第503話 そして続く旅路。
今日は少し短めです。
……ココの所毎回6000文字とか5000文字とか書いていたので4000文字が短く見えてしまう罠(ノД`)・゜・。
クリンが野営地で保存用の乾麺と取って来た野草で作ったケンチンうどんモドキは、旅出す際に密かに持ち出していた秘密兵器、醤油を用いた為に少年にとっては懐かしく、椿や精霊獣達、冒険者の二人には斬新な味付けとして好評を博していた。
「このショユーと言うのはこの依頼で初めて口にしたが……最初は独特の癖が気になったが慣れてしまえば実に味わい深い。干し肉と野草が入っているとは言え、汁かけパスタがココまで複雑な味に化けたのはやはりショユーの力なのだろうな」
クリン手製のケンチンうどんモドキの汁の最後の一滴まで飲み干したラックがしみじみとした声音で言えば、
「普通は野営で味わえる味じゃないわよねぇ。ショユー自体に旨味が強いのか、入れただけで塩スープとは全く違う深みがでるのだから、このショユーも色々とズルいわよ……」
ライラも汁まで飲み干して悔しそうに言ったりしている。二人にとって醤油は未知の味だが、十分口に合った様だ。
「この依頼が終わったらショユーの無い生活に戻るのか……」
「ミッソーもね。汁物なら下手したらあちらの方が味が深いもの……ああ、今更ながらこの二つの調味料があるだけでクリン君の依頼は天国ね……依頼完了したら地獄が見えそうだけどね……」
と、何れ来るであろう目的地への到着に、本来喜ぶ筈なのに憂鬱になっている冒険者の二人であった。
因みに、味噌もキッチリ持ち出している。そのどちらも自分と精霊獣と小人達だけで楽しもうと思っていたのだが、急遽二人を雇う事となり、暫く内緒にしてコッソリと自分達だけで楽しんでいたのだが、匂いで二人にバレてしまい仕方なしに振舞って以降はもうあきらめて定番の味付けとして二つとも使用している。
「このまま、道を間違えたフリして遠回りするか?」
「いいわねそれ。その場合は依頼料減るかもだけど……」
「別にいいだろ?」
「そうよね。それ以上の魅力が多すぎる仕事だしね」
と、やや怪しげな会話をし始めているLLコンビを他所に、クリンは夕食の後片付けをし、食器の濯ぎを兼ねて麦湯を淹れて二人が食べていた食器に注いで出す。
こうすれば余計に水を使う必要も無く使用した食器も綺麗になるので、旅の最中では良く行われる工夫だ。
もっとも、その場合は麦湯では無く酒が注がれるだけだが。
この辺りの地域は水が悪い事が多く、水分補給はもっぱら酒である。特にこの様な場合は薄いワインか、酒精の低くて麦の粒が多く残っている前世日本の甘酒に近いエールなどが好まれる。
クリンの様に麦を使っても茶を出す様な事はほぼ無い。お茶も全く飲まれていない訳では無いのだが、この辺りに茶ノ木は自生しておらず主に輸入に頼っており、しかも高価なので基本喉と整腸作用のある薬として一部の金持ちに飲まれる程度だ。
二人の冒険者がそんな高価な物など口にした事など有る訳が無く、最初クリンがお茶の一種と称して麦湯を出した時に盛大に焦っていたのだが、ただ大麦を乾煎りしただけの物だと知ると「勿体ない、エールにすればいいのに」とどこかの老婆の様な事を言いつつ飲んでいたのだが、今ではすっかり慣れ二人の密かな食後の楽しみとなっている。
麦湯を楽しんだ後にはもう日が落ちており、寝るだけになる。だがクリンはその前に集めてきた薬草類の処理に掛かる。
とは言っても軽くすすいで蔓紐で結わえ、簡易竈に薪をくべ直してその近くに枝を立てて引っ掛けて乾燥させるだけだが。
そして、人気が無いこの日はラックとライラも夜営の見張りを免除され、ゆっくりと休む事が出来たのである。
そして翌日。リヤカーもどきの左右に展開された簡易テントでそれぞれ寝ていた冒険者の二人は、まだ日が昇る前から先日にクリンが作った簡易竈の方から「ゴリゴリ」と何かをすりつぶす音や「ボコボコ」と湯の湧く音が聞こえ目が覚める。
大体同じタイミングで目覚めた様子で、天板の横にイ草ゴザを巻いただけの簡易天幕から抜け出し、ぼんやりとした顔を突き合わせる。そして――
「やれやれ、今日もか」
「ええ……また出遅れたわね」
と、眠い顔をしながらも互いに肩を竦めると、昨晩の簡易竈の方に歩いて行くと、
「おや、おはようございます。ええと……もしかしてまた起こしてしまいましたか?」
竈に薪をくべ直しその火を明かり代わりに、これまた拠点から持ち出していた自作の薬研でゴリゴリと昨晩乾燥させた薬草を潰して、竈に鉄鍋で湯を沸かしていつぞやのドーナツ型のタジン鍋モドキで蒸留水を作り、その蒸留水で粉末にした薬草を練り合わせて丸薬らしきものを製作中のクリンが二人に挨拶をして来る。
「ああ、おはようクリン君……しかし、本当に朝が早いな。と言うか、何度も言うが俺達はコレでも護衛なんだ。護衛よりも先に起きて作業されたら立つ瀬がない」
「本当よ。ただでさえ優遇されているのに、依頼主よりも後から起きる護衛なんて、他の冒険者に聞かれたら顰蹙物よ。何度も言うけど作業する時はちゃんと起こしなさいよ」
と、二人が挨拶と共に不満気に言って来たのに、クリンは苦笑を浮かべながらも作業の手を止めずに二人に答える。
「ええまぁ……そのお気持ちはわかるのですがね……その、何と言いますか……職人なんてものは気まぐれなので、最初は作業する気が無く単に習慣で日が昇る一、二時間前に目が覚めただけでも、急に思いついて作りたい物が出てきたらつい作ってしまう物なんです。そうすると、起こそうって頭がスッパリと……ねぇ……」
「確かに、鍛冶とか木工とかの職人は朝が早いと聞くけどな。それにしても早過ぎるだろう。どうせ日がでないと道が暗くて先に進めないのだからもっとゆっくりすればいいのに」
「全くよ。あたし達冒険者も朝は早い方だけどさ。それでも朝の鐘(午前六時)が鳴る寸前位よ、起きるの」
「アハハハ、スミマセン。どうにも貧乏性でして……日が昇る前に起きて一仕事を終えないとどうにも落ち着かないと言うか……」
と笑いながら誤魔化す様に言う間も、全く作業を止めようとしないクリンである。
「やれやれ……解っては居たが、俺達の今回の依頼主様は少々ワーカーホリックが過ぎるな。護衛される側の方が護衛する方よりも仕事するとか勘弁してほしいな」
「ええ本当に。と言うか、街で職人って連中を何人か知っているけど、行動パターンが殆ど同じなのよねぇ。九歳でコレだと、成人したらどうなるのかしら」
呆れた顔の二人の護衛に、クリンは「良く言われます」と言いつつも、結局は日が昇る少し前に丸薬作りが終了するまで作業の手を止めることは無かったのである。
そして。その間、レッド・アイとミスト・ウィンドは少年の隣で丸くなって寝ており、ナッ太郎は遠慮なく簡易テント化したリヤカーもどきの上でヘソ天で寝ており、その横ではドンナーフォーゲルも自分の羽の間に顔を突っ込んで寝ていた。
そして――二人の護衛に存在を知られていないのを良い事に、こちらも護衛としてついて来た筈の小人族の少女はクリンのフードの中でスヤスヤと眠っていたのである。
結局。護衛と称している者達よりも早く起きて仕事をしてしまうのは、今に始まった事ではなく、拠点で暮らしていた頃から変わらない行動であったのである。
そして周囲が薄明るくなる頃、一仕事を終えたクリンは薬草の処理をしていた道具類を仕舞い、代わりに鉄鍋で朝食を作り始める。
この時分になれば、眠そうであった二人の冒険者の目もバッチリと覚め、少年が料理する匂いに釣られて精霊獣と椿も起き出して来る。
今回の朝食はブロランスの街を旅立つ前に野菜売りのオヤジの所から分けて貰った中粒種の米と、去年から仕込んでいた味噌を使った味噌粥だ。
とは言っても、これまで何度かレイシィと呼ばれるこちらの米を食べる内に、日本風の調理には今一合わない事を理解したクリンは、塩漬け肉を夜の内から塩抜きして刻んだ物と、昨日の残りの野草に保存しておいた食用ラードを少量入れた、味噌でありながらどことなくエスニック風のレイシィ粥であったが。
クリン的にはやはり大して旨くない米を、これも熟成が足りない為に少し物足りない味噌に、脂をぶち込む事でコクを加えて野草と持って来ていた乾燥香草類を混ぜることで何とか「不味いけど十分食える」と言う程度の物でしかなかったが、味噌と米の組み合わせ初心者である精霊獣様と小人の少女、そして冒険者コンビには大いに気に入られた様子で、お代りまでされていた。
朝食が済んで後片付けと簡易テントの解体を終える頃には、丁度道の向こうの方から太陽が姿を現してきた。
「さて。それじゃぁ出発しましょうか。この調子だと今日は次の次あたりの宿場町で泊まりになるでしょうかね?」
クリンがリヤカーもどきの荷台に乗り込みながら護衛の冒険者に声を掛けると、二人は頷き返して来る。
「そうだな。レッド・アイとミスト・ウィンドの移動速度ならそれ位かな」
「ええ、途中で余計な手間がかかる様な事が無ければその先まで行けそうだけど」
「まぁ、そんなに急いでいる訳でもありませんし。それに、ちょっと食料と水を補充したいのと、丁度売れそうな薬も作れましたからね。この辺りの情報収集も兼ねて売りさばきたい所なので、今日はその宿場を目指す予定です」
クリンがそう言うと、二人は「解った。ではその予定で今日は進もう」「依頼者の要請じゃ断れないわね」とそれぞれに笑いながら言い、そのままレッド・アイとミスト・ウィンドが牽くリヤカーもどきの左右に分かれて立つ。
それを見送ったクリンは、
「では。今日も楽しい旅路の始まりと行きましょう!」
元気よく明るい口調で言い放ち、野営地を後にするのであった。
ヌルりと醤油と味噌テロを仕掛けていたクリン君でありましたとさ(´_ゝ`)




