第502話 それは冒険者にとっては反則業のオンパレード。
遅くなりました。
だが、本業の繁忙期にプチ風邪の体調不良も何のその。
書きたい病の方が強かった(´_ゝ`)
目的の野営場所に到着したクリンは周囲に誰も居ない事を確認した後、早速野営の準備に取り掛かる。
冒険者の二人は基本移動中の護衛と街や村に入場する際と宿を取る際の交渉と手続きだけが仕事であり、それ以外の野営の設営や構築、料理などは全てクリンが行う契約内容であったので手伝う事は無い。
と言うよりも手伝う事が殆ど無いと言うのが正確だ。野営の準備もレッド・アイ達とリヤカーもどきを繋ぐハーネスを取り外し自由にした後、リヤカーもどきを水平にして前部の足を延ばして地面に固定し、車輪の後にストッパーとして石なり小枝なりを置いて動かなくすれば、後は荷台の四隅に積んである柱を四本立て天張りの代わりにロープを張って四方を囲えば、後はその上に布を被せれば即席のテントになる。
後はその布を風で飛ばない様に端を紐でリヤカーもどきの荷台の横板に止めてしまえば、荷台には人が横に成れるだけのスペースが十分あるので寝床の完成である。
寝床が出来れば、後はその辺で適度な大きさの石を拾って来て円形に並べれば、コレも簡易竈の完成である。
ここまで出来れば、拠点に居た時に作っておいたイ草の敷物を敷いてしまえば食事と休憩スペースの完成である。
その間僅か十分程度だ。後は野営地の側に生えている木林から良さげな落ち枝を拾って来るだけで良い。
最悪良い落ち枝が無ければ、ハーゲンの為に作った屋台型リヤカーもどきにも付けてある二重底になっているスペースから、積み込んである炭を使えば燃料も十分。
最も旅の最中では補充が簡単に出来ないので、出来れば枝を拾って使いたい。クリンがそんな事を考えていると、アッと言う間に完成してしまった宿営場所に、二人の冒険者は互いに顔を見合わせて苦笑する。
「やはり、何度見ても『コレ』は慣れないよなぁ。荷車がそのままテントになるし、野営に必要な物は全部そこに積んであるわ、その必要な物を出してしまえば普通に寝床に成るとか、こう、何というか……色々ズルいよな、君は」
「全くだわ。しかも移動中はアタシらの荷物はその荷車に積んで身軽で移動できるわ、その積んだ荷物を下ろせばアタシらで横になれるとか、何の冗談よって話よね」
彼等も依頼で何度も野営などを行う機会があったが、決してこんな十分程度で準備が終わる様な事は無い。
「元々このリヤカーもどきは、その為に設計して作った物ですからね。僕自身はナイフが有れば、その辺の落ち木で一人が入れる程度のシェルターを作れますが、材料が無いとそれも無理ですし、有ったとしても相応に時間は掛かりますからね。その対策として作ったのですから寧ろこれ位出来なくては困ると言う物です」
「出たよ野生児発言。普通はナイフ一本で野営できる小屋なんてそう簡単につくれんのだぞ、クリン君……」
「と言うか、九歳でそれが出来るって、何度聞いても冗談にしか聞こえないわ。しかも実際に作れる所見ちゃっているから尚更タチ悪いし」
実は旅の最中、野営でこのリヤカーもどきで野営した際、簡易テント化させても結局一人ずつしか中に入れない為、何度かクリンが二人の為に簡易シェルターをリヤカーもどきの隣に建てている。
それを見ている為に、実は本気でこのリヤカーもどきが無くても一人で野営出来てしまう事は二人にも既に周知の事だった。
「最も、当初は同行者を想定していませんでしたから、荷台部分が大人二人並んで寝られる程に広くしなかったのが、今となっては悔やまれる所ですね」
「いやいや。確かに荷台では寝れないが、今はもう『コレ』があるし十分だと思うよ?」
「そうよ。あの時『コレはいけません!』とか言って物凄い勢いで改造して作った『コレ』で十分よ。そもそも護衛依頼でアタシらに雨露凌げる場所があるだけ天国よ天国」
「ああ、全くだよ」
二人の冒険者は互いに顔を見合わせながら苦笑している。彼等の言う『アレ』と言うのは、最初の野営で彼等が交代で見張をする際、クリンが荷台で寝てしまうと交代しても彼等は野晒しで休まなければならない事に気が付いた際に取り付けた機能の事だ。
同行を全く念頭に無かった為その備えが無く、簡易的に雨風を凌げるような場所が無いと冒険者のパフォーマンスも下がってしまう事に気が付いたクリンは、その時の野営地が森の側だったのを良い事に、急遽森から木材を集めて、ハーゲンの屋台に着けたのと同じ、リヤカーもどきの側面に板を取り付けてそれが展開する様に細工をしたのが改良点だ。
屋台として客用テーブルとしての機能は必要ない代わりに、ハーゲンの物とは違い少し高い場所で板が展開する仕様にし、展開させた板を屋根に見立ててついでに枝を加工して支柱として差し込んで板を固定出来る様にし、左右を余っていたイ草のゴザモドキで囲える様にすれば、立てはしないが座ったり横に成れる程度のスペースは確保できた。
コレを左右両方に取り付けてあるので、今ではそれぞれをどちらかの占有スペースとして使い、同時に休息が出来る様になっている。
「しかし、九歳で旅をしようなんて、そりゃぁこんな真似が出来るのだから、考えられるのだろうなぁ。何だよ、必要な物はその場で作るか改造するって。そんなの大人でも出来る奴見た事無いぞ?」
「本当よね。最初は九歳で一人旅とか、どんな頭のイカレた子供かと思ったけどさ。これ、本当に一人で旅できるよね。しかもワンちゃんと猫ちゃんに鳥さんも見張りとしては優秀だしさ。他の旅人に同行者がいるって宣伝以上の意味は無い気がするのよね、ウチら」
ここまでの旅は、この二人の冒険者にとっても過去に例が無い程に快適その物であった。何せ雇い主の少年が連れている二匹の犬は元より猫に鳥も相当に勘が良く、二人が気が付くよりも先に外敵に気が付いて警告の鳴き声を上げて来る。
その為、野営の時に同じ場所で野営する人間が居なければ、交代で見張りをしなくてもいいとまで言われる始末だ。
人が居れば、見張りが居ないと解ると魔が差す者も出て来るので一人だけでも見張りに付く意味があるのだが、人が居なければ何かの気配が有れば犬や猫、鳥の方が先に気が付く。冒険者達は彼等が精霊獣である事に気が付いていないが、それでも動物の勘と言う物だと認識して信頼している。
その為、今日の様に行きずりに居合わせる旅人が居ない時は二人共、クリンが新たに魔改造して作ったスペースで一緒に休む事が出来るのである。
交代出来るとは言え相応に睡眠時間は減る為に、やはり纏まった時間体を休められるのであればその方が良いし、何よりも日中のパフォーマンスが違う。
しかも少年の場合は。
「じゃ。まだ日が落ちるまで結構ありそうですし、丁度木林もある事ですし薪と食べられそうな物をちょっと探してきますね」
これがある。普通なら大体午後の鐘が鳴る頃(十五時位)に野営の準備にはいり、終わる頃には大体一時間から二時間は経っており、直ぐに宿直の準備に入るのが一般的だ。
それを僅か十分二十分で終わらせ、余った時間で森や林があれば、こうやって分け入ってその場で食料に燃料まで集められる。何なら水場が有れば水も汲んで来る。勿論、水自体はリヤカーもどきの炭を積んでいるスペースに壺ごと入っているのでなくても問題ない。
最初の頃こそ、依頼者自らが単独で動くだけでなく森林に入るなど、それも一桁年齢の子供がやるなど言語道断せめて護衛としてどちらかを連れて行くべきだと少年を嗜めていた冒険者二人だが、
「ええと……僕は三歳から森に入っていますので……失礼ですがお二人に着いて来られる方が却って足手纏いになるので、出来れば……あ、勿論街道ではお二人の意見を優先しますよ? ですが森の事は僕の方が慣れていると思うので」
と言われ、実際に二匹の犬のどちらか片方を引き連れ森や林に入り、サックリと薪に出来る落ち枝や薬草、野鳥や野兎、酷い時にはファングボアに鹿などを小一時間程度で持ち帰って来る上に、量が多ければその場で背負子を自作して余す所なく持ち帰って来る始末に、二人が口をあんぐり開けて呆けて以降、黙って見送る様になっていた。
この日も「そうか、気をつけてな」「あまり集め過ぎてまた荷車に乗せられない位にしたらダメだからね」とそれぞれ言うだけに留まっている。
そしてこの時は三十分強程で即席背負子に薪を山積みにし、腰には野草や薬草の様な物を蔓紐で結わえてぶら下げて帰って来た。
「残念ですが丁度いい獲物はいませんでしたね。ただ、食べられる野草や香草を見つけたので、それを使って夕食を作りましょうか」
クリンは戻ってくるなり二人に向けて言うと、先程作った簡易竈に集めてきた薪を適当に放り込み、
「着火!」
初級魔法で火を点けると、荷台から鉄鍋を引っ張り出し、二重底の扉を開いて壺から水を注ぎ入れて火にかけ湯を沸かし始める。
「ふむ……この時期だからまだ持ちそうですが……そろそろ乾麺も使い切りたい所ですね。夕食は干し肉と野草の肉入りケンチンうどんモドキにでもしましょうかね」
一人でブツブツと言いながら、てきぱきと料理の準備を始めたクリンを、一応護衛の名目がある為少し離れた場所で周囲を警戒しながらも、見るとは無しにその様子を見守っていたラックが傍らで自分とは反対方向を警戒しているライラに「なぁ」と声を掛ける。
「何よ?」
「お前さ……この依頼が終わった後、護衛依頼受けられる気がするか?」
「多分無理ね。この季節に温かい食事を出してくれる時点で相当おかしいし、こんな楽な護衛と野営経験しちゃったら、野外行動の依頼自体がキツいと思うわよ」
「だよなぁ。しかもその場で取れた野草で料理とか、それは野営じゃなくて遊興だよなぁ……それに夜に丸々寝れる野営なんて普通は無いしな」
「しかも初級でも魔法まで使えて火起こしも必要無ければ水の用意も要らないとか、同業者に話しても信じてもらえないでしょうね」
「だよなぁ……アレで九歳だって? ある意味年齢詐欺だよな、全く。しかも雇い主としてもこちらにあそこまで気を掛けてくれる依頼者なんてそう居ないぞ?」
「そうよねぇ……そう言う意味だと、依頼自体受けるのが嫌になって来るわね」
「だよなぁ……子供でアレなのに大人がアレを出来ないのか、とかつい考えてしまいそうで、後が怖すぎる」
二人は一瞬顔を合わせ――「困ったもんだ」「困った物ね」と肩を竦め合うと、少年がせわしなく料理を作る音をBGMに、あまり意味の無さそうな護衛に励むのであった。
旅のお供に、1PTに1クリン君。
コレで貴方の冒険ライフも超快適になります。
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