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第75話 ぶぶ漬けの習慣は異世界では通用しない。

ずっと前ですが、初めて京都の人にコレ言われて、本気で食った事があります。勿論それ以降に度と会っていませんが……

「しかし坊ちゃん、本当にこんな物で良いのですかい? 量は確かにあるけど、食う所なんて無いし精々が蝋代わりに油を取る位しかねえと思うっすけど」

「大丈夫なんだわ。何とコイツはこの脂身から石鹸を作り出せるのよ。今日来たのもそれを貰う約束していたからなのよ!」


「……はぁ? 石鹸!? 石鹸って、あの外国から輸入していると言う高級品の? え、作れるんすか!? この脂身から!? 本気っすか!?」

「はははは、やっぱ信じられんのな。しかし、このクリンは本当にこの脂から石鹸作れるのよ。だからこれ位の量は簡単に使い切っちまうのよ。なぁ?」


 何故だかマクエルが代わりに自信満々に答え、クリンは一瞬苦笑いを浮かべ、


「いえ、全部使いますけど別にもう石鹸作らないですよ?」


 バッサリと否定した。


「はぁ!? 何でよ! お前、前にファングボアの脂で石鹸作ってたじゃん! 何で今度は作らんのよ? 」

「や、だって前回の脂でタップリと石鹸作りましたし。それにお忘れの様子ですが僕はあと二、三ヶ月でこの村から出て行くんですよ? 前回作った分も使いきれ無い位ありますし、今更熟成に一ケ月もかかる石鹸なんて作った所で意味無いじゃないですか」


「お、おおん……そういやそうだったな。ならこんな脂身何に使う気よ? 石鹸作らないなら別に要らなくねえか?」

「そんな事は無いですよ。向いてはいませんが、鍛冶場の道具のメンテナンス用の油として使ったり、鍛冶作業の冷却用としても使えますし、木材のコーティング剤代わりや艶出しとしても使えます。それに、ちゃんと加工すればそれこそ明かり用油としては勿論、食用油としても使えますよ」


「え、喰うのこれ? あ、いや脂身が食える事は知っているが、文字通りに脂だけでうまくねぇだろ。お前さん、結構なんでも喰うの知っているけど流石にこんな臭い物、こんなにたくさん食えんの?」


 この世界でも豚や猪の脂身を食べる習慣はあるが、大体は塩漬け肉にして持ち運べる固形脂として使うか、煮たり焼いたりして脂を落として食べる。


 脂身だけを食べる事はそんなにない。そして、この世界の安い蝋燭は大体獣脂で作る。しかし禄に精製していないので燃やすと物凄く煙が出るし、燃える時にかなり臭い。そして大して明るくない。


「それはちゃんと精製していないからですね。精製してから利用すれば大分匂いや煤は抑えられますよ。それに食用としても中々使い勝手もいいんですよ」


 クリンはそう言って、朝の間に仕込んだラード漬けの肉を詰めた壷を持って来て、蓋を開けて中を二人に見せた。


「へぇ、これは前に貰ったと言うファングボアの脂で作ったのか!? 随分白いのよな。それに確かに独特の匂いは無いし……これなら確かに油漬けに使えるのよな」

「これがボアの脂っすか!? え、こんなに綺麗なモンなんすか!? というか、これで食えるんすか、本当に?」


 それぞれ驚いた様な顔をして見ている。こういう反応をされるとつい嬉しくなると言うか、調子に乗ってしまうのがクリン君の良い所でもあり悪癖でもある。


 そう。少年はついつい、こう言ってしまうのだ。


「勿論食べられますよ。何なら試しに食べて見ます?」


 と。そして。自分が今ラーメンを喰おうとツリーフットガラを一生懸命煮込んでいた事を思い出す。実はこの肉をラードごと焼いて香味油とチャーシュー代わりに使う気でいたのだった。


『やばっ! これ喰われたらラーメンがスゲエ寂しくなるじゃん!』


 何とか話を誤魔化して『やっぱ次の機会に』とか話を持って行こうと脳味噌をフル回転させていると、


「なぁ、サッキから気になってたのよ。その煮込んでいる……スープ? 何かスゲぇいい匂いするのよな。 もしかして、この肉ってそれに入れるつもりだったんじゃねえの?」


 マクエルは目ざとく、と言うか鼻ざとく匂いを嗅ぎつけ、スンスンと鼻を鳴らしながらフツフツと小さく、沸騰するかしないかの絶妙な加減で煮られている鉄鍋を凝視している。


「ええと、コレはスープはスープなんですが……確かにこれに入れるつもりでは在るんですが……ちょっとラーメンが食べたくなりまして……もうすぐ夕食の時間なので作っていたのですが……」


『ええい、何を説明しているんだよ、って門番二号もそんな興味津々で凝視すんなよっ! ああ、この流れじゃ言わなきゃいけないじゃないか……』


 内心、そう思いつつも他人にとって未知であり興味を引く物は自慢したくなる、クラフターとしての性が、少年にとうとう言わせてしまう。


「ああっと……何ならお二人共、コレ食べて見ますか?」


 言ってしまった。いや大丈夫。もうすぐこの村での一般的な夕食の時間だ。それぞれ家で用意されている筈。断って来ると言う可能性も——


「お、そうか? 悪いな。じゃ有難くご馳走になるとするわな」

「……」


 アッサリと許諾しやがった。クリンは内心舌打ちをしそうになるのを堪え、もう一人の下っ端口調のハゲに目を向け、


「じゃ、そちらさんも一緒と言う事で」


 語外に『お前は遠慮するよな』と言う思いと「お前が断ればコイツも諦めるかも」と言う淡い期待を込めて言う。


「え? ああ、いや自分はイイっス! 謝罪に来てご馳走になると言うのは幾らなんでも悪いっす!」


 手を振り固辞したので『よし! これでお前への報復はチャラにしてやる!』と内心でガッツポーズをしたのだが——


「いやいや、折角だからご馳走になって行こうや。コイツはそんなみみっちい事は言わんのよ。なぁクリンよぅ?」


 何故か門番二号が偉そうにそう言い、さわやかな笑顔で言い放ってくる。流石にここでダメですは言える度胸は少年には無い。


「それに、コイツが色々と面白そうな物を作るのは知っているのな。でも食い物の方でも面白そうな物を作っているのよな。ソコに包んであるのも、パン生地かと思ったけどなんか様子が違うのよな。多分あれも使うんだろ? 食わなきゃ勿体ないのよ」


 とか言い出す始末である。本当に目ざとい奴だと思いつつ、クリンは最後の抵抗を試みる。


「面白いかどうかは知りませんが、この辺りで作っているのを見た事無いのは確かですね。あ、でもお二人共時間大丈夫なんです? 時間的にまだ仕事中なのでは……」


 この村の自警団は民間の割には割とキッチリしている。交代時間はきっちり守るし、今回も謝罪としてちゃんと挨拶に来るほどだ。そんな彼等、仕事を引き合いに出せば——


「おう、今日は大丈夫なのよ。元々コイツ連れて謝罪に来るってんで仕事は早めに切り上げになっているし、謝罪してお前さんから許されなかったら家の前で何時間か正座させるつもりだったのよ。で、その後に一応コイツ連れて説教兼ねた晩飯を酒場で済ます予定だったからな。御馳走になるのは寧ろ有難いんだわ」


 ダメだった。すでに万策尽き、門番二号ことマクエルはその気になっているし、どうやら立場が上であるマクエルが饗応を受けたとなれば断る事が出来ない位に立場が弱い青頭ツルッパゲ(クリン命名)も付き合うしかないらしい。


「………………そうですか。では仕上げちゃうので少しお待ちください。なに、後三十分もあれば出来ますからねっ!」


 顔に満面の笑みを浮かべられたのは、前の村の村長や住人に鍛えられた賜物であろう。内心は唾を吐きたい所であったのだが——自慢したがった自業自得であり——少年のラーメンの量が減った事が確定したのであった。




ああ、ラーメン実食まで行かなかった……この村での話が随分長くなったなぁ……

次回こそ実食編! ただ……飯テロになるのかは微妙なラインだ……

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