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八百万な君を

作者: 晴埜あこ
掲載日:2026/02/19

「ハロウィンでしょ? 知ってるよ、そんなの」


 小さい人はそう答えました。

 すると小さい人より大きい人は、キュッと笑って言いました。


「知ってる? 知ってるって何を? 言葉を? 意味を? そもそもおかしな話だ。こちらでは関係がないだろう?」

「そんな言い方、失礼」


 大きい人の口ぶりに、小さい人はぷりぷりと怒りを交えて返します。

 辺りは手元が見辛くなり、空は群青色に変わっています。一匹のコウモリが洞窟の森へ入っていくのが見えました。どうやらもうすぐ夜のようです。


「あは、ごめん。でもそうだろう? こちらでは、魔術師なんて」

「いないことは……ない、と思う。神を祀る人達は力を持つと聞いたよ」

「ふぅん、そうなんだ」


 問いかけておいたにも関わらず、大きい人は小さい人の回答には興味がない様子。その態度に、また小さい人がぷりぷりしだしました。


「もう! さっきから!」


 そっぽを向く小さい人を見て、大きい人は心から楽しそうな声をあげて笑います。

 その笑い声に、また小さい人はきっと睨みつけて言います。


「そうやって揶揄ってばかり! 何様ですか」


 小さい人の言葉に、大きい人は少しぴくりと肩を反応させて、「何様、かあ……」と呟きました。

 そして大きい人はニタリと不気味な顔を覗かせて小さい人に向き合います。


「な、なんですか……」


 小さい人はその様子に肩をすくませます。

 大きい人はそんな様子の小さい人なんて興味がないように、遠くを見据えた様子で言いました。


「何者、なんてこと何の意味もない。今君が誰であろうと、私が誰であろうと。この世界においてはほんの小さなことだ」


 訳が分からない、といった様子の小さない人は首をかしげます。

 その様子をまじまじと見ていたコウモリは合図を出し、近くにいたフクロウがか細く鳴きました。

 あたりはもう真っ暗で、灯りがないと手元も見づらくなってきました。町のほうではオレンジ色の薄ぼけた光が目立ちます。今日はそれがやけに不気味で、小さい人を身震いさせました。


「さ、話は終わり。で? 君はどうする?」

「どうするって……仮装になどには興味ありません。もともと今日はお参りの日で、そのような祭りに参加する意向もありません」

「そうか……それは非常に残念だ」


 大きな人はそう呟くと、待っていたコウモリに目配せをします。それを合図に、コウモリは聞こえぬ音を仲間へ飛ばし、森に潜む様々な者たちへ呼びかけます。

 木々のゆらめきに異変を感じた小さな人は、大きな人を先程とは違う冷たい眼で睨みました。


「なにを、したんですか?」

「ふふ。君とは、もう少し仲良くなりたいんだ」

「ここは神聖なる場所。出て行ってください」


 凛とした声で小さな人は返します。けれど──


「もう、遅いよ」

 その一言を暗闇に溶かし、大きな人はスッと目を細め小さな人を捕えます。小さな人は身震いをしますが、ここで逸らしては呑まれそうで、ぐっと足に力を込めました。


「まずは君から、嬉しいな」


 大きい人が呟き、手を振りかざそうとした瞬間。


『 』

「……っ!」


 声ならざるものの声が響き、大きい人は手を止めました。


「……なんだと?」

『やめロ、ソイツは喰えないゾ』


 そこに鎮座するのはフクロウです。小さい人には何が起きているかわかりませんが、それを気にすることもなく大きい人はフクロウと会話を続けます。


「どういう意味? 力不足だと言いたいの?」

『まさカ。ソイツの格好をよく見ろヨ』


 そう続けたフクロウに怪訝な目を向けつつ、大きい人は小さい人を見ました。

 確かに、と大きい人は頷きフクロウに向き直ります。


「これも、仮装になるってこと?」

『あぁ、そうダ。まったク、厄介な国サ。ここはよウ。理由付けなんていくらでもできちまウ』

「本当だ……嫌だねぇ」


 呆気に取られた小さい人でしたが、一瞬の隙に懐から縦長の紙を取り出し体制を整えます。

 深く息を吐き、改めて大きい人を眼中に捉え構え叫びます。


「……何がなんだか分かりませんが、貴方がそうなら私も考えがありますっ」

「へぇ? 到底どうにかできるなんて思わないけど。でもまぁ、安心して? もう何もしないから」


 大きい人はフッと口角を上げ、次の瞬間には小さい人の隣まで追いつき、


「……()()()()


 そう耳元で呟くと、一瞬にして風となりコウモリやフクロウ諸共姿を消しました。

 一気に体の力が抜けた小さい人はへなへなと地面に座り込みます。


「なん、なんなんだ……あの、南瓜頭」


***


「あーっ、損した損した! なんだよ、あれは仮装じゃないだろ? あの服装で生活しているならさぁ」

『そうは言ってもな。そもそもオマエ、今年は偵察に留めるという話だったじゃないカ』

「そうだっけ? お菓子を食べそうな柄じゃなかったし、興味あったんだけどなぁ。八百万(やおよろず)の考えな人」

『フン。オマエの好みなんざ聞いてねェ』

「まぁ、別に今じゃなくてもね。もう少し寝かせて食べ頃を待つのも楽しいさ。死者へのケーキもここにはないしね」


「せいぜい、仮装を楽しむんだな」


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