◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
これは数日前に私の町で起きた出来事です。
私の町では、数週間前から電柱や標識などに油性の赤いボールペンで◯印を付けていく奇妙な事件が流行っていました。一時期警察も動いていたのですが、結局犯人は見つからず、ただのイタズラとして処理されました。
そうして不気味なイタズラが続いていた中、とあるオカルト系ユーチューバーの人が調査に乗り出しました。
名前は「オカルトジャパン」という方で、トレードマークは白のキャスケット帽に無地の白シャツという白尽くしの人です。
その人はオカルト系ユーチューバーの中では有名な方で、私も好きで彼が投稿した動画をいくつか見ていました。
そんな彼が生放送で私の町の不思議な事件を調べるという事で、私はワクワクしながら動画を観ていました。
件の赤い◯印を前に、オカルトジャパンさんはテンション高めに説明していました。彼の持ち味はどんなに怖い所でも明るく元気に紹介してくれる事です。
それから、赤い◯印に付いて「ただのイタズラ説」以外に「犯罪者グループによる何らかのメッセージ説」や「精神異常者の奇行説」など、色々な説をのべつまくなしに語っていた中、不意に中年の小太りな女性が、自撮り棒で撮影していたオカルトジャパンの背後にやって来ました。
オカルトジャパンさんが「あ、ちょうどいいところに第一町人が来てくれました。お話を伺ってみましょう」とにこやかに中年女性へとカメラを向けました。
「すみません。少しお時間いいですか?」
「はい。もしかして、ユーチューバーのオカルトジャパンさんで合っていますか?」
「あ、もしかして僕のファンですか? いやー、嬉しいなあ。よければサイン書きましょうか?」
「いえ。サインならわたしが書きますから」
は? というオカルトジャパンさんの声が聞こえたあと、カメラが急に地面へと傾きました。
なにがあったのだろうと首を傾げながら動画の続きを見ていると、やがてカメラの視線が上がったと共に、中年女性のニコニコ顔が映し出されていました。どうやら、今度はこの中年女性がカメラの撮影をしているようでした。
「わたし、前々からあなたに会いたいと思っていたんですよ。わたしが所有している賃貸アパートを怪奇アパートとして動画で紹介されてから、ずっとずっと」
突然、動画から「きゃー!」という悲鳴が聞こえてきました。その悲鳴は断続的に響き、やがてその場から逃げようとしているかのような足音すら聞こえてきました。
中年女性の顔しか映っていないので、一体何が起きているのだろうと困惑していると、中年女性はゆっくりカメラの向きを変えました。
「あなたの動画のおかげでね、入居者が相次いでいなくなっちゃったの。まだ建てて三年くらいしか経っていないのに、とんだ大赤字だわ。売却しようにもあの動画のせいで買い手がつかないし、もう自己破産するしか手がないくらい追い詰められちゃったわ。おかげで家族もバラバラよ。
それでね、わたし考えたの。これは復讐しないと気が済まないって。だからわざとこの町に赤いボールペンで◯印を付けていったの。そうしたら、オカルト好きのあなたなら、きっと食い付くと思って♡」
カメラには、胸をナイフで刺されたオカルトジャパンさんが仰向けに倒れていました。
カメラが地面に倒れた時、中年女性がオカルトジャパンさんをナイフで刺したのだと今さらながら気が付きました。
「よかったわあ。わたしのイメージ通りの姿になってくれて。ほら、視聴者の皆さんも見て。オカルトジャパンさんのサインみたいになったでしょう?」
無地の白いシャツに、赤黒い血がみるみる内に広がっていきます。
それはまるで、日の丸のようでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
もしよろしければ、感想、レビュー、ポイントなどを下さると幸いでございます。