二人の話
國崎神社の裏門は人通りがほとんどない。
だから私は、叔母を突き落とした。
「そういえば、働いたら毎月半分は家にいれるんだよ。例え、一人暮らししてもだよ。わかったか?」
ーードンッ
「何するのさ!」
「死ね!」
「キャーー」
階段を転がり落ちる叔母を見ながら、これでようやく逃げられると思った。
思ったのに……。
飯沢君……。
同じクラスの飯沢健が居た。
また、脅される日々が始まる。
それなら、いっそ。
警察に捕まる方がいい。
それなのに、彼はしなかった。
私を脅すことも、警察に通報することも。
いつまで、続ける?
こんなことを。
いつまで。
ーーあれから、2年半も経った。
叔母の件は、事故死として処理されている。
「もう1人殺したい人って?」
「伯父よ」
「じゃあ、今回も事故に見せかけて」
「必要ないわ」
「どうして?」
「ずっと、考えていたの」
「何を?」
「叔母を殺してからの日々よ」
私は、飯沢君に話す。
この2年半の思いを全部。
「僕といるのが嫌になった?」
「そうじゃない。ただ、気分が晴れなかった」
「どういう意味?」
「叔母を殺したいって思っていた時は、毎日どうやって殺すかって考えて生きていた。怒りに支配されていたけれど、生きるエネルギーは強かったと思うの。でも、今は何もないの。死んだら憎めなくなった。ただの終わりがやってきただけ。何の償いもされてないのに終わったのよ。いや、終わらしたのは私。ただただ、虚しいだけ。飯沢君、私。知らなかったの。殺せば全て解決すると思っていたから。でも違うんだね。だから、法律ってのがあるんだね」
「上里さん……」
彼女にかける言葉が見つからない。
あの日のような彼女はいない。
今、目の前にいる彼女はエネルギーのなくなった屍のようだ。
死なないで……って言葉を飲み込んだ。
もしも、彼女が今、死を選んだとしてもやっぱりって言葉がしっくりくる。
「結婚しよう」
「えっ?」
「生きるエネルギーってのに僕がなるとは思わない。だけど、上里さんが明日も生きていたいと思える相手には……なれないよね。ごめん」
「ううん、ありがとう。でもね、この先は一人で歩いて行くから。飯沢君、ありがとう。私は、君に脅されるって思ってた。でも、君は違った。脅すどころか、いつだって傍にいてくれた。私も君を好きになれていたら違ったのかな?ごめんね」
「謝らないで」
「結婚したいって思ってくれてありがとう。じゃあね」
「また、いつか」
僕の言葉に彼女は頷くこともなくいなくなった。
伯父さんを殺すことは、きっとしないだろう。
いや、わからない。
僕には、彼女の考えが……。




