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第51話 備えの大切さを改めて知る。

 お待たせしましたっ!

 本編再開&新章突入です。ぶっちゃけ閑話が長すぎたので、章別けてもいいなぁと思ったので分けただけなんですが(笑)


それではお楽しみください。


 クリンが知恵を絞りあらゆる手段を用いて鈍らナイフを打ち直した翌日。鍛冶作業では歪みと成形をしただけで、結局まだナイフはナイフとしては用をなしていない。


 ここから、刃付けに研ぎが入り焼入れ焼き戻しをして、微調整の歪み取りと仕上げ研ぎの工程が待っている。


 ——のだが、翌日から暫くの間その作業はストップする事になる。それどころか仕事自体も急遽休む羽目に陥っていた。


 何故なら鍛冶作業の翌日からクリンは寝込む羽目になって居たからである。と言っても何か重大な怪我や病気になった訳では無い。原因は明白であり——


「うひょーっ! 顔と手と足がピリピリするっ! 目が開かない、手も開かない、足の指も開かないぃぃぃぃぃぃっ!」


 藁ベッドでゴロゴロと転がりつつ悶絶する少年。——軽度の火傷である。頭でっかちな初心者鍛冶職人が良くやる、あるあるの症状だ。


 真っ赤に焼けた鉄を知識はあるが経験が浅い為、しっかり打とうとして顔や手を近づけて焼けた鉄を本人が思っている以上の近距離で覗き込んだりして起こる。


 輻射熱での火傷なので、大火傷ではないのだが皮膚の表面が炙られて、日焼けの激しいバージョンの様な感じになる。


 皮膚が瞬間的に焼き付き、そのままの状態で冷えて固まるので、新しい皮膚が出来るまでくっ付いた状態で、日焼けと同じように焼けた皮膚が剥がれ落ちてくるまでその状態が続く。


「ああ……そういや時々物語とかで、手がハンマーを持った形でくっ付いた人とか片目が開かなくなった職人の話が出てきたっけ……そうか、これが理由なのね……」


 VR上の経験や技術はあっても現実での経験が無かった弊害と言える。。実際に古い時代の刀鍛冶達の中には、水で濡らした手ぬぐいを手に巻いたり、頭にほっかむりや頭巾、面なんかを着けて鍛冶をする者も居たと伝わっている。


 こう言う火傷は数日もあれば新しい皮膚が出来て直ぐに取れると聞いていたので、そこまで重大な事でも無かったのは幸いだとクリンは胸をなでおろしている。


「まぁ、後はナイフの仕上げ工程だからこんな高温必要無いし……火傷がある程度良くなるまで寝ているしかないか……やっぱり、鍛冶用の装備類は作らないと駄目だねぇ。面体はいいけれども少なくとも手袋は必須かな。後……やっぱ褌を作ろう、うん。僕の場合は無いと無理だわ、マジで」


 筋力が低いので片手で扱う槌を両手で使わなければならないクリンは、足でヤットコを扱うのは必須の技術となった。


 そして、彼が着ている服は、頭から足までスッポリと被るだけの筒型衣服チェニックだ。つまり、足を使ってヤットコを操作すれば、ある部分が超高温の炉や赤熱化した金属に向けてパッカリと開けられて炙られる事になる。


 実はソコの部分もピリピリと痛い。トイレに行く度に地味に響くのだ。


「皮が剥けるのはいいけど皮が焼けるのは流石に勘弁だなぁ……」


 ちょっとお下品な事をいいつつ、藁ベッドの中で溜息を吐いた。軽度の火傷なので体自体は動くには動くのだが、手足や目の周りの皮膚がくっ付いて上手く動かせない。ついでに顔の皮膚も固まって居るので表情も余り動かせない。流石にこの状態で仕事をしに行くのは無理であろう。大人しく寝ているしかない、そう考えて——


「ああ、思えば前世と同じなんだこれ。何か懐かしいなぁっ! 五年ぶりかぁ、こんなの!」


身体は元気だが動かせない、それは前世の病気と殆ど同じ状況だ。何故かは判らないがクリンはそこに面白さと懐かしさを感じ、ひとしきり藁の中で一人笑い声を挙げていた。


ひとしきり声を上げた後、そこでふと思い出す。


「あ……確かこんな時にやっていたクエストがあったよな。アレで作らされたヤツの中に……」


 生前クリンが遊んで居たゲーム、HTWはゲーム内に登場するほぼ全ての物は制作可能である。とは言え、全部が全部作って武器として使えたり制作物として利用出来たりした訳では無い。


 名前と外見デザインだけで、実際の効果は何もない納品クエスト用やお使いクエスト用、戦闘職なら採集品や発掘品などの所謂フレーバーアイテムと言う物も存在し、それらも作る事が可能だった。


 と言うかそれらを制作し納品する事でスキル経験値とお金を稼ぐ為にあったようなアイテムだ。そしてそれらも当然レシピ化されてクリンは記憶している。


 その記憶の中に——


「そうだ、セントジョーンズワート! アレを加工して薬にして納品するクエスト! 確かレシピも簡単だった筈!!」


 セントジョーンズワート、和名では西洋弟切草。前世では精神安定、抗うつ剤の成分として注目されていた植物である。


 だが、それより遥か以前は西洋圏で広く、皮膚病の薬や抗炎症剤として利用されて来たハーブに分類される多年草だ。


 ——抗炎症剤——つまりは火傷薬である。


「乾燥させて煮て、煮詰めて濾して、アレやコレや混ぜて作る火傷用の軟膏! アレの煮詰めた汁だけでも確か火傷を押さえる効果自体は有るって説明だった筈!!」


 クリンは鍛冶が一番好きで得意というだけで、他の事が出来ない訳では無い。制作系スキルには一通り手を出しているし、薬剤や調合のスキルも勿論使っていたし憶えていた。


 HTWは中世風ファンタジーのゲームなのだが、開発したMZS社、ひいては親会社であるミゾグチコーポレーションからして、現代科学の最先端を行くバリバリの現代企業である。例えゲームであっても、いや、ゲームだからこそ徹底的にリアリティに拘って居る。


一つの嘘(ゲーム)に信憑性を持たせるなら九九個の事実を混ぜなければ誰も信じない」


 と言う、変態企業にしか分からない謎の拘りで、ゲーム内で出て来るちょっとした小物であっても、現実にある物をそのまま再現していたりする。


 ファンタジーであっても中世なのだから、と中世レベルで一般的だった薬や民間医療、風習や道具などが、そのままか多少のアレンジが加えられてガンガン盛り込まれて居たりする。


 セントジョーンズワートもその中の一つ。中世では一般的に広まっているハーブであり、それは中世に酷似したこの世界でも同様である。


「そうだよ、粘土を取るために邪魔だから雑草抜きしたヤツの中に、確かセントジョーンズワートもあった筈だよっ!」


 引き抜いた雑草は乾燥したら燃やそうと、小屋の脇に纏めて置いた筈。そう思いだしたクリンは皮膚がくっ付いて歩きにくいのを何とか誤魔化し、小屋の外に這うように歩いて行き、大分乾燥した雑草の山を漁る。


 暫くして、枯草の中から目当てのセントジョーンズワートが埋もれているのを見つけ出す。


「やっぱりあった……しかも乾燥の手間まで省けているっ! これならすぐ使えそうだなぁっ、ヒャッホウ!」


 奇声を上げて乾燥したセントジョーンズワートの束を雑草の山から取り分け小屋の中に運び込んだ。


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