第515話 その名は雷電。
遅くなりました。
そして雷電と言っても相撲取りでもラーイの神様でも段ボール好きのスピンオフでも無いですぜ(´_ゝ`)
個体名を持たずドンナーフォーゲルと言う族名で呼ばれる事を是としているスカラ・シーに、突如名前——正確には忍者(忍鳥?)名だが——を付けて欲しいと言う無茶振りをされたクリンは、流石に困っていた。
言われてホイホイと名前が思いつく性質ではない……否、嘘だ。実は直ぐに名前が出て来て『じゃあトリトンでる君一号で』と命名したのだが「グワッ!」と鳴きつつ大きく翼を広げ、更には体中の羽を膨らませたので、椿に翻訳されるまでも無く拒否られた事が分かってしまった。
「うぅん……道具なら直ぐに名前が思いつくのですが……それがダメと言うのならそう簡単に思いつかないですよ?」
ネーミングセンスが些か「アレ気味」である事は自覚しているクリンは、それ以外には思いつかず、取り敢えず保留と言う事で、先に狼肉の味噌煮込みを仕上げてしまう事にした。のだが——膨らんだ羽は元に戻った物の翼を大きく広げたまま、ドンナーフォーゲルはジッとクリンを見つめ続けていた。
「……うん、カレーが有れば最高だったけど、味噌も中々いいじゃないの。生姜の他にも乾燥リーキがあるから大分いい感じになりましたね」
狼肉を鉄鍋で携行七輪に炭を入れて煮込んでいたクリンは、匙で煮汁を一掬いして味見すると、一つ頷いて塩を取り出し一つまみ入れる。
翼を引っ込めようとせずに依然と精霊獣様がこちらを見ているが気にしない。クリンの生きていた時代でも既に死語となっていたが、昭和の時代辺りまでは『味噌に塩』が呪文のように言われていた。大体小さじ一の味噌に対して耳かきに半分とか三分の一とかの、極僅かの塩を入れると味が締まるとされていて、生前のクリンの母も祖母からそう言われていたそうで、少年の自宅では必ず味噌には塩を振るのが鉄の掟であった。
「異世界版の味噌でもやっぱり塩を入れないと、今一味が締まらないと思うのは思い込みなのか事実なのか、そこが謎だけど旨いんだから良いよねぇ」
と、塩を足してから一煮立ちさせる。味噌煮込みなので味噌を入れた後にも沸騰させる方が、やはり香ばしさが出て良いと思う所だ。
などと、考える間も荒ぶるポーズを止めようとせず「ジーッ」とこちらを見続けて来るドンナーフォーゲルに、流石にクリンも根負けする。
「ああもう、ちゃんと考えるから今は料理に専念させてくれません!?」
「グワッグワッグワッ!」
「『絶対に忘れたフリするからダメ』だそうです。フフ、主殿の行動も読まれていますね」
「そんな事を言われたって、良い名前なんて直ぐには思いつかないですよ。どうしてもっていうならマ〇ハハなんてどうです? アレも確か鷹ですし」
北国の巫女様の愛鳥の名前を挙げるが、コレもスカラ・シー様には不評だった様で翼は広げられたままである。密かに片足も上がって来ているので機嫌は宜しくないらしい。
「ええと……『何か体当たりさせられそうな名前は嫌』だそうで……ええ、体当たり良くないです? 忍者で鳥と言えば火を纏っての体当たりが相場だと主殿も……」
「グワグワグワ」
「む……『火魔法はそこまで得意じゃない』と……確かに、スカラ・シーは風魔法と水魔法、その複合である雷魔法が得意でしたね……でも使えない訳では無いのですから、やはりここは一つカッガークニンポーを……」
「うん、何か危険な方に行きそうなのでやはり却下ですね。と言うか、もうサンダーバードで良いんじゃないですか? 確かドンナーフォーゲルってそう言う意味だと丹羽さんが……って……あ……」
狼肉みそ煮込みを仕上げていたクリンは、そこでティン! と思いつく。
「サンダーバード……鳥……空を飛ぶと言えば……飛行機っ!」
サンダーバードと言えばとても有名な、何故か国際の癖に秘密組織で謎装備を製造しまくる「国際救助隊」を思い出すが、クリンにとってはそれよりも強烈に思い出す事がある。
それは、クリンに犬肉の食べ方を教えてくれた、病院で出会った老婆との思い出話に出て来た事柄。
『私のお爺ちゃんは厚木で雷電に乗って、B29をブチ落してたのよ!』
戦中生まれと言いつつ実の所戦後生まれのあの老婆の祖父は、戦中は海軍航空隊で戦闘機パイロットをしており雷電と言う戦闘機に乗っていたと言う。
クリンにとってはほぼお話の中の世界でしか無いが、実際に同じ日本人で戦闘機に乗ってブイブイ言わせていた人の話を直接聞けたのは後にも先にもこの時だけだ。
それは兎も角。この時のクリンにはこの時の老婆の話が脳裏に過ったのである。
「雷電……そうだよ雷電! 実在の戦闘機もあるし、往年の縦シューのタイトルでもあるしっ! ライ〇ーンだと神鳥アタックしそうだけど、コッチなら精々拡散弾か極太レーザーだしっ! いかがです?」
飛行機の名前ではあるが同じ空を飛ぶ仲間(?)なのだからきっと気に入る筈。クリンはそう勢いこんでドンナーフォーゲルに聞くと——雷電の名を聞いた精霊獣様は、暫し荒ぶるポーズのままであったが、
「グワッ」
と一声上げると翼を折りたたんで満足そうに首を一つ振った。どうやら気に入った様子である。
「『良い名前だ!』だそうです。良かったですね、主殿、気に入った様子ですよ?」
「……ホッ……良かったです。『ウム、アレが世に聞く』とか言い出されたらどうしようかと思いましたよ……」
「……なんです、その『知っているのか雷電』って?」
「気にしてはいけません、椿。さ、そんな事よりももう煮込み終わりますよ。民〇書房はこの世界に実在していないので、熱いうちに食べましょう」
こうして。丹羽の騎乗鳥としてドンナーフォーゲルを代表する精霊獣様は、新たに雷電の名を貰い、ご満悦でクリンが作った狼肉の味噌煮込みを食べるのであった。
と言う割とどうでもいい出来事がありつつも、クリンは寂れた街道を北上していく。途中で幾つかの大きい街や町があったが、そのどれも素通りする。
人目がない事で元の大きさに戻ったレッド・アイ達の速度に物を言わせ、特に補給に寄らなくても十分食料が持つ上に、名前を付けられた事で上機嫌になったドンナーフォーゲル改め雷電が、イカヅチの名に恥じぬ働きで獲物を仕留めて持って来るので尚更だ。
水の方も山道を通る川は十分綺麗であり、炭を浄化剤代わりに入れて持ち運び、飲む時に沸かしてしまえば十分安全な水として確保できていた。
ただ、硬水なので飲み水としては毎回クリンが例のタジン鍋モドキで蒸留水にして飲んでいたのであるが。
そんな順調な旅路で、気が付けばかなり街道を北上しこの後は事前に聞いた話では後二つほどしか大きい街が無い所まで来ていた。
「ドンナー……じゃない、雷電に先行してみて貰った感じだと明日には町に着きそうですね。割と大きい町で冒険者ギルドもあるそうですから寄って行きますか。この国に入ってからまだラックさんとライラさんと別れた街にしか寄っていないですし、折角また国を超えるのですから、何かこの国の特産でも買って行商の真似事をした方が商人としての体裁が整いそうですしね」
最も、自分の場合は職人としての性質が強いので、商品と言うよりは材料の方を買いたくなるでしょうけどね、と考えつつクリンは次の町に立ち寄る事を決めた。
翌日、昼過ぎには目的の町に到着する。到着してから知ったのだが、この町はココから山側に行った所にある鉱山街から取れる鉱物が輸送される中継町で、ここから中央を通る街道で国の中心に運ばれているらしい。
「それにしてはココまでの街道は寂れていましたが……」
と、門を抜ける時に門番に入場料を支払う際に説明を受けたクリンが首を傾げていると、その門番は笑いながら、
「ああ、この先で取れるのは銅と錫、それに水銀だからな。鉄鉱山は此方では無く中部寄りの山で取れるから、そちらの方が主力だよ。産出量も大分減っているからそこまで景気も良くないしな」
銅も色々と使い道があるのだが、やはり鉄材程には使われていないそうだ。それでもこの辺りの建物の壁材や瓦材として使われている程度には流通量があるらしい。
「ほほう……と言う事は銅が手に入れられそうですね」
門番の言葉にクリンはニヤリと笑みを浮かべ、意気揚々と門を潜るのであった。
雷電は昔ゲーセンで狂った様にやっていました(´_ゝ`)




