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第96話 転生幼児の鍛冶屋さん、始動!

やばい、村編が思ったよりも長引いている……


 そして、翌日から早速とばかりに鍛冶場に修理する農具類が運ばれてくる。約束通り、最初は損傷が少なく比較的小物ばかりだった。


 尚、クリンに付けられる事になった自警団員はトマソンだった。朝早くに大量の農具を運び、どんよりとした顔で立っていたトマソンを見てクリンは驚いた物である。


「次期団長候補様が直々に警護と雑用とか、この村の自警団ってそんなに人材豊富なんですかね? 普通こういうのって青剃りマルハーゲンとかの下っ端のお仕事じゃないです?」

「誰だそれは? ……それに別に団長候補は村長が勝手に言っているだけだ。そもそも候補なら君が知っているだけでマクエルとロッゾもそうだ。他にも何人もいるよ」


 トマソンはそう言うと、溜息を吐きつつ経緯を話しだした。


「昨日の事で村長に長々と説教食らってね。『良い機会だからあの子供に付いて、話術や交渉術を身近でしっかり観察してこい』と言われてね……そして班長クラスも交代で君の会話術を学べと言う事で持ち回りになったんだ……」

「それは何というか……ご愁傷様です? と言うか唐突に何か面倒臭そうな事も追加で押し付けられているんですが?」


「ああ、コレはコチラで勝手にやる事だから、君は気にしなくていいと村長が言っていたよ。まぁ、折角早く来たんだ。暑くなる前に仕事を始めてしまおう」


 トマソンに促され、クリンは一緒になって持ち込まれた農具を鍛冶場へと運んでいく。そして、一つ一つ状態を確認し、直せるか直せないかの判断をしていき、同時にどういう修理をしていくか——簡単に言えば炭を使うか使わないかをトマソンに告げていく。尚この時に使う炭はクリンの手製では無く、鍛冶場に補完されているちゃんとした物で、クリンにとっては悔しいが燃焼効率が遥かに良い。


 そうして、マクエルがその修理法で良いとOKを出すと、早速修理に取り掛かる。


 のが本来なのだが、それよりも先にクリンは完成したばかりのノコギリとノミを持って、唐突にマクエル達から貰った丸太の内の一本を切り出し始め、物凄い勢いで幾つかの木材を作り出していく。


「お、おいクリン君!? いきなり何を……?」

「ぶっちゃけ昨日の今日で現物持って来て『さぁ直せ』と言われても何の用意も出来てないんですよっ! と。そんな訳で先ずは修理に必要な物を作る所からですっ!」


 言いつつ、切り出した木材を様々な角度を付けて削って行く。一時間程で数種類の木材が鑢を掛けられてトマソンの前に並んだ。


 こんな物をどうするのか、とトマソンが思っているのを尻目にクリンは曲がってしまった農具——手鎌を手に取るとその手鎌の角度に丁度合う木材を見繕い、それに当てて鎌の刃の部分を槌で叩いて伸ばしていく。


「成程、型代りか……」

「当て木と言います。本当は鉄板で補強したいんですけれども贅沢言わなければこれでも使えます。っと。コレはこんな物かな。刃の方に欠けは無いし……そう言えば砥ぎはどうします? 一応しておきます?」


「そうだな、出来るならお願いしたい」

「りょーかいです。じゃ後で纏めてやるとして。……本当は加熱して軽く叩いて焼き入れした方が丈夫になるんですが……勝手にやるとお金貰えないですからこれで終了って事にしておきます。じゃ、次を」


「……早いな……見た限りちゃんと歪みも無いし……随分と手際が良い」

 次の農具を渡しながらトマソンが言うと、受け取ったクリンは再び角度の合う木材を選びつつ、

「まぁ叩いているだけですからね。手際と言うか力加減の問題です……ん、これかな」


 そう言って別の当て木に乗せてまた叩いて歪みを取って行く。こちらも物の数分で歪みが無くなる。そうやって次々と叩いて歪みを直していけば、二時間程で軽度の歪みと判断された物は全て直し終ってしまっていた。


「ふぅ。後は焼き入れて叩く必要が有るので、暑くなってきたから後は涼しくなる夕方ですね。結構疲れましたし休憩がてらに研ぎが要る物を片付けますか」


 サッと作業場を一旦片付けで、砥ぎ用の道具をセットするとシャコシャコと歪みを直した鎌や鋤の刃先を研いでいく。刀剣では無いのでそこまでの研ぎは必要ない為かコレも直ぐに終わらせてしまい、午前中の仕事は終了となった。


「いやはや……これでも元衛兵だから鍛冶師の作業に立ち会った事が何度もあるが……君の手際はまるで一端の鍛冶師の様だ。もうスキルも持っているんじゃないか?」


 片付けをしていると、トマソンがそんな事を言って来るのに、クリンは苦笑いを浮かべて首を振る。


「前の村で色々やらされましたからねぇ。ですが恐らくスキルはまだですね。鍛冶と言ってもまだサワリの様な作業が多かったですし。まだスキルがある感じは無いですね」

「……その感覚が分かると言う事は、スキル自体は何か持っている様だな」


 スキルを持っている者になら理解出来る感覚だが、持っていない者には分からない事に反応したクリンに、トマソンがさり気なく言う。


 それが分かると言う時点でトマソンも何かのスキルを持っている事になるのだが、まぁこの世界では普通に何かをして生きていれば一つ二つのスキルは必ず身に付く物ではあるのだが。それでも五歳で自覚できる子供はかなり少ない部類だ。


「おっと、詮索ですか? そう言うのってマナー違反ってヤツなんじゃないです?」

「ああ、そういうつもりでは無かったんだが。ダメだな、衛兵時代の癖がまだ抜けていないみたいだ。忘れてくれ」


「まぁ別に隠す様な事では無いですからいいですよ。多分有ると自覚しているスキルは気配察知と気配遮断。それに危険察知みたいなスキルも多分あるかと。後は内臓強化とか腐敗耐性とか毒耐性辺りの健康に関するスキルがどれかが付いているんじゃないかなぁ、と思っています。あ、この村に来てからは石工スキルも付いていますね。前の村で隠れて石でナイフだの鏃だの作っていたのが、この村で発現したって感じです」


「……どこかの野生児か君は? ああいや、君の前の村の話を聞いたら確かにその辺のスキルが付いていてもおかしくない感じだが……五歳でそれはどうなんだ?」

「それを僕に言われても。まぁちゃんと調べた訳では無いので『多分あるだろうな』位の感じですが。あ、そう言えばこの村にも神殿があったんですよね。すっかり忘れていた」


「神殿? 確かにあるが小さいぞ……って、ああそうか。流石にこの村でスキルを調べられる神官はいない。そう言うのはもっと大きな町に行かないと出来ない。そして結構な寄進が求められるから、庶民で調べる者はあまりいない。調べても一生に数度だ」

「ああ、ここでは調べられない事は以前聞いています。単に前の村にはなかったので一度礼拝? いや神殿だから奉拝? とにかくそう言うのをしておこうかな、と思いまして」


「そうだったのか……いや、こう言っては悪いが、君はそう言う事に興味が無いタイプだと思っていた。余り敬虔にも見えないし」


 この世界ではスキルや神託と言う物がある為、神の実在を疑う者は居ない。だが必ずしも敬虔に信仰しているかと言われれば、やはり熱心ではない者もいる。


 トマソンもそこまで敬虔な信者では無いがそれでも月に一度は神殿に奉出る。クリンの姿は一度も詣でた素振りが無いので、てっきり全く興味が無いのだと思っていた、とトマソンが言うと、クリンは心外そうな顔をして、頬を膨らませた。


「失礼な。熱心でない事は認めますが、これでもソコソコは神様を敬っているつもりです」


 クリンはそう言うと片付けていた手を止めて、小屋の方に行ってしまう。何事かと思ってみていれば、手に何か彫りかけらしい木の像……の様な物を持っていて、


「どうだっ!」


 と自慢そうに突き出して見せた。しかし、トマソンにはそれは木を削った物である事は辛うじて分かったが、ただそれだけだ。拾ってきた大き目の薪をナイフで粗く削っただけで「だからどうした」と言う感じである。


「どうだと言われても、単に削った薪にしか見えない」

「む……確かにまだ削り始めて一日だから解らないかも……ええい、コレは御神像です!……の予定の物です! ようやく木工用具が出来たから作っているんです! 前の村でも骨埋めた時に供え物として掘って置いてきていますよ!」


「神像……? と言う事はそれは彫刻か? そんな事も出来るのか……成程なぁ、実は意外と君は信仰強かったんだなぁ」

「強いかどうかは知りませんが、それなりに神様は信じてますし崇めていますよ。ええ、僕が今生きているのは神様のお陰ですし」


 そういうクリンの姿に、トマソンはそんなに信心深かったのかと改めて感心する。が、彼が背を向けた為に気が付かなかったが、その顔はとても意地悪そうに歪んでいたりする。


「ええ、それはもう! 神様が!! いてくれたのでこの世界に生受けていますし!! ええ、あんなゴミみたいな村で拾われて、それでも死なないで生きて行けてるのですから!! それはもう、感謝しか無いですよ、ええ!! 村が変わっても性格の悪い狸ジジイの村長しかいねえよ、と思うけれども、ええ!! すべては神様のお陰ですから、僕はとぉ~っても!! 感謝していやがるんですよ、コンチクショウが!!」


「く、クリン君!? 何かとても感謝しているようには聞こえてこないんだけどっ!?」


 段々エキサイティングしてきたクリンにトマソンも引き気味である。

 その後、暫くの間はクリンが一人でエキサイトしっぱなしであったが、やがて落ち着くと、後日トマソンに神殿に案内してもらうと言う事になった。


 昼に軽食として麦粥(因みにトマソンにも「それは麦粥ではない。断じてだ!」と怒られている)を啜り一寝入りした後、トマソンを連れて森で薪を拾う。やはり大人がいると取れる量が全然違う。ホクホク顔でその場で作った背板に目一杯薪を積み、トマソンに持たせて持ち帰ったのだった。


 因みに持ち帰った量はトマソンでも嫌そうな顔をした位の量があった、とだけ伝えておこうと思う。


展開を少し急ぎ始めたので、文字数は増加傾向にあります(笑)

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