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神に誘われて異世界転生してみた物の、良かったのか悪かったのか微妙ですが、概ね楽しく生きています。  作者: 一一
第十三章 冒険鍛冶師 三度目の準備編

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第504話 宿場町にて。



 その日のクリン達の旅は概ね順調であった。日の出の少し後に野営地を発ち街道を進み昼の鐘が鳴る頃(大体十二時)にレッド・アイとミスト・ウィンドの休憩と冒険者二人の水分補給と体力回復を兼ねた軽食――塩漬け肉と乾燥野菜と昨日の残りの野草を入れたスープと薄焼きパンの簡素な物であるが――を摂り、その後も街道を進み、午後の鐘から一時間と少し(大体午後四時過ぎ)に予定していた宿場に着き宿を求める。


 時期的に晩秋でありそろそろ旅人の減る時期であったので割と手軽に宿が取れている。勿論それは冒険者がクリンの代わりに交渉したお陰である。


 なのだが。この宿での宿泊が「概ね順調」の、僅かに順調では無い部分になる。


「なぁ、クリン君……毎回コレでは我々が雇われている意味が無いと思うのだが」


 クリンが雇っている冒険者、通称LLコンビの内の一人ラックが心底呆れた様に言う。だが当のクリンはシレっとした態度で言う。


「いえ、毎回では無いですね。これまで宿屋に泊まれたのは今回コレで五回目。今回が四回目なので、一回は違います」

「一回でも何回でも、大した差はないわよ。と言うか、どう考えても雇い主が『ココ』で、アタシらが『アッチ』なのはおかしいでしょう?」


 バッサリとLLコンビの片割れ、ライラが不機嫌な顔で切って捨てるが、クリンは気にした様子も無い。


「そう言われましても。最初の契約で『宿代は僕持ち』とありますから、お二人には宿に泊まれる時は泊って頂かないと」

「いやまぁ、確かにギルドで交わした契約ではそうなのだが……」

「そうなんだけどね、コレは幾らなんでもアタシらにとっては聞こえが悪すぎるのよ」


「や。そう言われましても。レッド・アイとミスト・ウィンドを部屋に入れられないと言われてしまえば仕方がないので……ご理解いただきたく思います」


 と、クリンがリヤカーもどきの荷台に寝具を用意しながら言う。


 そう。クリンが泊るのは宿の部屋では無く、馬小屋の片隅に置かせてもらった己のリヤカーもどきの中だ。尚、今回は外に馬やロバを連れた客はいない様で、クリンの貸し切り状態である。


 何故馬小屋かと言えば、当然の様に、


「宿の部屋にレッド・アイ達は勿論、ナッ太郎もドンナーフォーゲルも入れてはダメだと言われてしまえば、僕もこちらで泊まるしかないので」


 こう言う理由である。どんなに賢かろうが、実は普通の動物ではなく精霊獣の団体様であろうが、宿の人間からしてみればやはり犬猫に鳥なのだ。


 一緒に泊まれる事自体が珍しく、大体は精霊獣達は旅行者が連れ歩く馬の為の馬小屋か家畜を連れ歩く旅人の為の家畜小屋に泊まらせられる。


 クリンとしては正直、一緒に泊まれないのなら態々部屋を借りる必要性が無く、こうやってそのまま馬小屋を間借りして寝泊りしている。


「だがな、クリン君? よ~く考えてくれ? 雇われているのは我々だぞ? その我々が宿の部屋で寝泊りして、雇い主である君が馬小屋で寝泊りすると言うのは、幾らなんで無いと思わないか? と、言うか、部屋に泊まらないで馬小屋で寝られたらそもそも我々が雇われている意味が無いじゃないか」

「しかもクリン君は明らかに見た目が子供でしょ? これ、絵面的にはアタシ達が宿代ケチって子供を馬小屋に押し込んでいる構図よね?」


 これこそが二人の冒険者が今現在苦い顔をしている所だ。クリンが言った様に、旅の最中ずっと野営している訳では無く今回も含めて五回は宿に泊まっている。


 一件だけ「大部屋を借り切ってくれるのなら犬猫を入れても良い」と言う宿があり、そこで初めてクリンは宿の部屋に泊まったのだが、それ以外は大部屋でもダメだと断られてしまい、こうやって本来馬車や荷車を停める場所や馬小屋を借りてそこで寝泊りしている。


「僕からしてみれば、お二人が居なければそもそも宿場や村とかの敷地内で寝泊り出来なかったのですから、馬小屋が借りれるだけで十分契約内容を履行してもらっています。しかも、お陰であんなノミだらけの藁ベッド……ゲホッゴホッ! 馬小屋は餌を出してもらわないのであれば格安ですからね。あんなので金取られるとかふざ……ゲホンゲホン! 安く済むのですから、僕的にも有難いです。どうぞ、お気になさらず、あの不潔……じゃない、快適な宿屋ライフをお楽しみください」


 と、にこやかに冒険者二人に向かって言う。


「……ああ、解って居たが、それが本音か」

「……全く。でも気持ちは解るわ。アタシらも見張りが要る宿営の時は交代で寝かせて貰ったけど、どう考えても宿のベッドよりもその荷車の荷台と寝具の方が寝心地良いもの」


 裕福な商人が泊る様な宿屋だとまた話が変わるのだが、彼等の様な冒険者が泊れる宿など、やはりたかが知れている。硬い床に申し訳程度の藁が敷かれた寝床か、何年物か分からない敷布が置かれただけの物がベッドと称して置かれている。


 以前まではこの冒険者二人も、平気でその様な宿に泊まっていたのだが――コレもクリンに雇われた弊害と言う物。


「ああ……何で宿に泊まれる方が罰ゲームな気分になるんだ……」

「本当よ。何ならワタシ等も何時もの天幕を展開してもらいたい位よ。あそこにゴザってのを敷いて貰って更に敷物を敷いてレッド・アイちゃんとかに抱き着いて寝る方が余程暖かくて寝心地良い物ね」


 囲いのある馬小屋なら、下手をすれば天幕ギミックを展開すれば十分宿屋の部屋並みに雨風が塞げて、更には水と石鹸で体が洗えて清潔に寝れる。


 だが宿の部屋ではそうはいかない。直接風は入らないが隙間風は入るし、基本ベッドには掛物が無く、自前の服や外套を被って寝るだけ。


 そして、頼めば体を拭く水と布を貰えるが勿論それは有料な上に温めもしないただ井戸水だの川の水を汲んだだけの物だ。布は誰が使ったのか分からない様な代物で、下手したら垢塗れでネトネトしている事も有る。


「フヒヒ、皆様のお陰で僕も宿場の敷地内で泊まれる上に、屋根の有る所に寝られるのです。しかも安宿とは言えあんなのに銀貨一枚(千円)も出した上に食事が別料金とか冗談じゃないですから、銅貨三枚(三十円)で済むこちらの方が有難い限りですよ。ささ、僕の事は気になさらず。折角二人で銀貨二枚も宿代を出したのですからゆっくりと休んできてください。あ、お食事代として銅貨二十枚(二百円)も付けるので美味しい物でも食べて英気を養ってくださいね!」


「ああ、この腐れ雇用主! こんな場末の宿場の飯なんてクソマズい塩スープと臭いパンと酸っぱいエール位しか出ない事解っていて言ってやがる!」

「ずるいわよ! どうせクリン君の事だからそこの裏庭かりて夕食作るんでしょ!? アタシもそっちの方が良いに決まっているじゃないの!?」


 既にすっかりと胃袋を掴まれている冒険者二人が抗議するが、当の少年はどこ吹く風でニッコリと満面の笑みで死刑宣告を告げる。


「ですが、ギルドでの契約が契約ですから。僕も、コレでも商人の端くれなので契約は守らないといけません。それに、客がいないので宿屋の人も張り切っていますからね。ここで食事無しの素泊まりとかでは向うも商売あがったりでしょう。僕の分までお二人には楽しんで頂かないと、僕が困ります。じゃ、そう言う訳で!」


 シュタッと手を揚げて言い切ると、クリンは尚もブーブーと文句を言う冒険者二人を馬小屋から追い出し、恨めしそうな顔の二人が宿の中に入って行くのを見届けた後、荷台から携行用七輪を取り出し二重底の燃料保管スペースから炭を移して、馬小屋の裏のスペースで夕食の準備をする。


「ふははは、お二人には悪いですが、あんな部屋に金出すと思うだけで腹立たしい。ちゃんと宿場に入れるだけでお腹一杯ですから、お二人には人身御供になってもらいましょうかね、フヒヒヒヒ。それにいい加減、椿とナッ太郎もドンナーフォーゲルも、隠れてコソコソ食事するのは面倒でしょうからね。ノンビリと食事出来る時間も息抜きとしては必要でしょう、うん」


 何よりも、馬小屋なら馬やロバに飲ませるための水場として井戸がある。ここなら湯を沸かして自分だけ、風呂は無理だとしても温かいお湯で体も洗える。


 むしろ、クリン的には最初から宿に泊まらずにこの様な場所だけ借りれる方が有難かったのだったりした。





 そして一夜明け、例によって日が昇る前に起き出したクリンは宿場の中であるのに誰憚る事無く今日売る為の薬の作り足しを行い、朝の鐘(六時)が鳴った後に我慢できなくて突撃してきた冒険者二人と、結局宿屋の朝食ではなくクリンの作る朝食を食べ、午前の鐘が鳴る頃にはこの宿場町を束ねる宿長の元に向かい、作った薬を売る算段を付ける。


 ブロランスに居る時に二度ほど立ち寄ったあの酪農村での経験から、この様な小さい宿場町では店に売るよりも代表者に売りつける方が早いと考えた為である。


 そして、その考えは当たっていた様で、新しく作った薬とブロランスの街から持ち込んだ幾つかの薬と纏めて売れた。


 今回クリンが売ったのはこれから冬に向かうと言う事で、前の野営地で見つけてから作っていた咳止めとのどの痛み止め用の丸薬――どちらも口の中で噛んで砕いてから水などで飲む物で、効果が分かりやすく即効性もある為クリンが子供であってもその腕の確かさは直ぐに宿長にも理解され、冬用の備蓄としてそれらは元より、ブロランスの街から持ち込んだ定番の外傷用の塗り薬と抗炎症剤、そして解熱剤と正露丸もどきもお買い上げしていただいた。咳止めと喉の薬は作った分が全部、そして定番の薬はクリンが出した分だけ全部買われた。その総額は銀貨七十四枚(大体七万四千円)であり、護衛として着いてきている冒険者二人が、


「おいおい、ほぼ俺等一人分の依頼料を稼ぎやがったぞ、この時間で……」

「マジ!? え、薬は高いけどココまで売れる物なの!? って、本当にこのままなら国境を超えるまでにアタシらの依頼料稼ぎ出せちゃうんじゃない!?」


 と目を丸くしていた。


 この宿場にも薬師はいるのだが、咳止めと喉の薬はハーブを煎じただけの物しか作っていなかった為、即効性が気に入られて持っているその他の薬も全部買われそうになり、


「いや、出来ましたら道中の路銀にしたいので、全部買われたら困るんですよ」


 と、断りを入れる程の勢いで有った。こうしてあっという間に商談を終わらせたクリンは、宿場の店で大麦とライ麦、そして乾燥野菜や漬物、塩漬け肉に干し肉などの保存の効く食糧に塩や酢などの調味料を買い足したのだが、それでもこの宿場で予定していた事は昼の鐘(十二時)前には終わってしまった。


「うぅん……何か半端な時間になってしまいましたね。今から宿場を出ようと思えば出られるし……でもまぁ、別に急がないから予定通りこ宿場でもう一泊……」

「いや、出れるなら出よう! 無駄にもう一泊あんな宿に金を払う必要はない! ショユーも無い飯はもう食いたくもない!」

「そうよ、今からなら日が暮れる前に野営地に着く筈! ミッソーも無い汁なんて冗談じゃないわ! 折角食料買い足したのだから、美味しいご飯が食べたい!」


 と、二人の冒険者に急かされてしまい、


「……宿屋のご飯よりも宿営のご飯の方が美味しいとか……普通逆じゃないです?」


 クリンが呆れた顔でいうが、二人の冒険者は「「解ってて言っているだけに質が悪

い」」と言い捨て、クリンを急かして結局昼の鐘が鳴る前に街道に踏み出して行ったのだった。


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