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無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜  作者: 黒崎隼人


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第10話「商圏の拡大とダンボール要塞」

 タケシ商会と魔王軍の業務提携から数週間が経過した。エルフの村から魔王の領地へと続く獣道は、今や立派な街道へと変貌を遂げつつあった。タケシが「無限在庫処分」から引き出した型落ちの土木機械である小型のブルドーザーやロードローラーを、エルフたちの手先と魔族たちの圧倒的な筋力で操り、森を切り拓いて整地していったのだ。


 その光景は、ファンタジー世界と現代の工事現場がシュールに融合した、異様な熱気に満ちていた。黄色い重機が低いエンジン音を響かせながら土を平らにし、その横を漆黒の鎧を着た魔族のオークたちが、信じられない軽さで丸太の束を担いで運んでいく。


「タケシさん。魔王領への第一中継拠点が完成しました」


 リリアが土埃にまみれながらも、満面の笑みで駆け寄ってきた。彼女が指差す先には、木材とブルーシート、そして大量の空の段ボール箱を再利用して築かれた、巨大な倉庫群がそびえ立っていた。段ボールには特殊な樹脂スプレーがコーティングされ、防水や防汚処理が施されている。遠目には奇妙なモザイク柄の要塞にしか見えないが、異世界のどんな石造りの蔵よりも乾燥と温度管理が行き届いた、最新鋭の物流拠点だった。


「お疲れ様、リリア。これで魔王領への大規模な物資輸送が本格的に始められる」


 タケシはヘルメットを脱ぎ、作業着の袖で額の汗を拭った。彼の視線の先には、整然と並べられた無数の段ボール箱がある。中身は米、レトルト食品、カップ麺、缶詰、そして大量の防寒着や医薬品だ。これらはすべて、地球のどこかで賞味期限切れ間近やパッケージ変更などの理由だけで廃棄のハンコを押されたものたちだ。それが今、この異世界において、数万の魔族の命を繋ぐ血液となろうとしている。


「それにしても、この箱の城はすごいな……中に入ると、外の熱気が嘘のように涼しい」


 背後から、魔王ルビアが感嘆の声を漏らしながら近づいてきた。彼女は相変わらず過剰な装飾のドレス姿だが、その上からタケシが提供した機能的なウインドブレーカーを羽織っている。奇抜な組み合わせだが、彼女の持つ威厳と美貌が不思議とそれを着こなさせていた。


「この段ボールってやつは、空気を閉じ込める構造になっているから断熱効果が高いんだよ。それに、防虫剤を一緒に置いておけば、虫一匹寄り付かない」


 タケシが説明すると、ルビアは壁面の段ボールをぺたぺたと触り、そのスベスベとした感触に目を丸くした。


「魔法も使わずに、紙とやらでこれほどの空間を作るとは……人間よ、いや、タケシ。貴様の発想には恐れ入る。我が軍の補給線は、これで過去最高に安定するだろう」


 ルビアの言葉には、もはや警戒も疑念もなかった。彼女の赤い瞳には、タケシに対する深い信頼と、領民を飢えから救えるという確かな安堵が宿っている。


「補給線が安定したら、次は攻勢に出る番だ。ルビア、君の兵士たちに、領主の街へ続く主要な街道を警備させてほしい。もちろん、正当な護衛業務としてな」


 タケシは作業着のポケットからタブレット端末を取り出し、画面に表示された地図をルビアに見せた。


「領主の街に流れる物資の七割は、この三本の街道を通っている。ここに俺たちの関所を設け、魔王軍の旗を掲げる。武力衝突は避けるが、圧倒的な威圧感で他国の行商人を足止めするんだ」


 ルビアは地図を覗き込み、鋭い犬歯を覗かせてニヤリと笑った。


「なるほど、兵糧攻めか。関所を通したければ、貴様の商会から法外な通行料を買わせるのだな」


「いや、逆だ」


 タケシは静かに首を振った。


「通行料は一切取らない。むしろ、他国の行商人には、俺たちの在庫から安価で高品質な商品を卸してやる。彼らは領主の街でそれを売るだろう。結果的に、街の市場は俺たちの商品で完全に埋め尽くされる」


 ルビアは一瞬ポカンとし、そしてタケシの恐るべき真意を悟って息を呑んだ。


「貴様……武力で道を塞ぐのではなく、経済そのものを自分の色に染め上げるつもりか。街の富を、音もなく吸い尽くす気だな」


「その通りだ。領主が設定した高額な税を払ってでも、市民は俺たちの商品を買うようになる。領主の蔵には税金が入るが、街の産業は完全に死に絶える。最終的に、領主は俺たちから物を買わなければ生きていけない依存状態に陥るのさ」


 タケシの冷徹な声が、涼しい倉庫の中に響いた。武力による破壊ではなく、圧倒的な供給による経済侵略。それは、地球の巨大企業が新興国の市場を飲み込む際の手法そのものだった。ルビアは背筋に冷たいものを感じながらも、同時にこの男と敵対しなくて本当に良かったと心底安堵していた。


「悪魔め。だが、我が軍にとってはこれ以上ない戦術だ。兵士の血を一滴も流さず、人間の領主の首を真綿で締めることができるのだからな」


 ルビアは満足げに頷き、外で休んでいる部下たちに向かって声を張り上げた。


「野郎ども、聞いたか。これより我々は、タケシ商会の専属警備隊として出陣する。腹いっぱいカレイライスを食った恩を、今こそ返す時だ」


 魔族たちの野太い歓声が倉庫に反響し、森を震わせた。漆黒の鎧を着たオークやワーウルフたちが、巨大な矛や戦斧の代わりに、タケシ商会正規護衛と書かれた真新しい腕章を身につけ、次々と街道へ向かって行軍を開始した。


 それを見送るタケシの隣で、リリアが少し心配そうに見上げてきた。


「タケシさん……領主様、怒って軍隊を出してきませんか。もし街の中で戦いになったら、関係ない人たちまで」


「大丈夫だ、リリア」


 タケシはリリアの銀色の髪を優しく撫でた。


「領主は絶対に出兵できない。なぜなら、その時にはもう、彼に兵士を動かす金が残っていないからだ」


 タケシの眼鏡の奥で、確信に満ちた光が鋭く瞬いた。物流を制する者は、世界を制する。四十代の窓際サラリーマンが異世界に仕掛けた壮大な経済ゲームは、いよいよ終盤のチェックメイトに向けて動き出していた。

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