第505話 転生少年の旅程のアレコレ。
ブロランスの街から王都経由で旅を続ける少年は、その旅路に冒険者二人を加えて、色々とやらかし、飯テロと旅生活テロを行いながらも国境を目指し続ける。
ぶっちゃけ、コレがレッド・アイとミスト・ウィンドだけで有ったのなら既に国境は超えられている。
だが不整地を行くしかないこの世界の街道では、リヤカーもどきの耐久値的に速度が出しにくい事と、クリンが雇った冒険者二人が徒歩でリヤカーもどきに着いて来る必要がある為、移動速度が普通の旅人のそれと同じ程度にしか出せない為、結構な時間が掛かっており王都を出てから既に一五日、冒険者を雇ってからは十二日経っている。
それでも予定通りであるのなら、そろそろ国境付近の筈だがまだ到着は先になりそうである。
移動速度も勿論問題なのだが、それ以上の問題があるのでどうしてもクリンの旅には時間が掛かってしまっている。
その理由と言うのは勿論。
「おおっ!? 今日宿泊予定の村の向こうに、何か良さ気な森が見えますね! きょ、今日は村では無くあそこに向かいましょう! うんうん!」
と、開度の先に見えた村の、更にその先に見えた森に興奮気味のクリンがアッサリと予定変更と目的地変更を告げる。
その声を聴いた冒険者の一人、ラックが溜息を吐く。
「またかよ……」
「まぁしょうが無いわ、雇い主様のご指示だもの」
ライラの方はもう諦めたのか、アッサリとクリンの言葉に頷き返す。
「でも、出来れば二泊以上は勘弁して頂戴。幾ら野営が快適でもアタシが退屈だわ。見張り程度しかやる事ないもの」
「……ライラ、随分と物分かりがいいな……」
「だってめぼしい物が見つかればまたあの荷車が改造されて快適になるか、美味しそうな物を見つけるか、それとも何かの道具か薬を作るか。何にしてもアタシらにはお得だもの。旅が長引くし、ね。待っている間の退屈を除けばだけど」
「……それもそうだな。よし、じゃぁさっさと向かおうか、雇い主君」
と、最終的にはラックも乗り気になっていた。そう、この道中、実は度々クリンが森や川、山などを見て唐突に素材収拾熱を炸裂させて何度か移動が止まっていた。
最初は川を見つけてそこでツルツルした石を目にし、
「おっと!? アレは薄く削げばいい感じの砥石になりそうじゃないですか!?」
と、言い出しいきなり休憩となって石集めに走っていた。最初は二人の冒険者も、
「大人びている様で石集めだなんて、やはり子供なんだな」
と微笑ましく思っていただけだが、その直後に石を加工し自分のナイフを研ぎ始めた事に目を剥き、興味に駆られて自分の剣を出したら何やらピカピカに磨かれて白目を剥く一幕があった。
その後は森の側を通れば「いい木材があれば、ちょっとこのリヤカーもどきの手入れと改造をしたいのです」と言い出し、これも一泊余計にし、気が付けばリヤカーもどきに二人が休む為の天幕を取り付けるギミックが二個増えた。
かと思えば、その日の道の先に大き目の町があると解れば山を少し逸れて鹿だのウサギだのを狩り、必要な分だけ肉を残して売りさばき、追加の塩漬け肉と干し肉を作った挙句に路銀の足しにしていた。
そして、今回は森で眼鏡に敵う木材を調達出来た様で、
「丁度、そろそろ車輪のメンテナンスをしたかった所なのですよ。街道とは言え、山道や川の側などを通りましたしね。少しダメージが気になって来ていたのです」
と、荷台から木工用の工具を取り出しながらホクホク顔で作業を始めた。そして結局その森の側で二泊し、その間に車輪の修理だけでなく車体に荷台の補強を済ませ、更には余った木材で折り畳み式の簡素な椅子を二脚、それから板に脚を付けただけの、簡素だがこれまた折りたためるテーブルも作り上げていた。
これらは荷台の中では無く、荷台の横の壁に引っ掛けて持ち運べるように器具も取り付けられており、更にはレッド・アイ達のポーチを少し大型化させた物が前の方に取り付けられる様に改良され、持ち運べる量がさらに増えた上に、そのポーチには移動中でも取り出せる様に壺に入った水だの軽食代わりの食料も入れられる様になり、先に作られた休憩する際の椅子と食事が出来るテーブルまでセットになり、二人の冒険者の護衛が更に快適になったのである。
「いや、快適な護衛って何だよ……普通快適なのは雇い主で護衛じゃないだろ」
「ああ、真面目に他の護衛依頼出来そうになくなって来たわね……」
しかもこの少年の場合。
「あ、森で消炎剤とか熱さましの薬とか、傷薬に使えそうな薬草も見繕いました。どこか怪我していたり、手足が痛かったり重かったりする場合は言ってください。ペーストにしたので発布剤として使えます。脚とか手とかに貼って一晩もすれば痛みも疲れも取れる筈ですよ。遠慮なく使ってください」
これがある。自分で薬草を集めて自分で加工して製薬し、それを使って護衛の彼らのケアまでしてのけるのだ。
通常十日以上もかかる旅程の護衛だとどこかしらに疲労が溜まり、町や村でその疲労を抜くのに数日連泊する物だ。
だが、少年の場合は町で連泊する事が少ない代わりに、この様に宿営場所で数日連泊するうえ、宿屋よりも快適な寝床が用意され、食事も保存食主体なのに関わらず旨くて栄養豊富で体調が頗るいい。
しかも、多少疲れたとて疲労回復の薬に薬湯に今回の様な発布剤が自作で作れる為に無料で支給される。
「……以前、五十人規模のキャラバンの護衛に付いた事があるが、ココまで至れり尽くせりではなかったぞ……」
「当たり前よ……なんで雇用者一人しかいないのに、鍛冶師に木工職人に薬師に革細工に料理人まで完備の護衛が出来ているのよ、本当、色々おかしいわ」
間違いなく、町で冒険者をやっていた時よりも護衛旅の最中の今の方が待遇が良いし体調も良い。一週間(十日)仕事を休んでリフレッシュした時よりも断然体の動きが良い。
雇われ仕事をしているのに何で体調が良くなっていくんだ、と二人にとっては謎でしかない出来事だ。
これらのお陰でかなり移動速度が遅い行程でも、内緒にしてあるリヤカーもどきのコロ式ベアリングの性能と、大型犬サイズに擬態していて体力お化けである精霊獣の二体と、疲れ知らずの体調と快適な野外生活で、気が付けば普通に歩き旅をするのとほとんど変わらない行程で移動出来ていたのであった。
そうして、数日後には普通にこの国の国境地域に到達するのである。
「アレが隣国との境だな。検問所も勿論あるが……まぁ、そこまで手間は掛からないよ、クリン君」
「そうそう。あの国とこの国は友好関係にあるしね。と言うか国境と言った所で大雑把だからそこまで人の出入りに厳格ではないわ」
と、興味津々と言った様子で、遠目に見える国境に建てられた施設を見ているクリンに、元々隣国の出身である二人の冒険者が言う。
この二人の冒険者は互いに顔見知りでは無かったが、こちらの国で冒険者としてソコソコ稼げており偶々同じタイミングで帰郷しようとし、隣国までの護衛を欲していたクリンの事情を知った冒険者ギルドの受付が、二人を呼び寄せて引き合わせたのが最初だ。
同じ町の冒険者であったがそれぞれ別のPTに雇われたり、それこそブロランスの街のダンジョンに雇われて遠征したりと、それぞれに荒稼ぎをしていた状態で、面識は全くなかったのが、今回の護衛で意外と馬が合う事がわかり、二人して、
「「まぁ、同じクリン君の被害者だしな(ね)」
と、息の合ったコンビと化していた。
「被害者とは失礼な。コレでも依頼料が日程で換算したら安い自覚があるので、少しでも快適な旅が出来る様に配慮したのですよ?」
「配慮し過ぎだ! 今回の様な配慮してくれる依頼者が君以外居ると思うのか!?」
「快適過ぎて、国境が見えただけでこのガッカリ感よ! 次の依頼時がバカバカし過ぎて辛いのよ、解ってよ!?」
と語気も強く言われてしまえばクリンも何となくそれ以上言いにくくなり、仕方なく話題を変えようと、山道に変わった街道から見下ろす形で目に映る国境付近に目を向ける。
「しかし、アレが国境の検問所ですか……と言うか、何か普通に村じゃないです? 普通国境って何か壁とか砦とかで塞がれている物では無いのです?」
クリンがそう言うと、隣国出身者の二人は軽く肩を竦める。
「どこの紛争地帯の話だ。この辺の国は長らく国同士の戦争が起きていないから。アレは正しくこの国と向うの国の境にある村だ。検問は単に村から出て行く時の手続きをする為の場所だ。道を辿れば隣国の最初の村に辿り着き、そこが向うの国の検問所だ」
「え、普通に村なんです? 本当に?」
「ああ、クリン君は国越えをするのは初めてなのね。ほら、下手に国境を砦だの壁だので囲うと、魔物が暴走した際に真っ先に壊されるのはその壁じゃない。だから、一々囲っていたら管理費が洒落にならないのよ。だから、大体国境と言えば境に緩衝地帯を設けて、それぞれの国を繋ぐ街道のアッチとコッチで侵入者や魔物なんかの対応が出来る様に集落や村を作るのが一般的なのよ」
「ああ……成程、言われてみれば魔物と言う脅威があるこの世界だと人の出入りを監視するよりも行き来しやすくして人口を減らさない様にする方に頭が行くのか……」
この様な方法だと、隣国からスパイだの犯罪者だのが入り放題ではないか、と思いがちだが、危険な魔物が存在する世界だと、そもそも正規ルート以外から出入りするのは自殺に等しい。デミ・ゴブリン程度であっても、群れで襲われたら結構危うい。
その為、正規の手続きを行って街道を行き来するのが基本であり、そうすると意外と工作員とか間諜とかは目立つ。
ただの旅行者には必要のない機材や道具類を持ち込まないと、その手の工作は難しいので割とバレてしまうのだ。
非正規ルートは魔物の存在のお陰でギャンブルでしかないので確実性が無い。だからこの様に緩い検査で、他国の人間が出入りできたりしているのがこの世界なのであった。




