気が一気に張り詰める。タケシはゆっくりと前に進み出た。スーツの上着は脱いでいたが、仕立ての良いワイシャツとスラックス姿は、この異世界において異質な存在感を放っていた。


「俺はタケシという、流れの商人だ。この村の者たちは、俺が雇っている。税の支払いについては、俺が対応しよう。要求はなんだ」


 タケシの落ち着き払った態度に、小役人は鼻で笑った。


「商人だと。こんな貧乏村で何を商うというのだ。まあいい、今年の税は、上質な麦を大袋で三十、それに森の奥でしか採れない特級の月光草を百束だ。払えなければ、村の女どもを街の娼館に売り飛ばす。それが領主様の決定だ」


 周囲のエルフたちから、絶望の混じった悲鳴が上がった。月光草は魔力回復の薬効を持つ貴重な薬草だが、凶悪な魔物が生息する森の深部にしか群生していない。百束など、今の村人たちに集められるはずがない。ましてや、麦の三十袋は、不作が続くこの村の全収穫量を遥かに超えている。明らかな嫌がらせであり、最初から村を潰すか、奴隷として売り飛ばすための無理難題だった。


『なるほどな。典型的な悪徳領主のやり口だ』


 タケシは心の中で冷たく分析した。相手は完全な力関係の優位を背景に、交渉の余地すら与えないつもりだ。だが、タケシにとってこの状況は、むしろ好都合だった。彼はワイシャツの袖をまくり直し、胸ポケットからボールペンを取り出して指先で軽く回した。商談の場における、彼なりのスイッチを入れる儀式だ。


「麦三十袋と、月光草百束だな。わかった。今すぐ用意しよう」


 小役人と兵士たちは、タケシの言葉に一瞬ポカンと口を開け、次の瞬間、腹を抱えて爆笑した。


「はははっ。気でも狂ったか。お前の背中の粗末な鞄のどこに、それだけの物資が入っているというのだ。虚勢を張るのもいい加減にしろ」


「虚勢かどうかは、見てから判断すればいい」


 タケシは振り返り、広場の隅にある空き地に視線を向けた。そして、脳内の「無限在庫処分」システムにアクセスする。検索ワードは非常用備蓄米、乾燥ハーブ、高級茶葉。条件は賞味期限切れ間近、パッケージ印字不良、旧規格品による大量廃棄予定のロットだ。


『出ろ』


 タケシが静かに念じると、空き地の空間が激しく歪み、ドドドォォンという地響きとともに、巨大な段ボールの山が出現した。兵士たちが悲鳴を上げて尻餅をつき、小役人は目をひんむいて後ずさった。土埃が舞い上がり、紙とインクの真新しい匂いが広場に広がる。


「な、なんだこれは……魔法か。空間収納の魔法具でも使ったというのか」


 小役人が震える指で段ボールの山を指差す。タケシは悠然と歩み寄り、一番手前にある三十キログラム入りの業務用米の紙袋をカッターで鮮やかに切り裂いた。中から、精米されたばかりの白く透き通るような米粒が滝のようにこぼれ落ちる。


「これが麦の代わりだ。俺の故郷の最高級の穀物で、コメと言う。麦より遥かに腹持ちが良く、味も格別だ。これを三十袋、いや、おまけで五十袋出そう」


 タケシはさらに別の小さな段ボールを開け、中から銀色のアルミパックを取り出した。高級ハーブティーのティーバッグがぎっしりと詰まっている。


「そしてこれが、月光草の代わりだ。お湯を注ぐだけで、体力を劇的に回復させ、精神を安定させる効果がある。百束どころか、千杯分は軽くあるぞ」


 小役人は信じられないという顔で、こぼれ落ちた白米を手に取り、震える手で匂いを嗅いだ。異世界では見たこともない純白の穀物。そして、ハーブティーのパックから漏れる、複雑で高貴な香り。どれも、この地方の貧相な市場では絶対にお目にかかれない代物だった。


「こ、これを全部、税として納めるというのか」


「ああ。領主様への献上品として、特別に譲ってやる。ただし、条件がある」


 タケシは小役人の目の前に立ち、見下ろすように冷たい視線を向けた。


「この村は、俺の商会の直轄地とする。今後一切、税の徴収や不当な要求のために兵士を入れることは許さない。もし約束を破れば、これ以上の物資は二度とお前たちの街には流通しないと思え」


 圧倒的な物量の前に、小役人は完全に呑まれていた。これだけの未知の高級品を持ち帰れば、領主からの評価はうなぎ登りになる。目先の利益に目がくらんだ彼は、もはやタケシの要求を拒否する理由を持っていなかった。


「わ、わかった。領主様にはそのように報告しよう。おい、お前ら。急いでこれを荷馬車に積め」


 小役人が慌てて兵士たちに指示を出すのを、タケシは静かに見守っていた。荷馬車に積まれていくのは、地球の食品工場で毎日何トンと廃棄されている、ほんの少し規定の重量に満たなかっただけの米と、賞味期限が三ヶ月を切ったハーブティーだ。それが今、村の運命を変える強大な武器となった。


 荷馬車が重々しい音を立てて森の奥へ消えていくと、広場には静寂が戻った。リリアが信じられないものを見るような目で、タケシに駆け寄ってきた。


「タケシさん……あんなにたくさんの素晴らしいものを、本当にあげてしまってよかったの」


 タケシは胸ポケットにボールペンをしまいながら、ニヤリと笑った。


「問題ないさ。あれはほんの挨拶代わりだ。あいつらは必ず、あのコメとハーブティーの味の虜になる。もっと欲しがるようになった時が、俺たちの本当の商売の始まりだ」


 タケシの目は、すでに村の復興という小さな枠を越え、領主の経済基盤そのものを飲み込む巨大な流通網の構築を見据えていた。

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