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第92話 田舎での商談は成立するまでが意外と長く拗れる物。

久々の村長登場。

「金属部分だけでいいのなら、大体の物は出来ますよ。ただ余りにも損傷が大きかったり半分以上新造するような修理だと材料的にも体力的にも無理ですが」

「それは勿論解っている。曲がったり歪んだりして使えなくなった農具や工具、欠けたり穴が開いたり刃が欠けたりした刃物や自警団の装備。そう言うのを修理して欲しいと君に頼んだとしたら修理できるかな?」


「程度にもよりますね。ポッキリ折れている様なのは当然修理出来ませんし、大穴が開いてしまったりしていてもコレも無理です。この前トマソンさんが持ってきた手甲程度の穴や歪みなら大体治せると思います」

「成程、あれを基準に考えればどれ位の物を修理するか判断できるか……」


 村長は顎に手をやり思案を巡らせる。農村で農作業をしていればどうやっても破損する農具が出て来る。その為、村長の家には予備の農具が保管されているのだが、二年前に鍛冶師が亡くなってから修理が滞る様になっている。


 それでも、居ない間は他所の村や町に持ち込んだり、農閑期に他所の村の鍛冶師の弟子などを呼んで多少の修理は出来ていた。だが今年は周囲の村が野盗により壊滅してしまい、被害の無い村は遠い上に人手不足になっているので呼ぶのも難しい。


 こう言う農村では収穫期をズラして近隣の村から手伝いを呼ぶのが一般的なのだが、その村が潰れてしまっているので、手伝いが見込めずどの村も人手不足になっていた。


 この村も人手不足なのだが、町に近い為に町から手伝いを雇い入れる事も出来たので、そちらの方は問題が無い。しかし、人手はあってもそれらの連中が使う農具や工具が心もとない。一応、誤魔化しながらやれば新しい鍛冶師が来る来年まで何とか持つ様に計算はしているが、不測の事態と言うのはいつ起こるか分からない。


 そんな所に、何処まで出来るのか未知数では在る物の、鍛冶仕事をして見せる五歳児がここにいる。少しでもいいから修理して予備を増やしておきたいと言うのがこの時の村長の心境である。


「損傷の少ない物から持って来てもらうのが現実的じゃないですかね。本格的な補修は新しい鍛冶師さんにお任せして、簡単に直せそうだけど普通の人だと直せない、辺りの物を修理していくと言うのが妥当じゃないですかね」

「フム……やはりそれが妥当かな。それなら何とか刈り取りに向けての農具が必要量確保出来そうだ。それでは明日からでも破損した物を運ばせるから、クリン君に修理をお願いできるかな?」


 顎を撫でながら思案を巡らせていた村長がそう言って来るのに、クリンは軽く頷く。


「え、嫌ですけど」


 あっさりと断った五歳児に、一瞬でその場が固まる。クリンは平然としたままだが村長は目を剥き、トマソンは「この流れで!?」と驚愕している。


「……今のは引き受ける流れじゃなかったのかね?」

「いやいや。僕普通に農作業の仕事が明日以降もありますし。それにもうすぐ夏です。この時期に鍛冶作業を大量に持ってくるとか、僕を殺す気です? 普通そう言う作業って秋冬とか春先に持って来る物じゃありません?」


 夏の鍛冶場は暑い。ただでさえ暑いのに炭を燃やすので灼熱地獄だ。クーラーも無い様なこんな世界でこんな時期に大量の鍛冶仕事とかほぼ拷問だ。だから本格的に暑くなる前にと、色々と自分用の道具を必死に作っているのだ。


 クリンにとってスキル上げがあるので鍛冶作業自体は歓迎だが、この村に来た当初なら兎も角、夏直前の今から確実に夏に食い込みそうな仕事など勘弁である。


「……それを言われると弱いねぇ。だが状況的にこの時期に頼むしかないんだよ。周りの村を頼る予定が野盗のせいで出来なくなった事は君も知っているだろう?」


 切羽詰まっている訳では無いが、余裕が無いのも確かだ。今直さなくても秋の収穫は十分できそうだが、何か不測の事態が起きた場合は春の作付けに響いて来る。必須では無いが今備蓄を増やせれば後が大分楽になる。


「僕もそのせいでこの村に御厄介になっている訳ですから心より同情します。ですがそれはそちらの理由。僕が『今』苦労する理由は有りません。夏場の鍛冶なんて朝か夜でなきゃやっていられませんから、時間的にそんな大量の修理なんて出来ません」


「それもそうだね。ではこうしよう。夏までは急を要する修理品優先で、夏場は火をあまり使わない歪みの多い物優先。秋になって涼しくなったら本格的な修繕と収穫後の農具の手入れ、と言う感じでどうだろうか?」


「嫌ですね。それだと僕、村を出て行く準備が殆ど出来なくなって冬のまん前で放り出される事になります。引き受ける訳ないじゃないですか」


 収穫の後直ぐに発つのであれば、町でギリギリ冬場を過ごせる仕事なり居場所なり見つけられそうだが、流石に農作業が終わった後のメンテナンスまで熟してからの出立など冗談では無いと思うクリンであったので、これもあっさりと断る。黙って聞いていたトマソンは再び驚愕するが、村長は最初から分かって居た様な様子で、


「まぁ待ちなさい。クリン君の懸念も解る。それだと冬支度もままならないだろうからね。だからどうだろう、冬の間もこの村に留まる事を許可しよう。それならどうだい? 春になったら新しい鍛冶師が来るからその前に出て行ってもらう必要があるが、冬の間はこの鍛冶場と小屋を引き続き使ってもらって構わない。ウチの村も冬場に簡単な鍛冶が出来る人物がいると言うのは安心感があるからね、お互いに利点はあるだろう?」


 村長にそう言われ、今度はクリンが顎に手をやり考え込む。余り好きになれない村ではあるが、前の村に比べれば遥かにマシなのは確かである。仕事も——破格の安さでは在るが——ちゃんとお金を払うし、受け入れはされないが迫害もされていない。


 何より冬場の住居が確保できると言うのは安心感がある。この辺りの冬も、雪国と言うほどでは無いがそれなりに雪が降る。転生してからの五年で二度ほどそこそこ雪が積もった事もある。町で宿を借りるなりどこかの場所で自力で家を建てるなりにしても、費用面でも作業時間面でも、確かにこの村の方に利点がある。そして何と言っても鍛冶場が引き続き使えるのは大きい。


 クリンの中ではかなり天秤が仕事を受ける方に傾いてきている。


「……悪くは無いですね。ですがまだお代の方の話を聞いていません」

「そうだったね。トマソンに見せてもらった手甲の修理費は、材料代別途で銀貨三枚だったかな? 材料の補填は勿論する。修理に使用した材料はちゃんと記載してくれるのなら、鍛冶場内の材料から使用して構わないし、自前の材料との相殺の提案も受けよう。しかし、炭は使用したらその分は貰う。まぁ……君は多分必要無いだろうけれどもね」


 と、村長はクリンの請求を概ね認めた。そう、『概ね』である。


「だが銀貨三枚は高すぎるな。銀貨一枚だね。本当はそれも高いのだけどね。そして、これから頼む農具や備品の修繕費用は一つ銅貨五十枚。それでどうだろうか? 纏まった量の修繕を頼むから、なかなかの金額になる筈だよ。ただ、代金は村を出る時に報奨金と合わせて支払う事にさせてもらいたい」


 村長の提案に、クリンはフム、と一つ頷き——


「お断りです。来年の春までの滞在は魅力的ですが、今回はご縁が無かったと言う事で」


 必要無いと思ったが、一応頭を下げてキッパリと断ってしまった。


「……何故断るんだね? 悪い話では無い筈だが」


 村長は、クリンが直ぐにOKを出すと思っていたようで、目を白黒させて聞いて来る。


「僕的には良い話では無かったので。条件が合わなければ断る、普通の話です」


 クリンの方は「なぜこれを良い話だと思うのか」と不思議そうな顔だ。


「値段交渉のつもりかな? 私的には最初から好条件を提示しているつもりなんだけどね。これ以上を求められても応じられないよ?」

「えぇ~……銀貨三枚の仕事を一枚に減らされた挙句に、追加の仕事は更に半分の銅貨五十枚なんて冗談みたいな金額にされて受ける物好き居ると思います? 好条件の意味解っていますかね? 何で引き受けると思うんです? 春までここに住めた所でそんなの有難迷惑と言う物です。なら仕事を受けないで予定通りに出て行く方が楽で手間ありません」


「手甲はもう修理してしまったから仕方ないが、子供に銀貨を渡す訳に行かないこと位君にも分かるだろう? それだって、本当は君が勝手にやった事として拒否も出来るんだよ」

「まぁ、どうせそこを突っ込んで来ると思いました。それなら別に料金は良いですよ。その代わり使用した鉄材は貰います。ようするに何もなかったって事です。それで万事解決、言う事なしって奴です」


「いや、クリン君、それは困る。確かに頼む前に修理してしまったが、あそこまで……」


 トマソンが慌てて口を挟もうとするが、それを村長が手を軽く上げて制止する。


「コレもダメか。やはり色々と頭が回り過ぎる子だねぇ。やらないなら今すぐにでも村から出てってもらいたいと言ったら……すぐ出ていきそうだね」

「勿論。もっともその場合は最初の約束と違いますから金銭的な補填を求めますよ。鍛冶作業なんて最初はアテにしていなかった筈なのに、急にアテにした挙句に無茶振りしてくるんですから、当然だと思います」


 完全では無いがある程度の必要な物はもう作ってあるので、今すぐに追い出されても実の所そこまで困りもしない。もう少しこの村で準備と知識を貯めておきたかったが、こんな無茶を言われる位ならその方が遥かにマシだとクリンは思う。



こう言う威圧的な条件で来られると、クリン君は結構強いんですよねぇ。何せ気に入らなきゃさっさと出て行けば良いだけので(笑)

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