第507話 気が付いていけない物に気が付くと人は昭和を思い出す物らしい。
遅くなり申し訳ございません。m(__)m
翌日、日の出と共に野営地を発ったクリン一行は、午後の鐘(十五時)の時刻を過ぎた辺りでこちら側の国境の村に着く。
村の規模や検問施設の構造はほぼ同じで手続きも似たような物だ。確かに出る時よりもやや時間が掛かったが、それでも数分程度長引いた位で審査は終わる。
この国出身者である二人の冒険者が護衛をしていた事も大きいが、意外な所でクリンの見た目が珍しく良い方向に役立ったのが一番だろう。
だがそれに比例して二人の冒険者はドンヨリとしている。
この村の先に国境越えした旅人向けの村が一時間位進んだ先にあると教えられ、そちらに向かいながらリヤカーもどきの荷台に揺られていたクリンが二人の様子におかしそうに笑い声をあげる。
「アハハハハハ。まさか僕がお二人の子供だと勘違いされるとは。しかもお二人の親に孫を見せる為の旅だと思われて検査が緩いとか、これは思わぬ幸運ですねぇ!」
そう。見た目的にまだ六歳か七歳程度にしか見えないクリンは、二十三歳のラックと二十二歳のライラの間に生まれた子供だと勝手に国境の役人に勘違いされた。
確かに見た目的には十五歳十六歳の時の子供と考えればあり得なくはないのだが、一応書類にはクリンの年齢は九歳と記載されている。
にもかかわらずそう勘違いされた二人は、
「「なぁ、俺達ってそんなに老けているのか?」」
と、何とも言えないショックを受けていた。そもそもがこの依頼を受けるまで接点が殆ど無かった間柄である。
職員たちの「お似合いの夫婦ですね」や「よく似たお子さんですね」と言うセリフは正直勘弁してほしいと二人の冒険者は思う。
「どう見たって夫婦って程関係深くないだろう……」
「それに、クリン君はどう見ても異国人的な容姿でしょ……髪の色が全然違うし」
今回の依頼で意外と気心が知れる事が解っては居たが、流石に夫婦と言われたら困惑してしまうし、更には、確かに依頼者としてはとても素晴らしいが、実子だと思えば幾らなんでもマセ過ぎな上に知識も技術も高すぎるし、もっと言ってしまえば彼らの基準からは容姿的にはどう見ても赤の他人の外国人顔のクリンが「よく似ている」とか言われてしまえば、それは遠回しなディスりだとしか思えない。
「まぁまぁ。良いじゃないですが。流石に僕がお二人をパパ~とかママ~とか呼ぶのは無いと思いますが、この際本当に夫婦になってしまうのもアリなのでは?」
「クリン君……あまり大人をからかうな。俺なんて大して稼げない冒険者だぞ。ライラの方が困るって物だ」
「何言っているのよ。こんな行き遅れが嫁だなんて、ラックが困るでしょう」
この世界では医療がそこまで発達していない。確かに魔法薬があるので前世地球の中世時代よりは生存率は高いとクリンも感じているが、庶民が気楽に使える物では無いし、数に限りがある。
その為出産と言うのはとても危険が伴う物で、女性の多くは十代の間に結婚し子供を産む。それが推奨されている世界だ。
二十歳を超えれば途端に母子ともに出産率が下がって行くのもあるが一番体力がある二十代に、一番タフな子育て出来る時間を長く当てたいと言う考え方が根強い為でもある。
この世界では十歳まで子供が生き延びるのが難しいとされ、同時にその間子供を守る為に母親は体力や精神力を削られて死亡しやすくなっている。
前世地球の現代の様に三十代で子供を作れなくも無いが、その場合の危険度はこの世界では比較に成らない位に高い。ましてや遅くなれば遅くなるだけ子供が大人になるまで元気で居られる保証が無くなっていくのがこの世界の現実だ。
だから、実はマクエルが新たに子供を授かった時、その子供を産んで育てると言う決断は、母体の命に係わる重大な決断でもあったし、子供が大きくなるまで何が有っても死ねない、と言う並々ならない決意の元で下されている。
男の場合は家族を養えるだけの稼ぎを求められるので、多少遅くてもまだ結婚の機会はあるが、ライラはクリンの基準では随分若くても、こちらの世界では立派に行き遅れの範疇に入ってしまっている。
此方の世界で新たに生まれなおしたクリンでも、どうしても前世の感覚が抜けきれず、少年にとっては二人の様子は、
「アンタら、もう結婚しちゃえよ」
と言う物であるのだが、二人にとっては割と冗談では済まない話であったりする。
そんな、どうしようもないズレを抱えつつもクリン達は隣村に辿り着き、宿を取り一泊する。最も、例によってクリンは馬小屋行きであったのだが。
「はぁ……しかし、馬小屋に泊まれるのもあと少しの間ですねぇ。お二人が居ないとそれも借りれるかどうか……次の街で別の護衛が雇えればいいのですがねぇ」
国境村の隣村を発ったクリンは、ここから一番近くて大きい町、この地の領主街に向かって街道を進みながらふと漏らす。
彼等を雇った時の契約が「最寄りの一番大きい町」で有ったのと、冒険者二人の目的地がこの街であったのでそう言う契約となっていた。
「ああ……折角の快適な護衛旅も後三日か……ちっ、順調に進み過ぎだな……と言うか、いい加減馬小屋じゃなくて普通に宿に泊まってくれないかな?」
「懐かしの故郷に着く上に仕事が終わるのだから、本当なら気が楽になる筈なんだけどねぇ……どんどん気が重くなっていくわ、ホント」
あの村から大体三日程の距離にあるのがこの領の子爵が住む街で、実は一番大きい街だ。そこを過ぎてしまえば隣領まで同じ規模の街は無いので、必然的に二人の冒険者の仕事はその街で終了である。
冒険者二人としても今回の仕事は忘れがたい「当たりの仕事」と言う立ち位置な様子で、それぞれの言葉で旅が終わるのを惜しんでいる様子だ。
「ま、あと三日ありますし。それに仕事が終わるのですからお二人にとっても良い事では無いですかね」
「そうなんだけどな、本当は……だが君の護衛をしてもう二週間(二十日)だ。その間随分良い思いをさせてもらったからなぁ……」
「そうよ。アタシ達にとってもコレが普通では無い事は頭では解っているんだけどね……どうにも同じ待遇の仕事はもう二度とないかと思うと……」
リヤカーもどきの左右を挟む様に追従する二人の冒険者は同じタイミングで溜息を吐く。その様子はこの二週間で、完璧に息が合った良いコンビに見え、頭の中でクリンは『やっぱりコイツ等サッサと結婚しろや』と考えたりしていたのだが、口に出しては、
「僕の方も、お二人の様な話の分かる冒険者が次も雇えれば良いのですがね。運良く捕まるかどうか。最悪は旅の間の宿屋は捨てて全部野宿にするしかないですかねぇ」
と、こちらも溜息交じりに言うと、二人は「「ああ」」と言う感じで頷き返す。
「そうだよなぁ、確かに俺も君に雇われるまで子供が宿に泊まる大変さを理解していなかったからなぁ」
「そうよね。冒険者なら泊るだけなら簡単だけど、旅となるとそう言う訳にも行かない物ね。まぁ、保護者が居ないのに旅をする一桁年齢が他にいるか、って話だけど」
「そうなのですよ。街で宿が取れないし家も借りられないで、結局ブロランスでも街に住むのは諦めて、森の中で家作って暮らす事にしましたしね。まぁ、結果として森の恵みを取り放題の加工し放題だったので、商売の面では正解でしたが」
「本当、そう言う所はたくましいよな、君は。普通なら冒険者になってギルドの世話になると考えるだろうに」
「まぁ、その行動力のお陰で今のアタシ達はこんな美味しい仕事に恵まれた訳だし。ああ、アタシ達の用事がすぐ終わる物だったらこのまま依頼を更新出来たのにぃ!」
と、二人の冒険者とワイワイと話しながら――クリンはふと、先程の二人の会話の中に引っかかる物を感じる。
「うん……? 冒険者……なら……宿を取るのが楽? ……ギルドの……世話になる?」
思わず、と言った面持ちで呟き二人に顔を向けると、向けられた二人の冒険者はきょとんとした顔になる。
「ん? どうかしたかクリン君? 冒険者のギルドなら部屋が借りられるのは知っているだろう? 俺も駆け出しの頃は良く借りていたぞ」
「そうよ。クリン君、以前ギルドの子供達に依頼出していたって言ったでしょ? 孤児や孤児上がりなんだから、その子達も多分ギルドの部屋を借りていた筈なんだけど?」
「……初耳なのですが?」
「ええ……常識だろう!?」
「奇妙な事をアレだけ知っているのに何で基本的な事を知らないのよ!?」
二人の冒険者は呆れた顔になり、クリンに詳しい話を説明する。
「クリン君、冒険者ギルドの生い立ちは知っているよな?」
「ええ。前にドーラばぁちゃんから聞きました。何でも元はダンジョンに籠る探索者向けの宿屋の寄り合いだったとか……あ!?」
「もしかして気が付いていなかったのか……そうだ、冒険者ギルドは根本的には宿屋なんだよ。だから酒場も併設している場所が多い」
「そうよ。そして、宿屋ってのは基本的によそ者が集まる所だから、最初から国や領主の監視の目が入っているのよ。その関係で食い詰めた連中にも国や領で人がやりたがらない仕事を回して稼がせて、税金を取れる様にしたのが最初の頃のギルドよ」
二人によれば、その性質は国を跨いでもおおよそ同じであり、単に規模の違いがあるだけで、立ち位置的には宿屋と言う時点で行政に協力させられる。
それらの宿屋の中で仕事の割り振りに特化し、更には日常的に仕事が集まる様になったのが現在の冒険者ギルドだ。
仕事が無い時は大人しく宿屋で飲んだくれていろ、と言うのが行政側の言い分であろう。その為現在の冒険者ギルドでは普通に宿泊施設と酒場が併用されている。
そしてこの世界の酒場はほぼ食堂と同じ意味だ。酒が主体か、料理が主体か、だけの違いでどちらも食べ物と酒を扱っている。そして、実はそのどちらも基本泊る事が出来る。
宿屋は泊るのが主体の食堂であり酒場と言うのがこの世界での立ち位置だ。だからマクエルの経営する門番屋二号店は宿屋なので宿泊が主体なのだが、料理がメインとなりつつあるので、実は食堂と呼ばれてしまう事が多くなっていたりする。
「で、冒険者ギルドは子供でも自立して稼げる仕事を斡旋するだろ? そう言う子供は大体孤児か孤児上がりだ。だからその子らが寝泊りできるような部屋も大体用意してある物なんだよ。しかもブロランスはダンジョン街だろ? 余計に子供が寝泊まりしやすい環境が整っていた筈だよ」
「ただ、それは冒険者として生活する子供に限った話だけどね。仕事もしないで居着かれたら、ギルドも孤児院じゃないから困るでしょ。だからその街で冒険者、または見習いとして仕事をこなしている必要があるのよ。だから、クリン君みたいに旅の途中で泊まりたいだけ、と言うのは断られてしまうけれど、冒険者としてその街で登録する気があるのなら、クリン君でも部屋が借りれたはずよ」
「最も、その場合は大体は大人数部屋で個室はまず無理だけどね。後、基本ガキ共は風呂入らないから部屋が臭い」
「あら、そうなの? 私は実家から通っていたから泊った事無いから知らなかったわ」
と、二人の冒険者は昔を懐かしむ様に話し合い出したのだが――クリンはそれどころでは無かった。
「……え、マジで!? そんな技が……あれ!? そう言えばシズラさんもカルロさんも、孤児だって割にはブロランスの街で生活していたよね!? アレって……『コレ』があったから!? ハッ!? もしかしてカルロさんが保護者が居ないまま駆け出しになった後に門番屋なんてまともな宿屋に部屋借りられたのも……冒険者ギルドの紹介とか繋がりが有ったお陰!? 冒険者向けの宿屋って言っていたもんね、門番二号!?」
今になって気が付いた驚愕の事実にクリンは愕然とする。まるで気が付いてはいけない物に気が付いた某演劇の先生、月〇千草の様な顔だ。
確かに、そう言うシステムが無いと幾ら街の外に貧民街があるとは言え、ブロランスの街や王都にストリートチルドレンの様な親の居ない子供が多少は存在していないとおかしい筈である。
それが居ない時点でもっと早く気が付いて良かった事で有ったが、クリンにとっては、
「そう言う事、もっと早く言ってよぉ~」
と某営業部長のCMの様な口調で思わず呟いてしまう出来事であったのである。
なんとかの仮面ネタを入れたくなるのはやはりワシもお年頃と言う事なのでしょうなぁ(´_ゝ`)
誰が分かるのだろうか……




